Armが初の企業によるAI活用に対する調査レポートを発行

Armが企業がAIに対してどのようなスタンスを取り、また事業に活用しているのかといったことを160ページにまとめた調査レポート「Arm AI Readiness Index」を発行した。5月16日、同社の日本法人であるアームにて、この内容に関する説明会が開催され、調査の概要についての説明が行われた。

  • 「Arm AI Readiness Index」の表紙

    「Arm AI Readiness Index」の表紙。全160ページで構成されている。同社Webサイトより無償でダウンロードすることが可能

同レポートは、従業員1000人以上の企業に所属するAI導入などに関する意思決定者・役職者に対し、自社のAIに関する取り組みなどを、ArmがMethod Researchに委託する形で、RepDataとiTracksのプラットフォームより配信して実施されたオンラインアンケート調査に基づくもの。調査期間は2025年1月16日~2月5日で、回答者数は655人で、所属する企業の本社所在地は米国15%、英国15%、日本16%、中国15%、台湾15%、フランス8%、ドイツ8%、ハンガリー8%となっている。また、回答者の所属する企業の事業規模はいずれも1000人以上となっており、産業分野別に見ると、金融18%、製造19%、ヘルスケア4%、リテール(小売り)9%、テクノロジー17%、エネルギー4%、その他29%となっている。

  • 調査対象者の概要

    調査対象者の概要。詳細な比率などについては、Arm AI Readiness Indexに記載されている (提供:Arm、以下すべてのスライド同様)

日本企業における3大AI活用分野はカスタマサービス、文書処理、研修・トレーニング

これら調査対象者はAIに関する35問の質問に回答。主な回答結果として、回答者の82%がすでに日常業務における何らかのAIアプリケーションを導入済みで、用途として多いのがカスタマサービスが63%、文書処理が54%、ITオペレーションが51%、セキュリティ関連が51%(複数回答)とするが、日本の場合はカスタマサービス61%、文書処理60%はグローバルと似たような傾向だが、3番手に研修・トレーニングが56%で入っている点がユニークだという。

  • 日常業務でのAIアプリケーションの導入率。グローバルで82%

    日常業務でのAIアプリケーションの導入率。グローバルで82%。ただし、活用している領域は日本とグローバルで若干異なる

また、グローバルでは9割の企業が会社がAI主導の変化を受け入れると認識を示し、83%がAIの採用を急務とする認識を示す一方で、日本は97%が会社としてAIによる変化を受け入れているという認識を示すが、AIの採用が急務とする認識は74%とグローバルと比べて低く、重要かつやらないといけないという認識で受け入れているものの、実際に急いで採用する必要があるという認識についてはグローバルよりも低い結果となったとする。

AI専用予算をつけて成長を狙うアジア勢

今回の調査対象となった8か国は大きく分けてアジア、欧州、米国となるが、AIに対する予算の考え方には若干、違いが見られたという。

まずAI専用の予算を設定している割合だが、グローバルで80%ほどだが、アジアだけを見ると86%ほどと高く、日本も同等の86%であったという。一方で、もっとも投資に積極的なのは米国で、米国企業の57%がIT予算の10%以上をAIに投じているとする。GAFAMのようなハイパースケーラーがけん引している可能性もあるが、全調査対象企業655社の15%、約100社ほどが米国企業であることを考えると、それだけでは収まりきらず、全体的な傾向としてAIに予算を割かなければ競合に出し抜かれるという警戒感がある可能性がある。また、グローバル平均では45%ほどで、日本は30%とかなり低い結果となっており、重要性は理解しているし、今後やる必要性があることも分かっているが、予算をAIのためだけに確保してはいるが、IT予算全体の中で占める割合は低い傾向が示された。

  • AI専用の予算を策定している割合はアジアが最多

    AI専用の予算を策定している割合はアジアが最多。数字の読み解き方次第となるが、欧米諸国は先行企業が多いため、そうした企業は専用投資を終え、IT予算の中にAIの予算を内包している可能性もある(この調査レポートでは、そうしたところまでは踏み込んでいないとのことである)

AI活用に向けたITインフラ、人材、データの品質という3つの課題

このほか、調査レポートでは「ITインフラストラクチャ」「人材の確保」「データ品質」という3つの側面でAIに対する課題が存在していることも示された。

  • AIを推進していく上での課題

    AIを推進していく上での課題

ITインフラとしては、クラウドでもオンプレミスでも、AIの需要の増加に自動で追従して対応できるシステムやストレージのリソースを有している企業はグローバルでも29%ほどと低い。また、GPUの大量導入に伴う電力消費量の増加に対応できるだけの電源インフラを有して、自動で電力の変動に対応できるとする企業も23%に留まっていることが示されている。中でも日本については、演算能力の自動的なスケーリング対応については0%、エネルギーのスケーリングの自動化については11%と低いことが浮き彫りとなっている。

ただし自動化まではいかず、手作業で対処療法的に対応できる企業としてはグローバル平均で演算能力、電力ともに41%。日本だけを見ると演算能力には53%、エネルギーについては37%が対応できるとしている。

日本には(GPUを大量に導入可能な)AIデータセンターそのものが少なく、旧来のデータセンターでの対応が求められるなど、そういった事情もあると思われるが、世界的に見ても、そうした準備万端の企業というのは限られた存在であると言える。

  • ITインフラにおける課題に対する調査結果
  • ITインフラにおける課題に対する調査結果
  • ITインフラにおける課題に対する調査結果

2つ目の人材の確保の難しさとして、グローバルの34%がAIの専門知識に関する人材について、著しく不足している、または不足しているとの認識を示しているほか、49%がAIの導入を成功へと導くうえで、最大の課題は高スキル人材の不足と回答している。日本では56%が人材不足と回答しているほか、60%が高スキル人材が不足していると回答している。

ただし、AI統合の拡大に適用するために既存社員のスキルアップの必要性についてはグローバルでも日本でも66%ほどが認識している一方で、39%が高度スキル人材の育成に向けた専用プログラムを設けていないとしており、これは日本だけに限ると48%まで高まるという。

  • AI人材に対する課題

    AI人材に対する課題の調査結果

3つ目のデータ品質については、49%の企業が顧客データを、48%の企業が業務データ(複数回答)を、AIイニシアチブで活用するとしている一方、AI/MLモデル用の基本的なデータ自動化プロセスの導入割合は53%に留まり、18%が手動もしくは場当たり的なデータクリーニング手順に依存していることが示されたとする。

  • データの品質に対する課題の調査結果

    データの品質に対する課題の調査結果

95%の企業がAIセキュリティ対策を実施

このほかの課題として挙げられるのはセキュリティについて。49%の企業がすでにAIイニシアチブで顧客データを利用しているほか、56%の企業が将来のAIアプリケーションで個人を特定できる情報を活用する可能性があるとしており、44%の企業がAIの倫理やデータエンジニアリングを、今後5年間における最重要スキルとなると回答している。

こうした状況から、95%の企業がすでに監査やテスト、脆弱性評価など何らかの形でAIセキュリティ対策を実施済みだとする(日本だけでも91%と高い)が、一方で48%はモデル抽出によるデータプライバシーの侵害がAIセキュリティの最大の懸念事項と回答をしており、AIで変化するセキュリティ課題への対応に苦慮している様子が見られるという。

  • セキュリティに関する懸念・課題に対する調査結果
  • セキュリティに関する懸念・課題に対する調査結果
  • セキュリティに関する懸念・課題に対する調査結果

電力効率が求められる時代のコンピューティングアーキテクチャ

調査レポートは全8章構成で、第1章が調査アンケートを踏まえたまとめ的な内容で、第2章がAIの技術動向、そして第3章以降がセキュリティやデータ品質などの個別トピックスに対する考察となっている。

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