富士通は4月18日、AIトラスト技術のライセンスを、イタリアを拠点に企業のコンプライアンスに対応した責任あるAI開発を行うスタートアップ「AKOS AI」に提供したことを発表した。これにより、AKOS AIは同技術を活用したAIガバナンスプラットフォーム「AKOS HUB」を、EUのAI規制法に遵守したリスク管理とより一般的なAIガバナンスのサービスとして、4月より企業や団体向けにグローバルで提供を開始する。

  • AKOS HUBの主な構成と富士通のAIトラスト技術

    AKOS HUBの主な構成と富士通のAIトラスト技術

ライセンス提供の背景

富士通がライセンス提供するAIトラスト技術は、富士通のAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術であるAI公平性技術を含む包括的なAIガバナンスを提供することで、サービス導入に伴うリスクの軽減を支援する。AKOS AIはこの技術とAKOS HUB、およびコンサルティングを組み合わせ、企業や団体のリスクの軽減または排除を包括的に支援するサービスを提供する。

2024年8月に発効したEUのAI規制法は、AIの安全な使用と信頼を確保するため、AIシステムをリスクレベルに応じて分類し、AIシステムがもたらすリスクに対応した上で、AIシステムが人々の健康や安全、基本的人権を守ることを目的としている。

AIシステムのリスクカテゴリのうち最も高い「許容できないリスク」を含むとされるAIシステムの利用を完全に禁止する規則は、EUのAI規制法の下で最初に施行される規則の一つとして2025年2月2日に適用されている。今後規制が進めばハイリスクとされたAIシステムには透明性の確保やリスク管理システムの実装などが求められるため、AIサービスの提供を計画する企業にとって課題となっていた。

AKOS HUBのパッケージサービス

AKOS AIが提供するAKOS HUBはノーコード / ローコードツールとAIガバナンスでリスク管理を支援する以下のパッケージを提供する。

AIシステム導入時のEUのAI規制法への遵守をサポートするEU AI規制法準拠支援パッケージ

このパッケージは、EUのAI規制法が定める法的義務を明確にするためのプロセスを簡略化する。利用者がアンケートに回答することでAIシステムのリスクレベルを取得し、このレベルに対応した法的な義務の履行に必要な行動項目のリストを抽出。そして抽出結果に応じてAIシステムがコンプライアンスレポートを作成する。このパッケージは富士通のAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術であるAIコンプライアンス支援技術をもとにしているという。

AKOS HUBにはこの他にも、AIマネジメントシステムの国際規格であるISO 42001や米国国立標準技術研究所(NIST)のAIリスクマネジメントフレームワーク(AI RMF)への準拠を支援するパッケージが用意されている。

倫理ガイドラインに基づきリスクを洗い出すAI倫理影響評価パッケージ

このパッケージはAIシステムの倫理的影響を評価するためのプロセスを構造化したもの。利用者がAIシステムの開発者やデータ提供者などのステークホルダー間の関係を入力すると、EUのAI規制法や過去に発生したAIに関するインシデントレポートを参照し、起こり得るAI倫理リスクをAI倫理影響評価結果として報告する。このパッケージは、AIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術であるAI倫理影響評価技術をもとにしている。

AIシステムのリスク管理を確実かつ効率的に実施するAIリスク評価パッケージ

AIシステムの企画から運用まで、AIのライフサイクル全体にわたりリスク管理を支援する。EUのAI規制などを遵守した証跡や対策の履歴を、プロジェクトごとに必要なアクセス制限をかけて管理し、問題の追跡や監査に活用できる。さらに、ガバナンス部門の責任者は組織内のすべてのAIプロジェクトの状況を俯瞰的に把握可能となる。このパッケージは、富士通のAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術であるAIリスクマネジメントツールをもとにしている。

AIモデルの公平性の検証や改善を行うAI公平性検証パッケージ

データ前処理、学習時、予測時の全フェーズで、AIモデルのバイアスに関わる倫理的な問題に対処するためのパッケージ。その中核となる、富士通が開発した交差性バイアス検知・緩和アルゴリズムは、性別、年齢、人種など複数の属性に関わる公平性を扱える特徴を持つ。

また、公平性と予測精度の評価基準を実装しており、AIの予測精度と多様な公平性のトレードオフをつまびらかにすることで、最適なモデル選択をサポートするという。このパッケージは富士通のAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術であるAI公平性技術をもとにしたサービスを含む。

LLM(大規模言語モデル)に潜むバイアスを多様な視点で診断するLLMパッケージ

このパッケージでは、人間の知識や価値観に関連するさまざまなトピックに関する、LLM全体のバイアス評価が可能。利用者は一般に公開されているLLMや、事前学習あるいはファインチューニングした独自のLLMを評価できる。

このパッケージには、富士通のAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術であるLLMバイアス診断技術をもとにしたサービスが含まれており、持続可能な開発目標の気候変動、ジェンダー平等、医療、教育の4つのテーマにおけるLLMの回答に含まれるバイアスを診断可能。その他にもOWASP(Open Worldwide Application Security Project)が提供するセキュリティガイドラインに基づくLLMの評価を可能にするサービスなどを提供する。