NTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は6月4日、NTTドコモが保有するデータや知見などを活用してマーケティングを支援する事業の本格展開を開始することを発表し、記者説明会を開いた。NTT Comはこの事業により、データやテクノロジーと人間の経験が共存する「マーケティング5.0時代」のCX(Customer Experience:顧客体験)向上を支援する。

マーケティング支援事業の背景

近年はスマートフォンを中心としたデジタルツールの利用が進み、ユーザーの購買や移動に関する履歴など多量のデータを収集できる。多様かつ細分化するユーザーの嗜好に対応するため、データやAIを活用したマーケティングへの需要が高まっているが、データ利活用のノウハウを持った人材不足などが課題とされる。

こうした課題に対し、NTT Comはデータの収集や分析、施策立案、実行、改善まで一気通貫で提供することで、顧客企業のデータ利活用ノウハウの有無にかかわらず効果的なマーケティング活動を支援する。

マーケティング支援事業の概要

今回本格展開を開始するマーケティング支援事業では、NTTドコモグループとして保有する顧客データやSNSのデータ、企業や自治体が持つデータをそれぞれ組み合わせることで、顧客体験の創出と最大化に貢献するという。

  • マーケティング戦略支援の全体像

    マーケティング戦略支援の全体像

具体的には、NTT Comが新設したマーケティングインテグレーション推進室が主導し、自治体や企業のマーケティングをサポートする。マーケティング戦略策定支援では、顧客の事業成長につながる目的の設定から施策の定着などを支援する。ペルソナ策定からユーザー体験のデザインに落とし込み、課題解決の方針やKPI・KGIなど施策のプランニングにつなげる。

  • 戦略策定支援

    戦略策定支援の流れ

また、顧客データ基盤構築においては、NTTドコモが保有する会員基盤と顧客が持つデータなどを組み合わせてデータ蓄積を促す。また、従前からドコモグループ内で持っているSIerの知見を使ってシステム構築なども手掛ける。日本ラグビー協会との取り組みでは、サービスごとに分かれていたIDを統合しデータ分析基盤を構築。既存のファンのみならず新規会員の動向なども捉えて、ファネルごとにマーケティング施策を実施する土台を作った。

  • 日本ラグビー協会との事例

    日本ラグビー協会との事例

データ分析の段階では購買データの可視化や自治体への来訪者の動向、パネル調査などを実施する。企業や自治体が保有するデータとNTTドコモが持つ1億人のdポイントクラブ会員のデータやサードパーティデータを組み合わせることで、より効果が見込めるマーケティング施策が期待できる。

  • データの連携と活用の例

    データの連携と活用の例

顧客接点の高度化としては、顧客へのレコメンドをはじめとする広告・プロモーションの最適化、コンタクトセンター応対、NTT Comが開発を進めるデジタルヒューマンなど、オンラインとオフラインを横断した施策により、データにもとづく営業戦略の策定や人材育成など施策実行段階をサポートする。

  • 施策実行段階の高度化を支援

    施策実行段階の高度化を支援

顧客接点高度化のデモンストレーション

説明会では、顧客属性を捉えた広告配信のデモンストレーションが披露された。このサービスは顧客接点の高度化を目的とするもので、事前に登録した顧客の顔認証データやアンケート調査の回答結果から、その人に適した観光地やサービスをレコメンドする。

顧客接点高度化のデモンストレーション

広島県ではインバウンド向け観光施策に一定の効果を確認

広島県観光連盟(以下、HIT)、早稲田大学、インテージ、電通総研、NTT Comは2025年3月より、データを活用した観光マーケティングの実証実験を広島県で実施。先行してインバウンド観光客の動態把握に着手している。

既存のオープンデータに加え、NTT Comが提供するモバイル空間統計やNTTドコモの会員基盤データ、電通総研が提供するソーシャルアナリティクスツール「QUID」を活用したSNS分析のデータを組み合わせ、観光客の動態やSNS上での評価などを可視化した。

その結果、広島県はイタリアやスペインからの来訪率が高いものの、約30%の人が日帰りしていることが明らかになった。HITの山邊昌太郎氏は「これまでスペインやイタリアは重視していなかった」と話しており、新たにイタリアおよびスペインをターゲットとした宿泊者誘致の施策が検討されているそうだ。

  • HIT チーフプロデューサー 兼 常務理事事業本部長 山邊昌太郎氏

    HIT チーフプロデューサー 兼 常務理事事業本部長 山邊昌太郎氏

  • データ分析によりターゲット国を明確化できた

    データ分析によりターゲットにすべき国を明確化できた

また、広島県への来訪者は関西圏からのアクセスが多いことが予想されたため、JRグループが提供するジャパン・レール・パス(関西と広島の鉄道が乗り放題になるパスとアクティビティチケットのセット)を用いた施策の効果を検証した。その結果、大阪や京都への来訪と前後して広島を訪れる人が増加したほか、SNSでも広島への移動にジャパン・レール・パスを勧める投稿が増えたという。

  • インバウンド施策の効果検証にもつなげている

    インバウンド施策の効果検証にもつなげている

NTT Comでマーケティングインテグレーション推進室の室長を務める徳田泰幸氏は「広島の実証で構築したモデルを全国に展開したい。オーバーツーリズムの課題に悩む自治体がある一方で、もっと観光客を呼び込みたい自治体もあるので、そういった地域にサービスを広げたい。将来的には自治体向けのデータ基盤を提供し、観光客と地域住民の両方が豊かな生活を送れるようなサービスを探っていく」と、今後の展望を語った。

  • NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティングインテグレーション推進室 室長 徳田泰幸氏

    NTT Com ビジネスソリューション本部 事業推進部 マーケティングインテグレーション推進室 室長 徳田泰幸氏