田中弥生・会計検査院院長に聞く!「われわれの税金は正しく使われていますか?」

(インタビューは1月に行われたものです)

2023年度の税金の使い方は 適切であったのか?

 ─ 昨年院長に就任されて一年間経ちましたが手応えはいかがですか。

 田中 会計検査院の認知度を上げる、税金の使い方を国民のみなさまに知っていただくという課題に対しては少しずつ手応えを感じています。メディアやSNSなどを通じた発信に対して、いろいろな方々の反応、書き込みなども見ているのですが、やはり会計検査院について「知らなかった」という感想が一番目立つのです。

 国の予算の報道は多いのですが、実際の税金の使われ方ということについてはまだ報道が多くないのが現状です。

 会計検査院や検査結果を知った国民のみなさまからの、「国費の使い方にこんな問題があるとは。もっと報道すべきだ」という書き込みが多いと聞きましたので、関心を持っていただいているのだと受け止めています。

 ─ 昨年11月に内閣に提出された令和5年度決算検査報告では、公金648億円の使用が不適切だったという報告をされています。

 田中 はい。不適切であると指摘した総額が648億円、345件ありまして、石破総理に詳細をご説明いたしました。

 今回の検査報告のポイントは、令和2年度以降継続されたコロナ対策と、それらを引き継いだ形になっているものが多い物価高騰対策です。これらについては、過去4年間で計84事項を報告しています(注:新型コロナウイルス感染症対策・物価高騰対策関係経費等に関する検査結果(特設サイト)参照:https://www.jbaudit.go.jp/report/about/03.html)。以前より、コロナ対策の総括に資するものが必要と思っていました。

 そこで、コロナ対策が本格的に始められた令和2年度以降、これらの施策や事業を包括的にとらえて、できるだけ全容を示すことが大事であると考えてきました。

 ─ コロナ対策に関する検査結果としては、どのようなものがあったのでしょうか。

 田中 例えば令和2年度決算検査報告ですと、予算額1044億円で実施された布製マスク(アベノマスクといわれた)配布事業の検査結果について報告しました。この金額は国立大学の運営費交付金の年間予算の約1割に当たります。そのほかにも、GoToキャンペーン、持続化給付金などいろいろな施策がありました。

 令和5年3月には、コロナワクチン購入のための基金に約2兆4千億円が投じられ、8億8千万回分が確保されていましたが、検査の結果、この回数の根拠は分からなかったことなどを報告しました。

 また、これらのほかに話題になったものとして、予備費が挙げられます。これは特殊な財源で、国会の事前の議決を受けずに閣議決定だけで支出ができるというものですから、国会でも議論になりました。

 ─ 制度上そのような仕組みになっていると。

 田中 そうですね。令和2年度には、コロナ対策として約10兆円もの予備費が予算措置されました。ところが、この国の制度上、予備費のみを取り出して、執行状況をみることができないのです。戦後長い間、「予備費は他の財源に溶け込むので、予備費のみの執行状況は分かりません」というのが大蔵省、財務省の回答でした。ですが、会計検査院は、工夫を凝らし、この執行状況を初めて明らかにして、令和5年9月に国会に報告しました。

防衛予算、財政についても検査

 ─ 今回、防衛予算や財政についてもその全容を示す検査結果を公表されたと伺いました。

 田中 防衛予算の執行状況、全体像を明らかにして公表するのは今回初めてでした。防衛省では、新たに防衛力整備計画が始まり、5年間で43兆円と予算が増額されました。新計画の初年度のタイミングで、前計画と新計画を包括的に捉えたことは意味があったと思います。

 それから財政です。この国の財政健全化が喫緊の課題であることは、一般に認識されているところだと思います。

 コロナ対策の下で財政に大きな影響を与えたものとして挙げられるのは、1つは補正予算です。それから、新型コロナ感染症対応地方創生臨時交付金です。この交付金は令和2年度から4年度までの3か年度分を合わせて18兆3千億円になりますが、これは令和2年度の地方交付税交付金の1年分より大きい額です。

 もう1つが給付金です。みなさん一律10万円の特別定額給付金をもらったご記憶があると思います。その後も、令和2年度から4年度の間に、子育て世帯向け、低所得世帯向けに9種類の給付金が配られてきました。ですが、どういった層の国民にいくら配られたかなどといった全体像は、明らかにされていませんでした。そこで、全体の給付状況やその給付が届くべき人たちに届いていたのかを調べました。

 また、給付金を国民に送金する作業は市区町村が担っていましたが、これらの自治体にどれだけの負荷がかかっていたのかという点も調べました。

ゼロゼロ融資等で 不良債権は1.5兆円

 ─ 昨年12月、コロナ禍における中小企業の資金繰りを支援する政府系金融機関の貸付債権等に関する検査結果を公表されましたね。これはどう捉えていけばいいでしょうか。

 田中 これらに関しては一昨年と昨年に連続して検査結果を報告していますが、その中で明らかになった主な課題を一つ挙げるとすれば、融資の実施に関して、事後検証がなかなかできる状態ではないという点です。コロナ禍は緊急事態だったために、様々な書類を省略して申請を受け付けていました。

 そのため、後でフォローアップしようとしても、延滞等に至った貸付申込先の審査当時の状況が把握できないケースが散見されました。やはり、次の緊急事態が起きたときのことも踏まえると、書類提出等の要件に関して、何を緩和するのか、最低限取らなければいけない情報は何かを整理する必要があるでしょう、ということです。

 ─ ゼロゼロ融資等の不良債権が1.5兆円あるということが一部報道でも出ています。

 田中 はい。コロナ禍の初めの頃に貸し出したお金について本格的な返済が始まっています。その中で、政府系金融機関が行ったゼロゼロ融資等のうち、いわゆるリスク管理債権等として分類された債権の額が増加していることなどを明らかにしましたが、その結果がメディア側で集計されて1.5兆円が回収困難と報道されました。それから、全体としては令和5年度末時点で約20兆円がこれまでに貸し付けられ、8兆円がすでに返済されて、12兆円が貸付残高として残っています。

 しかし、リスク管理債権等は、果たしてそれで全部なのかというのが1つのポイントです。つまり1.5兆円というものは、終わりの数字ではなく、今現在も増え続けているということが検査結果から予想されます。

 ─ 融資に助けられた企業も多かったと思いますが、貸し倒れも多くあると。

 田中 ええ。民間のゼロゼロ融資等でも、政府系金融機関の貸出しと同じように返済できないケースが顕在化してきていることが分かっています。コロナ禍が始まってから3~4年間に、倒産が起きないようにさまざまな手立てを講じてきましたが、その効果がいま明らかになるタイミングであるという見方もできます。

エネルギー関連補助金の課題

 ─ 現在実質賃金マイナスの中で物価高騰が続き家計を圧迫しているわけですが、電気・ガス料金の値引き補助金に関してはどうみておられますか。

 田中 いわゆるガソリン補助金と電気・ガス補助金を合わせると、これらの補助金の予算総額は11兆円を超えています。

 実は令和4年度決算検査報告においてガソリン補助金の検査結果で問題提起したのと同じ問題が起こっています。電気・ガス料金の値引きのために小売業者に補助金を出すのですが、その事務局を民間の広告代理店の博報堂が担っているんですね。ガソリン補助金も、同じような仕組みで同社が事務局業務を実施しています。そして、検査の結果、非常に高い率で、委託・再委託が行われていることが明らかになりました。

 経済産業省は委託に関してガイドラインを策定しています。同省の外局である資源エネルギー庁は、このガイドラインに基づき外部委託が適当なものであるのか審査しなければなりません。しかしながら、検査したところ、審査過程の書類の中に、委託や再委託を必要とする具体的な理由等の記載は見つかりませんでした。したがって、この委託・再委託の妥当性を確認することはできなかったのです。

 また、その後、資源エネルギー庁は、事務局業務の担当を博報堂からデロイトに替えています。期間や補助金交付の仕組みなどが異なるとはいえ、ほぼ同じ業務内容であるのに、事務費が319億円から32億円と、10分の1ほどになっていました。

 ─ 様々な課題が明らかになったわけですね。

 田中 はい。電気・ガス補助金には巨額の国費が投じられているだけに、事務局経費などの諸経費については、より丁寧かつ効率的に使っていただき、説明責任を果たしていただきたいです。

財政監督機関の役割を果たしたい

 ─ ご紹介いただいた検査結果はどれも私たちの生活に身近なものばかりですね。このように税金がどう使われているのかを明らかにするということは、国民の側の意識も重要ですね。

 田中 この一年は、これまで接点のなかったテレビやラジオの生番組に挑戦するなど、積極的にメディア出演をしてきました。冒頭申し上げたとおり、視聴者からの反響を聞いていると、検査結果について、もっと知りたいという国民のみなさまの声が多くあることがよく分かりました。

 ですから、もっと分かりやすく、もっとタイムリーにお知らせしていくということが必要だと思いました。それは、私たちの反省事項でもあります。

 ─ テレビなどの生番組に出ることはかなり勇気がいることであったのではないですか。

 田中 生出演までの準備プロセスで、フリップや台本をテレビ局の方々と対話しながら作ることを職員と共に経験しました。何度も調整をしたものの、本番では違う展開になるというスリリングな経験もしました。

 そして、最もありがたかったのは、極限まで端的に分かりやすくお話ししなければ、視聴者には届かないということを勉強させていただいたことでした。

 われわれは、役所の人間ですので、お話しできることには、ある種限界もあります。正確性を重んじなければいけない場面があり、つい硬い文章になりがちです。そこをメディアの方たちがご理解くださって、もっと分かりやすい形でご説明していただけるというのはとてもありがたいことです。

 ─ 会計検査院の役割を改めて国民のみなさまにお伝えいただけますか。

 田中 会計検査院の普遍の使命は、財政監督機関であるということです。私たちは国費の使い方に関する検査結果を、行政だけでなく、国民と国民の代表である国会にお示ししています。その検査結果に国民のみなさまが関心を持ち、国会でも議論される材料になることで、予算編成や行政の質の向上につながっていくことが、我々の目指すところです。

 換言すれば、財政監督機関として、検査報告を通じて、財政民主主義が機能するよう貢献することが、私どもの役割だと思います。それは、決してたやすいタスクではありませんが、愚直に責任ある正論を申し上げていくことが肝要であると思います。