NTTタウンページは、これまで100年以上にわたり職業別電話帳であるタウンページを提供してきた。しかし、インターネット環境の進化に伴う顧客ニーズの変化に合わせ、数年前から、ホームページ制作・運用を起点としながら、Web広告の運用なども含めた総合的なデジタルマーケティングサービスをワンストップで支援する「Digital Lead」やマーケティングデータの「タウンページデータベース」、ECやWeb広告などのデジタル広告にシフトしている。2026年3月には、タウンページは発行を終了する。

こうした主力事業の変化に伴い、社員に求められるスキルも変わってきたため、同社はリスキリング環境を強化、昨年4月から本格運用を開始した。そこで、同社の総務人事部にリスキリング制度の概要とその成果について聞いた

  • 左から、NTTタウンページ 総務人事部 人事労働部門 採用育成担当 担当課長 春日剛氏、佐藤由美氏、春田るり氏

全社員のウェブ解析士とSEO検定1級の取得を目指す

NTTタウンページの事業内容の変革は、2019年ごろから始まったという。総務人事部 人事労働部門 採用育成担当 主査 春田るり氏は、事業の変革について次のように説明した。

「中堅・中小企業のビジネス拡大にとって、インターネットを活用したマーケティング活動は不可欠となる一方で、時間や人手の確保のほか、専門的な知識や経験が求められることが事業者様の課題となっていました。その課題を解決するために、新たな事業の柱として、2019年にホームページを起点に中堅・中小企業の『集客から成約まで』をワンストップで支援する「NTTタウンページDigital Lead Powered by Wix」というサービスを開始しました。当社にとっては、これが事業構造の変革の始まりでした。2023年には中堅・中小企業のビジネス拡大・成長の支援をさせていただく会員サービス『Myタウンページ』や、2024年は地元のお店や企業と街の人々をデジタルでつなぐ総合ライフポ ータル『iタウンページ』をリニューアルするなど、デジタル分野への移行を着実に進めています」

  • NTTタウンページ 総務人事部 人事労働部門 採用育成担当 主査 春田るり氏

同社は2024年度、リスキリングを推進するにあたり、ウェブ解析士とSEO検定1級の資格を取得することに注力した。

その背景について、総務人事部 人事労働部門 採用育成担当 佐藤由美氏は、「お客様の課題を解決するにはデジタルスキルが必要です。具体的には、社内の通常の会話の中でも、きちんとデジタルの専門用語が飛び交うような会社であることが重要だと思っています」と語った。

  • NTTタウンページ 総務人事部 人事労働部門 採用育成担当 佐藤由美氏

資格を取得した社員が増えることで、「われわれの会社はデジタルに大きくシフトした」という一つの指標となるのではないかと考えたという。

同社では、土台スキル、業務別スキル、応用スキルの3ステップでデジタルの「匠」になることを目指している。会社が求める人物像に近づくため、まず、基礎である土台スキルを学び、次に業務スキルや応用スキルの習得に進むという3つのステップに分けて社員を育成している。

「デジタル人財という言葉だけでなく、会社が求める人財像や何のために資格を取得するのか、社員に理解してもらった上で進めています。世の中が急速に変わってきたため、それに合わせてわれわれも進化しなければなりません。取得した資格をどう業務に生かすかも重要です。モノ売りからコト売りに変化して行きながらお客様に成果・効果を伝えていくことでCX向上を目指し、最終的には会社の売上に貢献していきましょうと話しています」と語るのは、総務人事部 人事労働部門 採用育成担当 担当課長 春日剛氏だ。

  • NTTタウンページ 総務人事部 人事労働部門 担当課長 春日剛氏

土台スキルの取得に向け3つのプログラムを用意

同社は土台スキル向上に向け、資格取得講座、オンラインラーニング、スキルズインベントリーという3つの研修プログラムを用意している。

資格取得講座は、ウェブ解析士とSEO検定の試験対策講座だ。当初は、講師が作った資料をベースに講義形式で実施していたが、もっと試験の問題傾向に沿ったものを増やしてほしいという社員からのアンケート結果に基づいて設定した。

オンラインラーニングは、LinkedInラーニングと契約し、社員が数万というコンテンツの中から好きなものを選んで、いつでも受講できるようにするもの。自宅や通勤途中でも視聴できるが、同社は勤務時間中に学習できるリスキリングタイムも設けている。

「上司と意識を合わせた上で、勤務時間中の学習時間としてリスキリングタイムを設定しています。時間がないので勉強できないといった社員には、1週間あたり4時間を目安にリスキングタイムを設定しながら、勉強する時間を確保しています」(春日氏)

スキルズインベントリーは、スキルレベルチェックを実施し、そのスキルに満たない部分を繰り返しオンラインラーニングで学習する、というものだ。会社が身に付けてほしいスキルの動画を事前に選定しており、2024年度はMicrosoft 365のFormsやTeamsを設定したという。

「LinkedInラーニングはコンテンツが多いので、何を学んでいいのかわからないといった悩みもあります。そこで、私たちが『これについて学習してください』と案内する仕組みを作りました。どれだけスキルが身についたのかを自己判定し、一定のレベルに達しなかった人は、繰り返し動画で学習してもらいます」(佐藤氏)

モチベーションの醸成にデータベースを活用

社員の資格取得のモチベーションを醸成する仕組み作りも行っている。「いつまでにどの資格を取るのかを宣言してもらい、それをデータベース化して、いつまでに何をやらなければいけないのかといった気持ちを高めていく、という設計です。研修終了の記録をデータベースに残し、さらに将来の自分像をデータベースに入力してもらい、上司とミーティングしながら振り返ることも行っています」(春日氏)

総務人事部では、資格を取得する時期をデータベースに入れることによって、いつまでに〇〇をやらなければいけないという意識が高まり、自主的な行動を促せると考えているという。

加えて、データベース(タレントマネジメントサービス)から、資格を取得している人数、取得計画を宣言している人数、資格を取っていない人数、計画していない人数などを細かく分析しながら、ピンポイントで課題をつぶしていくことにも取り組んでいるそうだ。

社員の7割が資格を取得

こうした取り組みによる成果も出ている。2年前には、合計で100名程度であったウェブ解析士とSEO検定1級の有資格者は、現在(2025年3月時点)、ウェブ解析士が648名、SEO検定1級が376名と、延べ1024名が資格を取得しており、ウェブ解析士協会の法人会員(全76団体)の資格保持者数1位を獲得している(2025年3月5日現在、ウェブ解析士協会調べ)。

これにより、社員の約7割が有資格者になるという。 また、取得したスキルを現場で生かすため、ジョブローテーションや社外OJTに参加することを推奨している。インサイドセールスや営業組織と連携することで、1月までに社員の約4分の1に当たる243名がジョブローテーションに参加しているという。

「資格を取るだけで終わりではなく、お客様と接することによって実践し、仮にうまくいかなかったとしても、さらにどんな勉強をしていけばいいのかに気づくことができると思っています」(春日氏)

2025年度はDXや業務効率化人財の育成に注力

4月からスタートする2025年度は、デジタルマーケティング会社に完全シフトしていくため、DX(デジタルトランスフォーメーション)や業務効率化に注力し、NTTグループを牽引していく人財の創出につなげていくという。

「研修は一度やったら終わりではなく、体系づけて進めていきます。今年はこの研修をやったから来年は次のスキルを伸ばしていきましょう。今年はこれが足りなかったから、来年はプレゼン力を上げていきましょうといった形で、ヒューマン、テクニカル、コンセプチュアルを意識した研修をしています」(春日氏)

デジタルスキルの向上としては、SEO検定やウェブ解析士の知識を生かした、業務効率化に向けた生成AIやCopilotの活用のほか、DXスキル 向上に向けたMicrosoft 365のSharePoint活用に取り組んでいくという。

また、自律や主体的なキャリア形成に向けた専門性にひもづく資格取得を推進するためのオンラインラーニングの活用、アクション(実行)の蓄積としてのダブルワークやジョブローテーション推進、NTTグループ間の交流の推進等によるデジタルで勝ち続けていける人材の創出に注力していくという。

「タウンページは新たな時代に向けて生まれ変わります。私たち採用育成担当は社員全員が一丸となって取り組むための仕組みを、2025年度に作り上げるという強い決意を持って携わっていこうと考えております」と佐藤氏は語っていた。