トランプショックにどう立ち向かうか? 『分断・対立』から『競争と協調』への新秩序づくりを

100年前の教訓がいかされていない

『分断・対立』から『競争と協調』を取り戻す―─。

 今、米トランプ政権の高関税策で世界の分断・対立が進む。

 トランプ政権は「これまで米国は世界各国から搾取されてきた。公平・公正さを取り戻す必要がある」として、高関税策を発動。これにより、ニューヨークの株式市場や東京株式市場など、世界の市場は株価が大幅に下落。世界経済が萎縮し、下手をすれば大恐慌を招くという先行き不透明感が漂い、世界中が不安の中に投げ込まれている。

大和総研副理事長・熊谷亮丸が見る「『トランプ2.0』が世界に与える影響」

 相互関税をかけあうという保護主義は結局、自国産業を育成することにはつながらず、100年前には第二次世界大戦を招いたという教訓が、今回はいかされていない。

 戦後80年、米国は世界の自由貿易体制を維持・発展すべく国際連合をつくり、途上国を支援することにもなるIMF(国際通貨基金)を主導して設立。また、GATT(関税貿易一般協定)を制定し、今日のWTO(世界貿易機関)を設立する役割を果たしてきた。

 しかし、今や歯車は逆回転。

 米トランプ大統領は「MAGA(Make America Great Again=偉大なる米国の再建)」を叫び、今回の関税政策を発動。今回の大統領選でトランプ氏を支持した低所得層も氏の叫び声に快哉を叫び、自分たちの生活が良くなると期待。

 しかし、結果は逆の事態が予想される。

 世界各国との貿易が縮小すれば、米国内の生活必需品も価格高騰を呼び、インフレで苦しむのはこうした低所得層の人たちである。また、高所得層も株価下落で痛みを被り、米国の消費意欲を冷ます可能性が大である。

 こうした声にトランプ氏は「これは過渡期の現象」と一蹴しようとする。ところが、株安・債券安・通貨安(ドル安)の〝3安〟の現象が起き、高関税策を90日間停止するという妥協策をとっている。〝米国売り〟という局面である。

「さすがのトランプ氏も米国債が売り浴びせられ、基本通貨・ドルが売られるという事態を軽視できなくなったということ」

 こうした混沌は当面続く。

自らの国は自らの手で守る

 この混沌の中、日本、および日本企業はどう対応すべきか?

 政治の領域では、日米両国が交渉を開始。米国はベッセント財務長官と、日本は赤澤亮正経済財政・再生相を代表にネゴシエーションが進む。

 要は、戦後の自由貿易体制の最大の危機として「日本は国家のあり方を真剣に考えるべき時」と説くのは、元防衛大臣の森本敏氏(元拓殖大学総長)である。

 ウクライナ戦争の停戦協議も進まず、イスラエルとイスラム過激化組織ハマスとの戦争もまだ継続中。欧州のNATO(北大西洋条約機構、32カ国)も内部で不協和音が目立つ。

 そこで有志連合(英仏独など15カ国から20カ国)を結成し、EU(欧州連合、27カ国)との協力で欧州の自主防衛を進めようとしている。

 アジアはどうか? 「インド太平洋には日米同盟以外に確立した同盟国関係はない」(森本氏)という状況。

 タイ、インドネシアなど、ASEAN(東南アジア諸国連合)の主要国も米国との関係を維持しつつ、BRICS(ブラジル、ロシア、中国、インド、南アフリカ)などへも接近し、生き残りをかけた必死の模索が続く。このような混沌とした状況での日本のかじ取りである。

 自らの国は自らの手で守る─―。日本はこの覚悟なしで戦後80年を過ごしてきた。日本自身、経済と安全保障が絡む今、日本は国のあり方を真剣に考えるべき時ということである。

 米中対立が激しさを増す中で、日本はどう動くべきか。日本の使命と役割とは何か。

 世界のGDP(国内総生産、2023年)の中で、米国の占める割合は26%、中国は17%を占める。これに対し、日本は4%と存在感が低い。

 日本の存在感はGDPで見る限りかなり低い。単独での行動にも限界がある。そうした現実を踏まえ、EUの有志国やG7(主要7カ国)、さらにはASEANとの連携がどうしても不可欠になってくる。

 日本は歴史的に1853年のペリー来航以来、受け身の姿勢でやってきた。新しい国際ルール形成に向けて、もっとアグレッシブに動く必要がある。

 アジア諸国をはじめ、日本に対する期待は高く、日本の行動をじっと見ているということを忘れないでいきたいものである。新秩序づくりへ、覚悟の時代が来たと言えそうだ。

ニッセイ基礎研究所チーフエコノミスト・矢嶋康次が読む『トランプ2.0』