
「25年という歳月の中で、約250人の権利者の方と議論を重ねながら事業を進めてきた」─東京建物社長の小澤克人氏は、こう話す。
東京建物は2026年に、再開発組合の一員として推進してきた東京・八重洲で大規模再開発「TOFROM YAESU」(トフロム ヤエス)を竣工予定。
「トフロム」は英語の「TO」と「FROM」を組み合わせた造語。日本中、世界中のヒト・モノ・コトが集まってつながり、多様な価値が生み出され、発信されていく場所になってほしいという思いが込められている。
差別化のキーワードとして「ウェルビーイング」を掲げる。温泉ミストによる湯治体験が気軽にできる「喫泉室」や瞑想・仮眠プログラムの導入など、入居企業の従業員のウェルビーイング向上を図る共用施設やサービスを用意。
「ウェルビーイングは、今の日本社会の中で、経済成長だけではなく、国民の幸せをいかに実現していくかという意味で国としても目指していること。働きやすく、そこにいることで満足が得られる、価値を感じていただける取り組みを、このトフロム ヤエスで進めていく」
今回の「東京駅前八重洲一丁目東B地区市街地再開発組合」理事長を務めた加藤一男氏は、創業175年の老舗「割烹 嶋村」の8代目。この再開発を「大きな夢」と表現する一方で「目標が大きくなるにつれて困難が伴った。長い長い時間との戦いでもあった。それでも、この再開発を我々の力でなし遂げるのだという強い思いが、困難を乗り越える糧となった」と振り返る。小澤氏も権利者とともに進めてきた再開発の完成を間近にして「万感の思い」と話す。
東京駅の至近でありながら「街区の細分化、建物の老朽化などでポテンシャルを発揮できていなかった」(小澤氏)八重洲の新たな顔として期待される。
近年の東京建物は、八重洲、日本橋、京橋で大規模再開発を手掛ける一方で、これまでにないユニークな取り組みも進めている。
その1つが、東京建物など3社が出資する「Tokyo Sports Wellness Village」が24年10月に東京・有明で開業した複合型スポーツレジャー施設「有明アーバンスポーツパーク」。
敷地面積は約3.1ヘクタールで、スケートボードなどの「アーバンスポーツ」を体験できるだけでなく、スポーツに親しむ次世代の育成や、サステナビリティ社会の実現に向けた活動の拠点ともなる施設。その精神は、「トフロム ヤエス」のキーワードである「ウェルビーイング」とも通底していると言える。
東京建物は2030年を達成年限に「次世代デベロッパーへ」という長期ビジョンを掲げている。その達成に向けて、社内を鼓舞する小澤氏である。