米Nutanixは5月7~9日の3日間にわたり、年次イベント「Nutanix .NEXT 2025」をWashington, D.C.で開催した。さまざまな新発表等が行われる中、東芝インフォメーションシステムズがVMwareからNutanixへの移行を決断したことが広く知られるようになり、各国プレスの注目を集めることとなった。
東芝がVMwareからNutanixに移行する理由
東芝インフォメーションシステムズは東芝グループの情報システム部門および社内ITエンジニアと説明されていることからも分かるとおり、グループ全体にITシステム/サービスを提供し、東芝本社の情報システム部門や東芝グループ各社の情報システム部門と連携しながら東芝グループをITで支えるという役割を担う企業だ。
現在、同社は東芝グループ内で共通的に利用されているシステムを運用しており、その規模はVM(仮想マシン)数で約2200台の規模だという。この2200VMを2025年10月から1~2年かけてNutanixに移行していくという計画が2025年4月に決定された。
同社の技術統括責任者 フェローの濁川克宏氏はこれまでの経緯として「約16年前の2009年に、仮想化製品としてVMwareの評価が高いということで物理サーバを仮想化するために採用し、運用費などの削減を行った。そのときのVM数もおよそ2000ぐらい。次に、約8年前にVMwareの環境をオンプレミスからプライベートクラウドに移行した」と振り返る。
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左からニュータニックス・ジャパン 執行役員 Field CTO 兼システムエンジニア統括本部長の荒木裕介氏、東芝デジタルソリューションズ デジタルエンジニアリングセンター マネージドサービス・インフラビジネスユニット 統括責任者の落合信氏、東芝インフォメーションシステムズ 技術統括責任者 フェローの濁川克宏氏、ニュータニックス・ジャパン 代表執行役員社長 金古毅氏
今回、プライベートクラウドのVMware環境をNutanix AHVベースに移行していくことになった。親会社の東芝では2015年に不正会計問題があり、その後会社の構造が大きく変化することになった。
大規模な事業分離が実施されたことでITシステムのありようも大きく変わり、それまでのオンプレミス中心の環境から「なるべく資産を持たないような、アセット・ライトの方向に」という考えで8年前にプライベートクラウド環境への移行がこのときはVMwareからVMwareへ、という形で実行されている。
今回の移行はBroadcomによるVMware買収の結果、同社製品のパッケージングやライセンス条件が変更され、同社にとっては大幅なコスト増加になってしまうことが直接のきっかけになったという。
濁川氏は「現在の東芝は社会インフラ系の事業が中心になっており、なにより安定性が求められるようになってきているため、製品としての安定性に加え、さまざまなことを勝手に変えられてしまわずに継続的なサポートが得られるかどうかも重視した」と語る。また、大規模環境の管理に関してはVMware vCenterの評価が高かったが、Nutanixの運用管理性も大幅に向上してきていることも評価したという。
国内ユーザーの本格移行が始まるか
今回の東芝インフォメーションシステムズの2200VMという規模感について、ニュータニックス・ジャパン合同会社 代表執行役員社長の金古 毅氏は「同規模の話は多く相談いただいているが、実際に具体的になったのは東芝インフォメーションシステムズさまが初めて」だと明かす。
同氏は「日本のお客さまは他国に比べて検討に時間をかけており、タイミングを見て段階的にという感じなので、これからはもう少し公表できる事例も増えてくると思う」との展望を語った。
グローバルでは大規模金融サービスプロバイダーが12カ月で2万4000VMを移行するなどの大規模事例も紹介されているが、国内では今回の東芝インフォメーションシステムズの移行計画が公表されたことをきっかけに、具体的な移行に向けて動き出す企業が増えていくものと期待される。
また、同社の執行役員 Field CTO 兼 システムエンジニア統括本部長の荒木 裕介氏は「VDI(仮想デスクトップ基盤)のお客さまなどではVM数だけでいえば多かったりしますが、今回の東芝インフォメーションシステムズさまのように、クリティカルな業務基盤で2200VMという規模はわれわれとしても、しっかりとサポートしていくべき規模感の重要なお客さまと認識している」と語ると同時に、同社にはすでにグローバルで大規模な移行を実施してきた実績があるため不安はないとの自信も示した。
Kubernetes環境への移行も進む
社外の顧客向けにサービスを提供する立場にあたる、東芝デジタルソリューションズ デジタルエンジニアリングセンター マネージドサービス・インフラビジネスユニット 統括責任者の落合信氏は「お客さま向けのクラウド基盤を構築しており、そのなかでも複数でVMwareからNutanixへの切替を実施したところがあり、そうした経験をふまえてデザインを反映するなどの形で知見・経験を活かしながら取り組んでいる」とのことだ。
ひとまずはVMからVMへという移行が今後は国内でも本格化していくことが予想される状況であり、移行先としてNutanixが脚光を浴びる状況は当面継続するだろう。さらに、同社ではKubernetesにも注力しており、AI活用を考える企業ではどうしてもコンテナプラットフォームを構築する必要があることから、VM環境の移行と同時にNutanixのKubernetes環境を活用して、VMからコンテナへの移行準備も開始する企業もあるという。
同社のプラットフォームはオンプレミスでも同様に活用可能であるため、データの秘匿性などの問題からクラウドサービス型のKubernetesを使いにくい企業にとっては選択肢の1つとなっている。
クラウドシフトの本格化により、HCI(Hyper Converged Infrastructure)が話題に登ることが減ったような印象もあったが、AI時代になって再びオンプレミスでHCI環境を構築し、コンテナ化されたAIアプリケーションを実行していく、という形が魅力的な選択肢となりつつある。