「20年前は町工場がそのまま大きくなったような企業だった」という駿河精機は2005年、ミスミグループとの経営統合により駿河生産プラットフォームと社名を変更。顧客の時間価値創出を掲げ、スマートマニュファクチャリングの取り組みを進めてきた。

3月6日に開催された「TECH+セミナー スマートマニュファクチャリング 2025 Mar. めざす工場の姿をデザインする」にミスミグループ本社 生産プラットフォーム 代表執行役員/駿河生産プラットフォーム 代表取締役社長の遠矢工氏が登壇。ミスミグループのマザー工場を担う駿河生産プラットフォームがどのような変革を行ってきたか、具体的な取り組みについて紹介した。

800垓の商品バリエーションに対応するマザー工場

ミスミグループ本社は1963年に設立、世界に108拠点、1万人以上の従業員を抱えるグローバル企業だ。製造業全体を支える機械部品の受注製作から販売まで手掛けている。自社ECで取り扱う商品は3000万点以上で、そのバリエーションは800垓(1兆の800億倍)にもなるという。同社がこだわるのは「確実・短納期」だと遠矢氏は話す。どんな注文にも素早く対応することが、顧客の時間価値を高めることにつながるからだ。これを実現するには、継続的に工場のリードタイム短縮と生産性の向上をしていく必要がある。

2005年には駿河精機(現、駿河生産プラットフォーム)と経営統合。駿河生産プラットフォームが静岡県静岡市に構える清水工場が、現在ミスミグループのマザー工場となっている。遠矢氏は、このマザー工場の生産性を劇的に向上させた取り組みを順に解説していった。

矛盾する受注生産の状況を解消するには?

遠矢氏がまず示したのは、マザー工場の受注件数のばらつきだ。日ごとのばらつきだけでなく、1日の中でも受注のピークとなる時間帯が複数回あるという。さらに、受注1件あたりの平均生産個数は2~4個と少なく、生産する商品の種類はさまざまで個数も多かったり少なかったりとばらつきが大きい。これを同社では「変種変量ものづくり」と呼んでいる。

  • 清水金型工場における受注数のばらつき

このように多種・少数個の商品発注に細やかに対応する柔軟な仕組みは顧客にとっては利便性が高い一方、生産側は「何が、いつ、何個注文されるか分からない」ことを前提とした体制をとらなければならない。加えてもちろん、「確実短納期で、安定供給できる」ことも必須だ。

「この相矛盾する状況を解決するために生まれたのがミスミ生産方式(MPS)です」(遠矢氏)

トヨタ生産方式の発展形・ミスミ生産方式とは

MPSは、トヨタ生産方式(TPS)の基本思想を源流としている。TPSの柱である「ジャストインタイム(JIT)」と「自働化」に「『受注の暴れ抑制』を組み込んだ発展形」だと遠矢氏は説明する。受注の暴れとは、先述のように受注の内容や件数が日々刻々と変化する状況のことを指す。

もともと、ミスミグループの工場の特長の1つは、通常多くの工場にはあるものがないことだ。それは「変種変量の生産のため、同じ寸法の製品が流れない」「全件個別寸法指定の受注なので、標準工数を設定しない」「全件確定納期の受注なので、生産計画をしない」「型番でも3Dデータからでも図面を流さない」の4つである。

「これらを『ある』にしてしまうと、時間がかかり、無駄が生じる。さらにコストもかかるので、この4つが『ない』ことがものと情報の良い流れを示す状態です」(遠矢氏)

これを踏まえ、MPSでは受注の暴れがある中でも、つくりすぎを防ぐ投入制御や、最短のリードタイムでつくるための最適な工程・工順設計のロジックが確立されている。これらにより、多種多様な受注内容が整理されたところで、多能工化した従業員が対応する仕組みだ。また、一連の流れを全自動にはこだわらず、「最適な自働化をすることが肝要だ」(遠矢氏)という。

「これらの仕組みをものづくりIT基盤と組み合わせて進めているところがユニークだと考えています」(遠矢氏)

MPSとものづくりIT基盤のコラボレーションが実現できているのは、ミスミグループがECによる受注販売を主としており、膨大なデータを蓄積した生産材のデータベースと、そこに規格、価格といったモノの属性を掛け合わせられるチェックエンジンを持っているからだ。

「生産側もこの生産材データベースを最大限に活用し、製販で効果的に連携しています。また、生産管理や作業支援といった現場に関わるシステムはほぼ内製しており、これが我々の強みになっています」(遠矢氏)

  • ものづくりIT基盤のイメージ図

自動化・システム化へ向けた「7つのステップ」

遠矢氏はここで約20年前の駿河精機の工場を振り返り、「町工場がそのまま大きくなったようなかたちで、ジョブショップで属人的なダンゴ生産だった」と語った。当時も確実・短納期は果たしていたが、それは「気合と根性」によるものだったという。そうした状況を改善すべく、地道に進めてきた取り組みから生まれたのが先のMPSやものづくりIT基盤というわけだ。さらに、変種変量ものづくりへの対応をフロー化し、管理手法として確立したのが「MPS改善7つのステップ」である。

  • 1.製品ファミリーの形成
  • 2.工程連結
  • 3.小ロット流し
  • 4.段取り改善
  • 5.流し方のルール設定
  • 6.平準化投入
  • 7.マシンタイム(設備加工時間)、ハンドリングタイム(手作業時間)の改善
  • まず、1と2のステップで形状やサイズなどをグループ化し、各工程を連結する。そこに小ロットでモノを流して(生産して)いくことでリードタイムが短縮されるが、伴って段取り替え回数が増えるのでその工数を改善する。これが、3、4のステップにあたる。さらに、5と6のステップを経て、「機械と人の稼働が平準化できる、いわゆる“清流化”が実現した」(遠矢氏)のだ。そして最後に、マシンタイムとハンドリングタイムの改善を行う。

    大きなポイントは「いきなり自動化やシステム化をしない」ことだと同氏は言う。

    「プロセス全体で良い流れを構築することなく、先に自動化・システム化をしてしまうと、“良くない流れ”のままでシステム化してしまうことになります」(遠矢氏)

    設備製造の内製化やAIプラットフォームで後押し

    次に取り組んだのは、生産設備の内製化だ。市販されている設備は、汎用性は高いものの、オーバースペックを排除するためにダウンサイジングなどの改良が必要だった。そこで駿河生産プラットフォームでは「ALASHI」と名付けた機械を開発。9つの製造工程を1台に集約し、1.4垓種類の受注製作品を1個から製造できる体制を整えた。

    「これにより、労務費は8割減、製造コストと製造するためのスペースも半減しました」(遠矢氏)

    このような改善を繰り返した結果、約14年間でリードタイムは40.5時間から0.6時間に、1人当たりの時間生産性も3.2倍に向上したという。

    • MPS改善の成果

    さらに同社は2019年、機械部品調達のAIプラットフォーム「meviy(メビー)」を本格展開した。このプラットフォームではAIによる自動見積もり機能により、設計者がつくる3DCADデータから即座に見積もりと回答ができるうえ、受注が決まれば、データは生産側へ自動連携される。従来、受注製作品は設計から納品まで3週間程度が一般的だったというが、「即日出荷対応も可能になった」と、同氏はその成果を強調した。

    「例えば部品点数が1500点の設備の部品調達に従来は約1000時間かかっていたものが、meviyを使うことで、約80時間で済むようになります。つまり、約9割を超える時間創出が図れるわけです」(遠矢氏)

    駿河生産プラットフォームの取り組みを一通り紹介した遠矢氏は、最後に改めて、顧客の時間価値創出を重視する理由について言及した。

    「顧客時間価値を追求することで、我々はものづくりの現場を下支えします。お客さまにはその時間を活用して自動化・少人化を実現し、社会を豊かにしていただきたいのです。(中略)我々はパーパスとして『静岡から魅せるものづくりで世界を豊かに』を掲げています。これからも静岡発のスマートマニュファクチャリングを進化させ続けていきたいと思います」(遠矢氏)