NECと東北大学病院は3月6日、新薬開発で課題となっている治験患者登録の効率化に向けて、新たに共同で開発した医療分野に特化したLLM(大規模言語モデル)を活用して、電子カルテ情報をもとに条件に適合する候補患者を抽出する実証実験を、2024年10月から12月までの3カ月間実施したことを発表した。

NECと東北大学病院は今後も他の疾患や診療科などでの実証を行いながら、実装に向け再現性の検証やLLMの精度向上を図り、ドラックラグ・ロス解決への貢献を目指す構え。

  • 医療分野特化のLLMを活用したカルテ情報と治験条件の照合自動化のイメージ

    医療分野特化のLLMを活用したカルテ情報と治験条件の照合自動化のイメージ

実証の概要

日本における新薬開発では、新薬が海外で承認されてから日本で使われるまで時間がかかる「ドラッグラグ・ロス」が課題となっており、その背景の1つに臨床試験における症例集積期間の長期化がある。

期間の短縮を目指す中で、条件に適合する患者のリクルーティングがボトルネックとなっており、多忙な医療現場の負担を増やすことなく効率的に治験候補患者を見つける方法が求められている。それはまた、患者にとっても新しい治療法へのアクセスの可能性を高め、利益をもたらすことになるという。

今回の実証は、東北大学病院ベッドサイドソリューションプグラム アカデミック・サイエンス・ユニット(ASU)の枠組みを活用し、治験患者登録の効率化に向けて、医療分野に特化したLLMを新たに開発し、カルテに記載された文章の解析と治験条件との照合に活用して有効性を検証したものとなっている。

実証の結果

今回の実証は、東北大学病院婦人科の医師の協力を得て実施された。東北大学病院の過去の診療記録データをもとに共同開発した医療分野に特化したLLMを活用し、電子カルテに記録された患者の病名や症状、健康状態、治療歴などの情報を、不足情報を補完しながら整理したという。

さらにその情報と対象試験の条件とを照合し、電子カルテのどの情報から条件に適合していると判断されたかという情報とともに候補患者を自動で抽出した。

その結果、2017~18年の2年間における東北大学病院婦人科の約2000人の患者のカルテデータをもとに、約70人の候補患者を自動で抽出することができ、その中に対象試験に登録可能性があった患者7人が含まれていたことを確認したという。

一方、実際の試験では、2017~18年の2年間で、診療の中で電子カルテ情報をもとに対象者4人のリクルーティングを行っていた。このことから、LLMを活用することにより、リクルーティングにおける医療現場の負担軽減とともに、研究期間あたりの患者登録数を増やし、登録促進に寄与する可能性が示されている。

今後の展望

NECは、今回の実証の成果を踏まえ、治験候補患者の抽出プロセスの変更など、新薬開発におけるドラッグラグ・ロスの解決に向けた提案に取り組んでいきたい考え。具体的には、2025年度中に実証を重ね、年度内に医療LLMに関連したサービスの提供を目指す。

東北大学病院は、治験の質と効率を向上させる新たな取り組みを積極的に導入し、患者がより良い治療選択肢にアクセスできる環境を整え、新たな治療選択の開発に貢献していきたい構え。