両備システムズは3月6日、記者説明会を開き、バングラデシュにおいて効率的な農業を行い、生産性の向上に貢献するためAWD農法(間断灌水により節水、収量増加が見込める稲作農法)の浸透を図る目的で実証事業を開始すると発表した。今回の実証事業は経済産業省の「グローバルサウス未来志向型共創等事業」に採択されており、今後エリアの順次拡大を予定しているほか、AWD農法でメタンガスの発生を削減して地球温暖化対策にも貢献するという。
稲作生産量が世界3位のバングラデシュ
両備システムズでは、今回の実証を「農業データプラットフォームによる農業DXおよびカーボンクレジット創出事業」として進めていく。両備グループの海外事業展開については東南アジアを中心に倉庫管理や陸送事業を運営し、ベトナム、ミャンマーなどにコールドチェーンの物流倉庫を展開している。
一方、両備システムズは2019年に海外事業としてラオスにRyobi Laoを設立し、IT事業を展開してノウハウを蓄積してきた。ラオスでは、政府とデジタルエコノミーの共同研究についてMOU(基本合意書)を締結し、ITソリューションの適応・実装検討を重ねているほか、日本のシステム開発の一部をオフショア開発の形でラオス人エンジニアとともに取り組んでいる。
両備システムズ ビジネス戦略本部 グローバル推進室 室長の小野泰史氏は「今後、さらなる海外事業の拡大に向けてアジアへの進出を検討し、バングラデシュで活動している日本企業や現地企業とのつながりができたことから、バングラデシュでの事業検討を開始した。バングラデシュはITが急成長しており、脱炭素ソリューションの拡大を見据えて新たな分野における取組として今回の事業に至っている」と述べた。
バングラデシュは名目GDPが約4700億米ドル、経済成長率は6.0%であり、人口は1億7000万人、国土面積は14万7570平方キロメートルで人口密度が高い国だ。稲作生産量は中国、インドに次ぐ世界3位であり、農業従事者は3206万人、気候変動リスクは世界7位となっている。
バングラデシュにおける稲作の課題を解決するAWD農法
同国における農業の課題について、両備システムズ ビジネス戦略本部 グローバル推進室 海外戦略グループ リーダーの宮宅俊輔氏は「実際にヒアリングしたところ、農家の財政的困窮や担い手不足、農業技術の遅れ、資金調達手段の不足など効率化・生産性向上、収入の向上を希望している。これに対する解決策としては、マイクロファイナンスによる資金調達、農機具支援、営農指導員による技術支援、カーボンクレジット創出による還元が必要だと考えた」と話す。
そこで、技術支援する手法としてAWD農法を採用。これは、水田で稲の生育途中に田に水を満たした状態と、水を落として干した状態とを数日おきに繰り返す水管理技術。これにより、土壌からのメタン発生量を低減し、約35%のGHG(温室効果ガス)削減効果が得られ、節水・稲作の収穫量増加が期待されるという。
バングラデシュでは1年に3回(7~8月収穫、12月~1月収穫、3月~5月収穫)の稲作周期があり、作付面積は1171万ha、生産量は約4000万トンとなり、GHG削減量は約3490万トンで、カーボンクレジット創出量に換算すると1047億円の経済価値を生み出すとされている。
すでに、同社では2024年3月~12月(1収穫期分)に4.5ha、AWD農法と比較する通常農法で6haを対象に事前調査を実施。計測内容は、農業プロセスデータとして苗植~収穫までの稲作プロセス、水門管理状況、水田推移状況(数値、写真)などに加え、メタンガス計測データとして苗植~収穫までの週次計測データを収集。
検証は(1)農業プロセスデータによる収穫量向上の可能性と試験農家のモチベーション把握、(2)メタンガス測定による作付期ごとのAWD効果測定、(3)カーボンクレジット創出に必要なデータ管理の3つの項目とした。また、KPIはGHG削減が30%以上の削減、収穫量を1%以上向上させることとし、結果的にGHGを30%以上削減し、収穫量を20%以上向上させたという。
実証事業の概要
こうした調査事業の結果を受け、有用性を判断したため実証事業を行う。具体的な事業内容は、水田情報や農業情報、農家情報といった農業プロセスデータを収集・分析を一元管理するデータプラットフォームを構築し、実態に即した最適な営農指導を展開するとともに、AWD農法を通じたGHG削減によるカーボンクレジット創出事業を目指す。
宮宅氏は「農家に対してデジタル営農指導や農業の活動状況を見える化することで、農家の与信情報としてマイクロファイナンスやマイクロ保険の事業につなげていく。カーボンクレジットの創出で農家に一部を還元する仕組みを可能とし、政府向けには農業ビッグデータとしてデータ活用領域の拡大につながるような事業展開を想定している。AWD農法の普及とデジタル支援を行うことで農業分野の発展と社会課題の解決につながる事業にしていく」と説明した。
期間は2025年2月~同12月(3収穫期分)、実施規模は3900haを目標とし、参加人数は8000人ほどを想定。計測内容と検証項目は調査事業と同様となり、KPIの数値も同じだが通年でAWD農法の効果が証明され、GHG削減の効果が得られることとしている。
実施体制は、バングラデシュ向け事業開発を手がけるアジクルと現地のマイクロファイナンス機関であるANTAR Society for Development(ANTAR)と連携し、営農指導員によるサポートを実施。
また、農業データプラットフォームを展開し、実践データを計測・分析していくことで農業のDX(デジタルトランスフォーメーション)・GX(グリーントランスフォーメーション)化を目指す。メタンガス計測に関しては、現地研究機関であるThe University of Dhaka(ダッカ大学)と連携し、カーボンクレジット創出に向けたデータ検証を行う。
農業データプラットフォームは、クラウドサービスを利用して農業データを一元管理し、営農指導員による実践的な営農指導を掛け合わせることで、農業サプライチェーンの改善とカーボンニュートラルの実現に向けたデジタルプラットフォームを構築。
今後の展開
今後、2026年~2027年にAWD農法の浸透・事業化として政府と連携し、カーボンクレジットの事業化、農業データプラットフォームの拡大、農家の財務体質改善アプローチに取り組む。
さらに、2028年からはプラットフォームの浸透を図るため肥料や機器調達をはじめとした多方面でのデジタル支援に向けて農業データを活用した多角的アプローチ、営農コンテンツやそのほかのアプリとの連携、カーボンクレジット生産の効率向上、品質性向上を目指す考えだ。
加えて、宮宅氏は今回のプロジェクトを通じた発展領域として「農業プロセスにかかるデータ活用事業」「FinTechやInsurTechなど金融分野へのデータ活用事業」「政府機関データを活かしたGX・政策提言事業」の3つを挙げている。
最後に、同氏は「将来的には稲作にかかわらず、当社の強みであるIT技術を用いた農業DX・GXを進め、農業全体のバリューチェーンの改善、環境問題を改善していく事業にしていきたいと考えている」と述べ、プレゼンテーションを結んだ。