4月1日に全国の各企業で入社式が開催され、新入社員が社会人の第一歩を踏み出した。コロナ禍など先行きが見えにくい社会で学生時代を過ごしてきた新人たちに、各社のトップが贈った言葉を紹介しよう。ここでは製造業・航空大手の計6社が公開した、入社式の訓示を抜粋して取り上げる。
三菱重工
三菱重工グループ 2025年度入社式では、この日就任したばかりの伊藤栄作新社長・CEOが、新たに同社グループの一員となり社会生活のスタートを切った新入社員に対し、モノづくり企業のトップとして励ましの言葉を贈った。
「(私が)入社して任されたのが、新しいコンセプトのジェットエンジン向けタービンの開発プロジェクト。独創性が求められるプロジェクトのため、あえて若手が選ばれたようだ。企画から開発、設計、試作、評価まで、モノづくりのすべてのプロセスを任せてもらったことで、その後の礎となる貴重な経験を積むことができた。若手のうちから大きな仕事に挑戦できるという風土は、当社グループの大きな特徴だ。もちろんプレッシャーはあるが、失敗も含めてそうした経験を積むたびに、成長する自分を実感できた」(伊藤CEO)
「当社グループの最大の魅力は、社会との関わりの深さにある。モノづくりを通じて社会に貢献したいという想いで入社した方も多いはず。当社グループには、その想いを実現できる無数のチャンスがある。なぜなら、私たちの事業フィールドは、海の底から宇宙の果てまで、グローバルに広がっているからだ。もちろん、乗り越えなければならない壁は高い。しかし、その分だけ大きく成長でき、自らの成長とその先にある社会への貢献というやりがいを重ね合わせることができる」(同)
「私たちが保有する技術は700以上ある。ハードウェアからソフトウェアに至るまでの技術の多彩さこそが唯一無二の企業たる所以。これらの技術を組み合わせることで、かつてないモノづくりを実現している。そして、それらをビジネスとして育て社会に実装していくためには、さまざまなパートナーと協力し、全体最適となるソリューションを提供していくことが求められる。多様で豊かな知見と視座をもつ多くの人材がチームを組み、互いに高め合いながら、未来志向で挑戦していく姿勢が欠かせない」(同)
「当社グループの事業を支える根幹は人であり、多様な人材の個の力の結集が組織力となる。個の力を高めるために、さまざまな挑戦と成長の機会を皆さんに提供する。一方で、それらは与えられるのみではなく、自ら切り拓くものでもある。皆さんには、人生を通して取り組む社会課題を見出し、組織として目指すものと重ね合わせて、挑戦と成長を重ねていってほしいと思う」(同)
京セラ
京セラ 代表取締役社長の谷本秀夫氏は、4月1日に発表した社長訓示のなかで、以下のように述べている。
「デジタル社会が進展するなか、半導体関連市場は今後も大きな成長が見込まれており、新しい技術革新への期待も一層高まっている。社内でも、AI活用とデジタルトランスフォーメーションの推進を一層加速させており、より付加価値の高い仕事に集中し、創造的な業務に取り組めるようになる。こうした環境で、ぜひ積極的にチャレンジし、自らの成長を実感しながら、会社の発展にも貢献することを期待している」(谷本社長)
「皆さんの活躍に向けて、大切なことを2点伝えたい。1点目は『チームワークを大事にする』こと。京セラは『心をベースとした経営』を重視している。チームメンバーと日常的に会話を交わすことで、互いの考えや意図を理解し合い、信頼関係を築いてほしい。2点目は『変化を恐れない挑戦の姿勢を持つ』こと。京セラは常に革新を追求し、新たな価値を創造し続けてきた。柔軟な思考と挑戦する姿勢が必要であり、変化を恐れず、新しい技術や方法を学び続けることで、個人の成長と会社全体の発展に寄与してほしい」(同)
「創業者・稲盛和夫は持続的な売上拡大と高い利益率を実現し、すべての面で人々から尊敬される企業の中の企業『ザ・カンパニー』の実現を目指した。この夢を共に追い求める一員として、皆さんの活躍を期待している」(同)
ジェイテクト
ジェイテクト 取締役社長の近藤禎人氏は、愛知国際展示場(Aichi Sky Expo)でグループ会社と合同で開催した入社式において、以下のようにあいさつした。
「ジェイテクトグループには、たくさんの技術や強みがあります。誰にもまねできない、技術や強みを我々は『コンピタンス』と呼んでいます。私がジェイテクトの社長に就任した時、ジェイテクトグループが、広い分野で本当にたくさんのコンピタンスを保有していることにとても驚きました。この類を見ないコンピタンスの多さも、私たちの素晴らしい強みです。グループが一体となりこの『コンピタンス』を『つなげる』ことでもっとすごいモノが生み出せる。だからこそ私は『つなげる』ことが重要だと考えています」(近藤社長)
「わかりやすい実例を紹介します。あるパートナー企業から『産業用ドローンの性能を向上したい』という話を頂きました。従来のドローン技術に、ジェイテクトグループが保有する『モーター制御技術』を『つなげる』ことで、独自の『フライトコントローラー』を開発することができました。『フライトコントローラー』とは人間でいう頭脳です。センサーや部品から送られてくる情報を整理し、ドローンの姿勢や速度などをコントロールします。これにより、ドローンの飛行性能は格段に向上し、パートナー企業の笑顔につながりました。ドローン技術にモーター制御という『コンピタンス』を『つなげる』ことで、新たなソリューションを提供する事ができた事例です」(同)
「今年(2025年)の1月には、この『つなげる』を会社として実践していくために『ソリューション共創センター』を立ち上げました。まさにジェイテクトグループのコンピタンスをつなぎ、ソリューションの創出を助ける組織です。現在進行形で様々なプロジェクトが立ち上がっています。これから、お客さまの困りごと、社員の困りごと、社会課題をどんどん解決していく予定です。皆さんも自分のコンピタンスを見つけて、ぜひ活かしてください」(同)
日本精工(NSK)
日本精工(NSK)の入社式では、新入社員へのメッセージに加えて、記念品としてスムーズに回転する精密ベアリングを搭載したコマ「Yen Spin」を新入社員一同に贈呈。これは会社へのエンゲージメントを高めることを目的としたものだという。同社取締役 代表執行役社長・CEOの市井明俊氏は以下のスピーチを行い、新人たちを激励した。
「いま我々が生きている社会は、難しく、複雑で、単純には正解にたどり着けない問題があふれており、そのなかで良い正解を探していかなければなりません。だからこそ、社会とのつながりを意識し、どのように社会に貢献できるか、という視点で物事に真摯に向き合い、誇りを持って働いてほしいと思います」(市井CEO)
「そこで大切にしてほしい3つのキーワードについてお話します。ひとつめは、『誠実」、Do the right ThingsDo the right Thingsです。より良いこと、より正しいことは何かを考えて、社会人として、NSKNSK社員として行動してほしい。ふたつめは、『個を越えて 今を超えて』です。これまでの常識や固定観念に捉われることなく、新しい視点や発想を取り入れて前進し続ける気持ちを大事にしてもらいたい。みっつめは、『出会いと仲間を大切に』です。最初は自分の事だけで精一杯かもしれませんが、徐々に周りとの繫がりも見えてくるはず。そこでの出会いは、自身の可能性を広げるだけでなく、悩んだ時に支えとなります。きっと皆さんの人生を豊かにするものです。大切にしてください」(同)
全日本空輸(ANA)
全日本空輸(ANA)は、羽田空港のANA格納庫で同社グループの入社式を開催。ANAホールディングス代表取締役社長の芝田浩二氏が、グループを代表して新人たちの入社を歓迎し、次のようにスピーチを行った。
「皆さんが今いらっしゃる格納庫は、約5年に一度、航空機を部品レベルまで点検し、安全に空を飛び続けるための整備を行う、航空会社にとっては安全の原点となる場所です。『安全の原点』であるこの場所で、ANAグループの一員となるにあたり、皆さんにお伝えしたいのは、安全は経営の基盤であり、社会への責務である、ということです」(芝田社長)
「今、世界各地で航空機の運航の安全を問われる事象が起こっています。この状況下、私たちはより一層の安全、安心をお客様にお届けするために力を尽くすことが求められています。堅持すべき安全は、航空機の運航にかかわる安全だけでありません。皆さんのそれぞれの職場、業務によって、食の安全、お客様からお預かりする個人情報、社員の作業安全など、多岐にわたります。この格納庫で迎えた今日の日を、一人ひとりが責任感を持ち、ANAグループの安全を堅持していく一員となる決意の日だと肝に銘じていただきたいと思います」(同)
「今年度(2025年度)は、羽田空港第2ターミナルの本館と北サテライトの接続による利便性の向上や、ANA 国内線予約・搭乗サービスの刷新、ボーイング787、737の新規機材の導入など、ANAグループのこれからの持続的成長を後押しする基盤を一層強化します。これまでのANAグループの成長を支えてきた多くの先輩社員と同様、皆さん自身もぜひ日々努力し、挑戦し、そして互いを尊重し高め合い、これからのANA グループの成長に向けた原動力となっていただけることを期待します」(同)
日本航空(JAL)
日本航空(JAL)も、羽田空港にある「JALメインテナンスセンター2」で同社グループの入社式を開催。代表取締役社長執行役員 グループCEOの鳥取三津子氏は、新入社員を前に「『安全』と『お客さま』のふたつをすべての起点として、考え・行動をしてほしい」と呼びかけた。
祝辞のなかでは、1985年に発生した日航123便の御巣鷹山墜落事故から40年目の節目を迎えることを念頭に置き、以下のように語っている。
「今日という日に改めてお伝えしたいことは、JALグループでは、いかなる仕事であってもすべて、安全運航とつながっています。そしてその先には、お客さまのかけがえのない命をお守りしている、ということです。JALフィロソフィでは「尊い命をお預かりする仕事」になりますが、これは社員全員のひとつめの原点になっています」(鳥取CEO)
「コロナ禍前後で、人の価値観は大きく変わりました。お客さまが『何を求めていらっしゃるのか』これを理解し、把握することが重要です。すなわち、お客さまの声に耳を傾け、学ぶ姿勢を大切にする、迷った際の答えが、常にここにあります。まもなく大阪・関西万博が開幕し、国内外から多くのお客さまをお迎えする見込みです。インバウンドのお客さまは、史上最高の4,000万人を超えると予想しております。 お客さまの価値観や、バックグラウンドの多様化が進む中で、JALグループ社員は、常に、この『お客さま視点』を磨き続けることを大切にしています。そして、JALフィロソフィでは『お客さま視点を貫く』、これは社員全員のふたつめの原点になっています」(同)
「JALグループは、コロナ禍の2021年度から5年間の経営計画を立て、総じて順調に歩みを進めて来ました。今年度2025年度は、その最終年度でもあり、且つその先の未来に向けた大変重要な1年になります。私達は2030年に向けて、『多くの人やさまざまな物が行き交う、心はずむ社会・未来』の実現を目指しています。その途上である今年度は、社会課題を解決しながら、更なる成長の時期に向かう、重要で、チャレンジングな年ですが、まさに社員全員で力を合わせることができれば、必ず目指す未来に到達できると信じています。 一人ひとりが、何が出来るかを考え、皆さんの新しい力を原動力に変えて、JALグループ全員の心を一つにして取り組んでまいります」(同)