
2024年1月に東京・羽田空港の滑走路で発生した航空機衝突事故と、国内外で相次いだ安全上のトラブルを受け、「空の安全」に高い関心が寄せられています。管制を含む航空交通の管理に、AI(人工知能)をはじめとするデジタル技術を導入し、安全性の向上と環境負荷の低減を目指した研究開発を進めています。
コロナ禍で一時的に落ち込んだ世界の航空需要も復活し、日本政府は30年に訪日外客数6000万人を目指しています。管制官不足は既に深刻化しつつあり、管制官のマンパワーに頼ったやり方だけでは、増え続ける航空交通を処置しきれません。
そんな問題意識から、「空の安全」を科学的に担保する研究開発の重要性が増しています。
羽田空港を例に考えます。航空機が地上走行する誘導路は混み合い、最大で1時間90機、1日1300機が離着陸します。航空交通のボトルネックは滑走路ですが、周辺の空域でも交通渋滞が発生しています。管制塔では、管制官たちが四方八方を見渡し、次々とパイロットに指示を出して航空交通を整理しています。
これに対し、駐機場にいる航空機の出発時間や、誘導路や各空域にいる航空機の情報を一元化し、混雑解消に役立てる自動化システムを研究開発しています。出発・到着・空港面(地上)の航空交通を統合して管理し、最もスムーズに交通が流れるとAIが導き出した計算結果を管制官が活用するというものです。
東京航空交通管制部の協力で、実際の管制を模擬した実証実験を行いました。羽田空港から300キロ離れた上流の航空交通に対して自動化システムを導入することで、羽田空港に「整然とした」到着交通を生成することができ、結果として羽田空港の混雑が低減することが確認できました。これにより空港の管制官の負荷が軽減され、滑走路や誘導路の安全確保への更なる注力が可能になります。高い導入効果が見込めることから30年を目指した実装が予定されています。
こうしたデジタル技術の実装には、数学を基盤としたデータサイエンスやシミュレーション実験による研究の蓄積と産学官連携によるプロトタイプ開発が不可欠です。
持続可能な航空輸送のためには、地球規模の課題にも向き合わなければなりません。ロシア侵攻や中東情勢など、世界規模で高まる地政学リスクを回避し、航空輸送のサプライチェーンを強靭化する国家・企業戦略も重要です。半導体をはじめとする精密機器・部品などは主に航空輸送で運ばれていますが、航空運輸を含むサプライチェーン分析は不足しています。
忘れてならないのは、地球環境への配慮です。エンジンを動かす燃料の工夫によるCO2排出量削減だけでなく、飛行機雲の発生を抑止する管制支援システムの開発も進めています。青空に浮かぶ飛行機雲は美しいものですが、地球温暖化の原因になる場合があることもわかってきたからです。
起きてしまった事故への対策は必要かつ重要です。それに加え、安全性向上、持続可能性、サプライチェーン強靭化などをキーワードに、産学官が抱える問題を共有し、科学を起点に交流しながら、空のグランドデザイン(全体像)を描く活動も不可欠です。
これらの取り組みを実現するために東大基金のプラットホームを用いて、「航空宇宙モビリティ基金」にて、寄付を募っています。未来の空の安全のためにご支援をお願いいたします。