日本IBMは5月20日、5月6日~7日に米ボストンで開催した年次カンファレンス「Think 2025」で発表された、AIエージェントなどに関する説明会を都内で開催した。

エンタープライズAIの価値を最大化

説明会の冒頭で、日本IBM IBMフェロー執行役員 コンサルティング事業本部 最高技術責任者二上哲也氏は、Think 2025について「エンタープライズAIの価値を最大化し、AIの構築・運用を効率化することでAIのROI(投資対効果)を高め、ビジネスの成長を実現することが可能になり、重要であることが議論された。AIエージェントが非常に注目されたカンファレンスだった」と振り返った。

  • 日本IBM IBMフェロー執行役員 コンサルティング事業本部 最高技術責任者二上哲也氏

    日本IBM IBMフェロー執行役員 コンサルティング事業本部 最高技術責任者二上哲也氏

同氏は、エンタープライズAIの価値を最大化するためにThink 2025で発表された各領域における新ソリューションを紹介した。

AIエージェントは「IBM watsonx Orchestrate」によるAIエージェントの構築・運用の効率化、LLM(大規模言語モデル)では独自モデルの最新版「Granite 4.0」と「Model Gateway」、生成AI学習は「IBM watsonx.data」の生成AIデータベース、InstructLabでの個別追加学習、基幹系でのAI活用では「IBM LinuxONE 5」、システム連携は「IBM webMethods Hybrid Integration」、量子コンピュータでは理研の「富岳」などのHPC(スーパーコンピュータ)と量子コンピュータ「IBM Quantum System Two」の融合がアナウンスされた。

  • 「Think 2025」で発表された新ソリューションのまとめ

    「Think 2025」で発表された新ソリューションのまとめ

AIファーストを支援するための新製品

続いて、日本IBM コンサルティング事業本部 AIエージェント事業 事業部長の鳥井卓氏と、同 テクノロジー事業本部 Data and AI エバンジェリストの田中孝氏が、IBMにおけるAIエージェントに関する取り組みを解説した。

まずは鳥井氏からだ。同氏は「従来からIBMでは人が主体の業務にAIを活用して効率化する『+AI』ではなく、AI主導の業務に再構築して人は監督にシフトする『AI+』としてAIファーストを提唱してきた。こうした考えを本番適用していくのが今年だ」と述べた。

  • 日本IBM コンサルティング事業本部 AIエージェント事業 事業部長の鳥井卓氏

    日本IBM コンサルティング事業本部 AIエージェント事業 事業部長の鳥井卓氏

同氏によると、AIファーストの概念を説明するにあたり「AIエージェント」と「エージェント型AI」という2つがキーワードになるという。現状でAIエージェントは、ゴール駆動型で自律的に意思決定とタスクを実行するシングルタスクがベースである一方、エージェント型AIは業務に特化している点が異なる。同社が提唱するAIファーストは後者に該当する。

  • AIの進化の変遷

    AIの進化の変遷

ただ、AI+を企業で活用していくためには、業務プロセスのイメージが湧かないほか、費用がかかり投資効果の観点から適応できる業務領域が限定され、設計から導入まで長期間を要するといったことが課題に挙がっているという。

そこで、同社では「IBM Consulting Advantage for Agentic Applications」を提供する。これはさまざまな業界・業務別のエージェント型AIのソフトウェアとAI+の標準業務プロセスを提供するというもの。今後、自社開発したエージェント型AIのソフトウェアソリューションを100種類以上提供し、企業における業務の25%の完全自動化を目指す。

  • 「IBM Consulting Advantage for Agentic Applications」の概要

    「IBM Consulting Advantage for Agentic Applications」の概要

実際の流れとしては、Reception Agentが給与計算など作業指示を読み込み、Managing Agentが理解できる手順書を読み取りながら自ら考えて、業務順のタスクリストを作成。次に、Orchestration Agentがたとえば人事システムが提供しているAIエージェントを用いて参照・更新などの作業を行う。鳥井氏は「イレギュラーなことが発生した際でも、手順書の書き直しを提案するなど自律的に動いてくれる」と説明。

  • 人事におけるエージェント型ソフトウェアの概要

    人事におけるエージェント型ソフトウェアの概要

今後、100種類以上の提供を予定しているが、グローバルに置いて38の専門領域の責任者が各業務・テクノロジー領域に分けて開発を進めており、AIエージェントのユースケースとソフトウェアアセットを体系化して各国に展開していく方針だ。

  • グローバルで38の専門領域においてエージェント型ソフトウェアを開発している

    グローバルで38の専門領域においてエージェント型ソフトウェアを開発している

同氏は「日本でも700人を超えるSI(システムインテグレーション)までできる高度なAIの開発エンジニアに加え、5000人以上のコンサルタントが適用していく。しかし、UIの開発やエージェントの実装・システム連携、データ統合、ガバナンス・セキュリティ実装といったSIはどうしても必要であり、コストもかかる。そのため、Think 2025で発表された『IBM watsonx Orchestrate』の機能拡張により、こうしたSIを最小限にして日本企業の競争力をつなげることが可能になっている」と述べ、田中氏に引き継いだ。

  • SIを最小化して業務変革の適応領域を拡大し、導入期間も短縮するという

    SIを最小化して業務変革の適応領域を拡大し、導入期間も短縮するという

「IBM watsonx Orchestrate」の新機能

watsonx Orchestrateは、2023年に開催した年次カンファレンス「Think 2023」で発表・提供している製品

田中氏は、同製品について「当時からさまざまな業務システムや基幹システムと連携しつつ、AIを用いて業務を支援するというもの。2023年当時はAIエージェントは議論されていなかったが、現在では注目が集まっており、ようやくwatsonx Orchestrateが目指していた世界観と合致したと感じている」と話す。

  • 日本IBM テクノロジー事業本部 Data and AI エバンジェリストの田中孝氏

    日本IBM テクノロジー事業本部 Data and AI エバンジェリストの田中孝氏

今回のThink 2025で発表されたwatsonx Orchestrateの新機能を同氏は紹介した。1つ目は、すぐに使えるエージェントとして、人事・営業・調達など業務に特化した事前構築済みのエージェント、パートナー企業が提供する150以上のエージェントにアクセス可能な「Agent Catalog」、パートナー企業のエージェントをwatsonx Orchestrateに直接統合できる「Agent Connect」だ。

2つ目はすぐに構築できるエージェントとしてノーコードで数分以内にカスタムエージェントの構築が可能な「Agent Builder」、開発者向けの「Agent Development Kit」(ADK)。3つ目は複数エージェントを連携する「Multi agent orchestration」となる。

  • 「IBM watsonx Orchestrate」の新機能

    「IBM watsonx Orchestrate」の新機能

田中氏は「さまざまなエージェントで一連のタスクを実行する仕組みを実現していこうとすると、単一のエージェント開発にとどまらず、複数のエージェントかつベンダーをまたいだ形で連携させることが必要になる。そうしたことを支える機能」と説く。

一方で、本番適用を見据えて顧客を支援していくために「IBM watsonx.governance」において、AIエージェントのガバナンス機能も追加。

AIエージェントのライフサイクル管理にあたり、導入時のリスクを管理しつつエージェントのライフサイクル全体にわたる統制を実現するとともに、AIエージェントの性能評価としてAIエージェントを大規模展開するために性能の見える化と継続的な改善を支援するという。

  • 「IBM watsonx.governance」のAIエージェントのガバナンス機能

    「IBM watsonx.governance」のAIエージェントのガバナンス機能

最後に、再び二上氏にスピーカーは移り「基本的にAIエージェントはアプリケーション。当社はAIのテクノロジーだけでなく、さまざまなSIやパッケージコンサルティングなどでアプリケーション構築のノウハウを蓄積している。これまで培ったノウハウをベースに、お客さまが本番で適用できるAIエージェントをお客さまと共創していく」と結んでいた。