日本電信電話(以下、NTT)と北海道大学は4月7日、未来の一次産業実現を目指すビジョン共有型の共同研究を開始したことを発表した。この共同研究では大量のセンシングデータやディープラーニング、シミュレーション技術など両者のそれぞれの強みを持ち寄り、サステナブルで省力かつ高品質生産可能な未来の一次産業モデルを協創し、社会実装を目指すという。
共同研究の背景
日本の一次産業は人口減少や高齢化などにより、人手不足が続いている。農業分野では、2020年と比較して2050年には農業従事者が4分の1にまで減少すると予想されている。農業分野で食料自給率を維持するためには、生産品の品質を維持しつつ農業従事者1人当たりの生産性を4倍にする必要がある。
近年は地球温暖化も顕在化しつつある。農業においては、化学肥料や農薬に含まれる亜酸化窒素ガスは二酸化炭素の約310倍の温室効果があり、化学肥料は散布量のうち5~7割が気化して拡散してしまうことから、農業が地球環境に対して与える影響が少なくない。
農業を持続的な産業にするために、化学肥料や農薬は必要な場所に適量のみ散布するなど、環境負荷を最小限にする取り組みが必要。一次産業を持続的な産業にするためにも、環境負荷を最小限に抑えることは一次産業のあらゆる分野で対応が必要となる。
そこで北海道大学とNTTは、超省力で高品質、サステナブルな生産を可能とする"未来の一次産業モデル"として共同で実現を目指すことをビジョンとして掲げ、さまざまな分野の研究機関が連携する研究を開始する。
共同研究のビジョンと研究テーマ
未来の一次産業では、センシングデータ、ディープラーニング、シミュレーション技術を活用して、現場へ人が行かなくてもデジタル空間上で状況の確認や最適な作業計画作成が可能になると考えられる。そして作成された作業計画に基づき、ロボットが人に代わり最小限の資材を使った自動作業を行うことで、サステナブルで省力、高品質な生産が実現される。
このような未来の一次産業を実現するには、一次産業の現場における大量のセンシングデータを可視化するデジタルツインや、デジタルツインを一次産業従事者が使いこなし最適なシミュレーション結果を得られるよう支援するAI、デジタル空間上でのシミュレーション結果を忠実にリアル空間で再現し作業を可能にするロボティクス、デジタルツインとロボティクスを超高速につなぎ、リアル空間で起きた問題にもデジタルツインからリアルタイムに最適なシミュレーション結果を返し、ロボティクスの自動作業継続を可能にするIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)など、それぞれの要素技術を研究開発し相互に連携させる必要がある。
これに対し両者は、北海道大学の強みである、一次産業におけるロボティクスやデジタルツインに関する技術と、NTTの強みである、IOWNやAIやデジタルツインに関する技術を組み合わせ、ビジョンの実現に必要な要素技術の創出に取り組む。
2025年度はまずは農業をフィールドに、超省力かつサステナブルな農作業の自動化につながる、圃場のデジタルツイン、ロボット農機を安全に遠隔監視・操縦するロボティクスの実現を目指す。具体的には、高精度なデジタル圃場での生育・環境負荷が最小となる農作業シミュレーション実現と、人の現地作業を不要とするロボット農機の自動運転と遠隔操縦の実現の2つのテーマに取り組む。