顧客を真に理解するためには、営業とマーケティングの情報共有が重要だ。しかし、両者は異なる目線で動いていることが多く、うまく連携がとれていない組織も少なくない。
営業とマーケティングが連携し、組織力を高めていくにはどうすればいいのか。
2月25日に開催された「TECH+フォーラム BtoBマーケティング×セールス 2025 Feb. 企業が成果を出すための連携戦略」に、JTB 執行役員 ブランディング・マーケティング・広報担当(CMO)の風口悦子氏と、営業組織の支援を行うTORiX 代表取締役の高橋浩一氏が対談。営業とマーケティングの連携におけるポイントについて語った。
マーケティングと営業の連携に重要なのは「共通言語」を持つこと
対談の最初のテーマは「共通言語」だ。マーケティングと営業のように社内の異なる部門が連携するうえで、「共通言語を持つことが重要」だと高橋氏は述べる。
ただ、そもそも多くの人がいる場合、それだけで共通言語を持つことは難しい。高橋氏のリサーチによると、目標を達成できているチームとそうでないチームを比べたとき、前者の方が圧倒的に共通言語を持っているケースが多かったという。
これに風口氏は、前職である外資系企業を例に挙げて次のように述べた。
「前職ではよく『共通言語は数字です』と言われていました。やはり数字は客観性を持つうえで重要だからでしょう。ただ、数字だけでは進められないこともたくさんあります」(風口氏)
これに対して高橋氏は、「『共通言語が数字である』ということを全員が認識していること自体が共通言語なのでは」と分析する。
「カルチャーの強い会社だと、卒業生の方が口々に同じようなことを言う場合があります。それはその会社のDNAのようなもので、社内でも誰もが繰り返し言葉にして発していることが多いのです」(高橋氏)
実際、言葉がそろっている企業は業績も良いことが多いという。例えば高橋氏が支援したとある企業では「営業で成果をあげるのに大事なこと」を問うと、全員が声をそろえて「事前準備で決まる」と答えるそうだ。
「商談前のロールプレイは忙しい人からすると負担に感じることもあるでしょう。それでも皆が信じているから、声がそろうわけです」(高橋氏)
こうした共通言語を持つこと、さらにはそこから生まれる一貫したカルチャーを持つことの重要性は、マーケティングと営業の連携においても同様である。
多くの企業で、マーケティングと営業は違う目線で動きがちで、それゆえの対立もよく起きている。そんななかで部門を超えた共通言語や認識をつくるためには、「顧客」という拠り所が必要だ。
「ゴールは同じでもやり方が違うとき、社内でも意見が合わないことは多いです。そんなときに、“お客さまのために”とか“お客さまがこうなるために”のように考えると、社内で向かう方向をひとつにしやすくなります」(風口氏)
どうすれば顧客を理解し、解像度を高めていけるのか
続いてのテーマは「顧客理解」だ。顧客はビジネスにおいて最も重要な存在でありながら、一方で理解するのが難しい存在でもある。
例えば、マーケティング担当者は数字や画面越しで顧客の行動を追うことが多いが、営業担当者は商談で面と向かって話した内容で顧客を理解しようとすることが多い。どちらか一方ではなく、これらの情報や目線をいかに統合するかが顧客理解のためには重要なのだ。
近年、とくにコロナ禍によるDXの加速は、顧客理解においてエポックメイキングな出来事だったと風口氏は分析する。
「マーケターはこれまで、営業担当者が商談の場において肌で感じた雰囲気や機嫌、タイミングなどはまったく分かりませんでした。営業担当者にしてもなぜそれをマーケターにわざわざ共有しないといけないのかといった雰囲気があったと思います。しかし、コロナでデジタルの存在感が増した結果、営業担当者もお客さまを訪問しにくくなり、デジタルでのやりとりが増えました。その結果、デジタルコンテンツに興味を持つようになり、マーケターと一緒につくっていこうという機運が高まったと感じています」(風口氏)
風口氏の前職の企業では、とにかく「数字」の重要性が社内の共通言語になっていたのは前述の通りだ。一方で、「データはデータしかない」という言葉もまた、社内の共通認識だったという。
「データを見るだけでなく、そこから何のインサイトが得られるかが重要です。また、データ部門やデータサイエンティストがいるというだけでなく、誰もが見たいときにデータにアクセスできる状態にしておくことも大切なのです」(風口氏)
こうしたデータの重要性と、それをどう社内に拡大していくのかという点については、高橋氏も多くの支援事例で見てきたそうだ。
「営業職の方の中には一定割合で、データなんか意味がない、データに表れない部分に大切なものが眠っているんだと言う方もいらっしゃいます。ただ、そうした“大事なもの”というのは、その人の外に出てくることが少ないのです。その理由は、お客さまと接するなかで感じたデータにはできない機微を言語化するのがそもそも難しいということ。また、他の人に共有する余裕がない人が多いということもあります」(高橋氏)
これを防ぐには、普段から組織全体で“対話”を行い、情報共有のカルチャーをつくっておくことが重要だと高橋氏は言う。それでこそ、顧客に対する解像度があがり、業績向上にもつながるのだ。
JTBが実践する営業とマーケターの連携
JTBでは、マーケティングと営業の連携についてユニークな施策を行っている。それは「営業部の中にマーケターを配置する」というやり方だ。
「営業の近くで同じものを見て、同じことを考えることはマーケターにとっても重要です。そこでJTBでは、営業に寄り添うマーケターを配置して、営業と一緒に日々の活動を行うようにしています」(風口氏)
その結果、営業とマーケターが対立することなく、お互いを理解し合いながら、顧客への提供価値も高めることができているという。
「組織が分かれていると、『ここからここまでが私の仕事で、ここからはあなたの仕事です』というようになりがちですが、同じディレクションのなかで、同じミッションを持っていると、業務的にも重なる部分が出てきて、歩み寄れるようになります。また、データの見方についてマーケターが営業に伝えられたり、案件化しそうなお客さまをインサイドセールスと一緒にカバーしていったりできるのです」(風口氏)
とはいえ、こうした部門を超えた連携が全ての企業で可能なわけではないだろう。この点について高橋氏は、「トップの重要性」を説明する。
「別の部門が共有を深めるには、やはり場をつくることが大事です。ただ、場をつくったからといって売上が増えるわけではないので、理解を示してもらえないこともあるでしょう。そこで重要なのがトップです。対話の大切さを理解しているトップが、きちんと責任を持って場を確保することが必要なのです」(高橋氏)
シェアすべきは「顧客の心が動いた決定場面」
では、どんな情報をシェアすべきなのか。高橋氏が例としてあげるのが「顧客の心が動いた決定場面」だ。
仮にコンペで自社が選ばれたのであれば、「どの場面で当社にしようと決めていただけたのか」についてヒアリングする。プレゼンを聞いている途中でピンときたのか、他社の提案がいまいちだったのか、あるいは議論しているなかで誰かの発言が決め手になったのか……などである。こうした決定場面を顧客からヒアリングし、さらにデータが残っているのであればオンラインの商談の様子などを振り返ることで、成功のポイントがマーケティングにも伝わり、再現性を高められる。
もちろん、失注してしまったケースでも、可能であればヒアリングはしたい。なぜ失注したのかという情報は非常に価値の高いものであるにもかかわらず、大抵の場合、営業は失注の報告をあまり詳細にせず、曖昧に伝えがちだからだ。
受注と失注、いずれのパターンでも顧客からきちんと情報を引き出し、営業やマーケティング全体で共有することが大切なのである。
マーケティングと営業は、普段は目線の違いなどからあまり関係性を構築できていないことが多く、多くの企業にとって悩みの種になりがちだ。本対談で語られたさまざまなヒントを実践することで、組織力の向上を図れるだろう。