SmartHRは6月3日、2030年までに売上1000億円を達成することを目標とし、それを実現するための事業戦略を発表した。

代表取締役 CEOの芹澤雅人氏は、これまでは業務の効率化と業務成果の最大化の実現に向けて、労務をメインとしたバックオフィスのDX(デジタルトランスフォーメーション)とタレントマネジメントの推進に取り組んできたと説明した。

  • SmartHR 代表取締役 CEO 芹澤雅人氏

しかし、「労働供給の不足」「DXの加速」「AIの進化」といった外部環境の変化に伴い、HRシステムに求められるものも変わってきており、同社それに応えるため、新たなアプローチをとる。

「人的資本経営プラットフォーム」の実現を

芹澤氏によると、今、HRシステムには「クラウドをベースに、最新技術を用いた新しい効率化の実現」「データドリブンで科学的な人的資本経営を行うための分析環境」が求められているという。

同社はこれら2つのニーズに応えるため、「クラウド人事給与基幹システムへの進化」と「データとAIによる、人を生かすタレントマネジメント」を両立させて、人的資本経営プラットフォームとなることを目指す。

芹澤氏は「人的資本経営という言葉は目新しいものではないが、人事の現場が取り組むにはまだまだハードルが高く苦戦している」と語り、企業が人的資本経営に取り組むことを支援する姿勢を見せた。

人的資本経営プラットフォームへの進化ための3つの施策

芹澤氏は、人的資本経営プラットフォームへの進化を実現するにあたっての施策を3点紹介した。

クラウド人事給与基幹システムへの進化

既存の人事給与基幹システムにおいて、勤怠管理、給与計算といった業務工程間のデータ連携は効率化を阻んでいるという。芹澤氏は「クラウドの進化により、部分的な効率化が実現されているが、これがボトルネックとなっている」と指摘した。

そこで、同社は従業員データベースを核として、シームレスなデータ連携を目指す。

また、SmartHRは管理部門の利用を中心としたシステム設計ではなく、あらゆる従業員にとってわかりやすく使いやすい設計を強みとしている。これにより、「雇用形態、就労環境を問わず、あらゆる従業員にとってわかりやすいクラウドの人事給与システムを作りたい」と、芹澤氏は述べた。

クラウド人事給与基幹システムへの進化を実現する一環として、6月4日にデータ入力レスな「給与計算」機能を提供開始する。

SmartHRを利用した従来の給与計算業務では、従業員データを給与計算システムへ連携させる作業が必要だが、新機能は、「SmartHR」に登録されている従業員データを利用し、データの加工・連携業務を最小限に抑える。給与計算後は出力データをそのまま給与明細・源泉徴収票に反映し、従業員へ配付が可能だ。

  • SmartHRの給与計算の仕組み

芹澤氏は、「給与業務の担当者からCSVファイルの加工に時間がかかっている話をよく聞くが、SmartHRのデータを活用することでストレスなく完結できるようになる。また、給与計算の結果に漏れがないかどうかをチェック作業も担当者にとってストレスだったが、給与計算の結果をSmartHRで配布できるようになる」と、給与計算機能のメリットを説明していた。

AIによる業務効率化と⼈的資本経営の推進

最近はAIを組み込んだSaaSが増えているが、同社は業務効率化と人的資本経営の貢献の2軸でAI活用を推進し事業拡大を加速する構えだ。

今年2月にはAI履歴書読み取り機能の提供を開始し、2025年中にAIアシスタント機能の提供を予定している。AIアシスタント機能では、検索窓から質問を⼊⼒すると、事前にアップロードされた就業規則‧マニュアルなどから、文脈にあった回答サマリーが出力される。

芹澤氏は開発を検討している機能の例として、「AIマッチング機能」「AI分析機能」を挙げた。「AIマッチング機能では、長年の勘と経験に依存している部分をAIでサポートすることで、俗人化を脱する」(同氏)いう。

HR SaaS 以外の領域への進展

同社はこれまでSaaSに注力してきたが、情シスやBPO領域など他の分野への進出も狙う。これにより、「働く」を⽀える統合的なサービス展開を目指す。

今年5月には、業務委託・フリーランス管理クラウド「Lansmart」を提供するCloudBrainsの発行する全株式を取得し、同社をグループ会社化した。これにより、「SmartHR」の持つ顧客基盤を活用した「Lansmart」の提供拡大と、サービス機能拡充を図る。

同じく5月に、情報システム領域のサービス拡充に向け、テクバンと協業が開始された。これにより、「SmartHR」ユーザー向けに従業員用情報端末の調達・設定・廃棄等を代行するLCM(ライフサイクルマネジメント)サービス「SmartHR版LCMパッケージ」の開発を開始する。

同社は2024年7月より情報システム領域に参入したが、情報システム部門の担当者が「SmartHR」上からSaaSアカウントの管理が簡単にできる「ID管理」機能を今年8月に提供することを予定している。

SaaSが860億円規模、SaaS以外が140億円で1000億円達成へ

こうした取り組みを進めることで、同社は2030年までに売上1,000億円規模のビジネスを作る計画だ。

売上1,000億円の内訳は、SaaSが860億円規模、SaaS以外が140億円規模と想定している。SaaS領域においてはM&Aを進めるほか、SaaS以外では人事コンサル、給与支援、情シス支援を行う。

  • 2030年に⽬指す事業ポートフォリオと売上高

芹澤氏は、「当社はインタフェースとSaaSに強みがあるので、これらを生かせる領域は内製化する。ハードウェアやコンサルティングなど、取り組んでこなかった領域は買収などして補う。1000億円達成に向けて、これまであまりやってこなかったM&Aをどこまで伸ばせるかがカギとなる」と語っていた。