米OpenAIは5月21日(現地時間)、Appleの元チーフデザインオフィサーであるジョニー・アイブ氏が共同設立した企業「io」を買収したことを発表した。米報道によれば、取引額は65億ドル相当に上り、OpenAIにとって過去最大規模の買収となる。

  • ジョニー・アイブ氏とサム・アルトマン氏

    ジョニー・アイブ氏とサム・アルトマン氏「Sam & Jony introduce io」より

今回の買収により、アイブ氏および同氏が率いるデザイン会社LoveFromは、OpenAIおよびioにおけるプロダクトデザインとクリエイティブの主導的役割を担うこととなる。アイブ氏は今後、ChatGPTを含むOpenAIのプロダクト全般に深く関与すると共に、次世代のAIハードウェア開発を推進するとみられている。

この買収は、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏とアイブ氏の2年間にわたる非公式な協力関係を背景に実現した。当初は友人関係や共通の価値観、好奇心に基づく交流であったが、やがて野心的な構想へと発展し、具体的な製品デザインの議論に至ったという。

同日、OpenAIの公式サイトでは、アルトマン氏とアイブ氏の連名によるメッセージ「Sam and Jony introduce io」が公開された。両者の関係性は、Appleに復帰した後のスティーブ・ジョブズ氏と、その右腕として活躍したアイブ氏の関係を想起させる。

  • ジョニー・アイブ氏とサム・アルトマン氏

    ジョニー・アイブ氏とサム・アルトマン氏「Sam & Jony introduce io」より

アイブ氏は、Appleのデザインチームを率い、スティーブ・ジョブズ氏の復帰以降のAppleの再興と成長に大きく貢献した人物である。シンプルさと機能美を追求したそのデザインは、テクノロジー製品のあり方に大きな影響を与えてきた。

2019年にAppleを退社した後、デザイン会社LoveFromを設立。さらに2024年、スコット・キャノン氏、エバンス・ハンキー氏、タン・タン氏らと共に、次世代のデバイス開発を目的とした新会社ioを創設した。これらの人物は、いずれもAppleで長年にわたり象徴的な製品開発に関わってきた製造・サプライチェーン、デザイン、製品設計の中核メンバーである。

ioには、ハードウェアおよびソフトウェアエンジニア、技術者、物理学者、科学者、研究者、製品開発および製造の専門家など、各分野のトップクラスの人材が集結しており、その多くは長年にわたり緊密に協働してきた経験を持つ。

アルトマン氏とアイブ氏は、「従来のスクリーンを超える」体験を提供するデバイスの開発に取り組んでいると報じられており、OpenAIはiOの取り組みについて「来年に共有する」としている。

AIデバイス市場は、いまだ黎明期にある。元Apple社員が設立したHumaneのAI搭載ピン型デバイス「Humane AI Pin」や、rabbitの「rabbit r1」など、生成AIを取り入れた新種のデバイスが相次いで登場したが、いずれも市場評価は芳しくなく、商業的な成功には至っていない。一方、Metaの「Ray-Ban Meta AI Glasses」が数少ない成功例とされているものの、現在のところ「スマートフォンこそ最良のAIデバイス」とする見方が一般的である。

AI技術と、製品設計・デザインで先端を進むチームが融合することで、どのような新たな製品や体験が生み出されるのか。今後の展開に注目が集まる。