
坂本さんへの二つの提案
─ 前回は、紆余曲折を経て、1993年2月にハードオフの1号店を何とかオープンすることができたと。ブックオフコーポレーション創業者の坂本孝さんと出会い、中古本だけでなく、CDやビデオソフトなどのソフトもやりたいと言って、取扱商品を徐々に増やしていったという話でした。
ハードオフコーポレーション会長・山本善政の「わたしの人生を変えた一言」
山本 わたしが坂本さんに提案させてもらったことは、他にもいくつかあるんですね。例えば、当時、ブックオフでは漫画本、いわゆる、コミックは全部にビニールをかけていました。
─ タダでお客さんに読まれないように。
山本 そういうことです。タダ読みされたら嫌だと、坂本さんは考えていたんですね。ですが、わたしはこれは止めた方がいいと。タダで読まれてしまうかもしれないけど、枯れ木も山のにぎわいで、沢山お客さんが来ている方がいいじゃないですかと。誰もお客さんのいない店に入るよりは、お客さんがいっぱい来ている店の方が、新しいお客さんも入りやすいだろうと、わたしは考えたのです。
─ そういう顧客心理まで考えたわけですか。
山本 というのも、当時、中古本にビニールをかける時は、バックヤードでパートのおばさんたちが本をやすりにかけたりしているわけですよ。しかも、誰も見ていないから、ずっとおしゃべりしているわけです。
おしゃべりも問題だけど、こんなに皆さん、一生懸命に使い古した本をきれいに磨いてから陳列棚に並べているのに、今のままでは、この努力がお客さんに全く伝わらない。だから、オープンファクトリーにして、店の中で作業をお客さんに見せたらいいじゃないかと。
ですから、わたしは坂本さんに画期的な二つの提案をしたわけです。本以外にも取扱商品を増やしましょうということと、オープンファクトリーにして、作業を見せましょうということですね。
─ その時、坂本さんの反応はいかがでしたか。
山本 うん、分かったと。当時、ブックオフの標準店舗は35坪が平均値で、うちは1階が90坪あったので、だいたい3倍の広さがあったんですよ。だから、どうしても、本以外で何かを埋めなければならない。そういうこともあって、売り場を本以外にもソフトで埋めたり、オープンファクトリーで埋めたりして、それでちょうどいい感じになりました。
しかも、オープンファクトリーにはもう一つの効果もあって、パートの皆さんもお客さんに作業を見られているから、やり甲斐も出るし、「こんなにきれいにしてくれるんだ」と言われたら嬉しいわけです。
その結果、ムダなおしゃべりも無くなるという効果もありました(笑)。
─ それが結果的にお客さんを惹きつけたわけですね。
山本 ええ。とにかく、お客さんが沢山入って、次々に売れていくわけですよ。だから、坂本さんも興奮して写真をパシャパシャ撮って、それ以降、ブックオフのスタンダードとして、ソフトも販売するし、オープンファクトリーもやることになりました。
あの頃は、坂本さんも、わたしも、倒産の恐怖から逃れて、この店にかけるぞという思いで本当に必死でしたね。今のブックオフの人たちは、こんな昔の話は誰も知らないと思いますが、坂本さんとわたしの間にはそういう物語があったのです。