
厨房を助ける調理ロボット
「外食企業の厨房は課題が多い。人の価値を最大化するためにロボットで補い、人間はいかに人間らしい仕事をするかが人手不足社会において重要」こう語るのは、調理ロボットメーカー・テックマジック社長の白木裕士氏。同社でつくられる調理ロボットがいま、食品・外食企業の厨房を助け注目が高まっている。
中華チェーン店「大阪王将」には、349店舗中17店舗(25年2月末時点)に同社が開発した調理ロボットが導入され活躍している。同ロボットには、トップシェフの料理の腕前をデータ化し覚えさせている。料理の手順、鉄鍋の腕の振り方、調味料の加減、順番なども全て記憶させ、ディスプレイには具材を入れるタイミングの指示が出る。それに従って調理を行えば料理が完成し、鍋の洗浄まで行う。従業員はロボットが調理している間に、違う作業が可能となり、オペレーションが効率化され生産性が高まる。
現段階で、「大阪王将」内の炒めメニューは天津飯以外このロボットで作ることが可能だという。肝心の味は、恐らくロボットがつくったと区別できる人は少ないだろう。開発にはメニューごとにトップシェフの調理の動きをとらえ、何度も打合せ・試食を重ね、データ化していった。
「大阪王将」の他にも、パスタを提供する「エビノスパゲッティ」や、ラーメン店「一風堂」、金沢大学の食堂、東京ドームのフードコートなどで導入されている。現在同社が開発する調理ロボットで可能なジャンルは中華とイタリアンだが、今年の夏頃には、やきそば、生姜焼き、ちゃんぽんなどの和食も可能になる見通し。
食材の種類、量、加熱時間を自動生成できるようAIに学習させ調理を再現する。外食企業のメニューだけでなく、個人の味を覚えさせることも可能。つまり、「おふくろの味」や「おばあちゃんの味」を100年、200年先まで何世代にもわたり引き継ぐことも可能というわけだ。
料理人のパフォーマンスが影響する外食企業では、〝味の均一化〟は大変難しく、大手外食企業にとっては頭を悩ます問題。これまでは研修などを通し実務を積みながら一人前の職人を育てるための投資を行ってきた。チェーン店で、「○○店舗は美味しいけど○○店舗はイマイチだ」という状態は珍しくないが、この調理ロボットがあればどの店でもトップシェフの味を提供できる。オペレーションやコストを最適化することで多店舗展開モデルを目指せるためより稼ぐことを助けるアイテムにもなる。
外食企業は現在コストアップに悩まされている。食材、エネルギー、人件費のコストが全て上昇しており、利益をどう捻出するかが経営の最重要課題。
調理ロボットは人件費削減にも寄与する。価格は1台あたり月額12.8万円(5年契約)からで、人とは違い教育コストがかからないため即戦力となる。
全国の最低賃金は1055円(厚生労働省「令和6年度地域別最低賃金改定状況」)だが、調理ロボットの時給は333円と約3分の1程度であり、1時間に約30食を作り上げる。ライブ会場やスポーツ会場、テーマパークなど、同時に人が多数押し寄せる場所に導入されれば、行列を解消し、店の売上を伸ばすことに貢献しそうだ。
「大阪王将」では、人件費を大幅に削減でき、売上・顧客単価も増加。従業員の定着率も向上している。
高関税でも米国進出を狙う!
同社は2018年に創業し、今年で8年目を迎える。社員は7割が工学系の技術職。白木氏はもともと起業を視野にボストンコンサルティングに勤務しながら、解決すべき社会課題の種を探していた。そんなとき、白木氏の祖母が家で料理し食事をすることが難しくなっているのを見て、調理ロボットがあれば喜んでもらえるのではと思ったのが起業のきっかけ。現場を知るべく、実際にガストの厨房でアルバイトをして現場の課題を調査した。特に調理器具や食器洗浄、掃除は、身体的、精神的にも重労働で問題意識を感じた。
「テクノロジーを入れることで現場の人たちがより活かされる現場をつくりたい。ロボットが人の仕事を奪うということを考えるのではなく、人がもっと付加価値の高い仕事に移動するというのが繰り返され文明は発展してきた。単なる現場の省人化ではなく、目指すのは活人化」と白木氏。
現在の調理ロボットと業務用ロボットの潜在的市場規模は国内で約6.7兆円、世界で48.8兆円と試算されている。国内では現時点で競合企業はいないが、今後海外進出する先は米国市場。米国のファストフードではアメリカ人以外の人たちが厨房で働くケースが多く、離職率も高いという。米国では既に調理ロボットのスタートアップ企業や中国企業が存在し認知を高めている中で、勝負を挑んでいくことになる。独自の技術で多種多様な調理を実現できる点が強みだ。
トランプ首相の高関税策を受け、「24%の関税を上乗せしても、日本でつくり輸出した方がコストを抑えられ、まだメリットは大きい。日本の食文化は誇れるコンテンツ。ロボット工学領域では米国と比べ日本のものづくりも負けていない」と同氏の考えは変わらないとした。
日本の強みである食をもっと海外へ─。今後は海外進出を目指す日本の外食企業とパートナーとなり、一緒に挑戦をしていくとしている。味の素やキユーピーなどとも資本業務提携を結び、資金調達は計44億円に達した。生産コストと自動化の領域拡大という課題をクリアし、普及を急ぐ白木氏である。