
「不動産もオンラインで、小口で、手軽に、安心して投資できるようになれば、株式投資並みに投資習慣として根付くのではないか」─横田氏はこう話す。「不動産クラウドファンディング」を手掛けるクリアルは、資産運用会社としてアセットの多様化を進めている。その取り組みの1つがホテル事業で、昨年7月にはホテル運営事業を行う子会社を設立。今後はM&Aも活用しながら、グループ間でのシナジーを高めていく方針。横田氏が目指すものとは。
不動産投資を 株式投資並みに根付かせたい
─ クリアルは「不動産クラウドファンディング」を柱に事業展開をしていますが、2025年3月期も増収増益の見込みですね。手応えは?
横田 我々は「不動産投資の民主化」を目指しており、その目標達成には、まだこれからです。かつては証券会社さんがオンライン取引を始めたことで、株式投資は一気に国民に根付いたと思います。
それに対して、不動産投資はまだまだ根付いていません。しかも、オンラインで不動産に投資する文化は日本には定着していない。
我々はそこに着目して、不動産もオンラインで、小口で、手軽に、安心して投資できるようになれば、株式投資並みに投資習慣として根付くのではないかと考えています。
そこで我々は、いち早く不動産クラウドファンディング「CREAL」を始めましたが、非常に手応えを感じています。
─ 「新NISA(少額投資非課税制度)」のスタートなど資産運用には追い風ですね。
横田 実は、当社ほか2社が発起人となり設立した「不動産クラウドファンディング協会」は加盟社が44社(2025年1月1日時点)と非常に大きな団体になっています。
「⾃由⺠主党不動産クラウドファンディング振興議員連盟」とも協働させていただいており、引き続き発信力を強化し、信頼性と透明性の向上を図っていく予定です。
こうした状況を見ても、不動産投資、不動産クラウドファンディングには、非常にいい波が来ています。やはり資産運用の流れの中で、不動産投資もオンラインで行えることが望ましいという方が増えてきています。
─ 不動産クラウドファンディング業界におけるクリアルの優位性を聞かせて下さい。
横田 そもそも、不動産クラウドファンディングを主力事業とする企業で上場している会社は少ないですから、その点についてはほぼ競合がない状況だと考えています。
とはいえ、不動産クラウドファンディングは、まだ知る人ぞ知るサービスで、誰もが知るサービスにはなっていません。ネットで株式に投資できるといった、誰もが知るようなツールになるには、まだまだギャップがあるのが現実です。
我々自身が、更に成長しなければいけないと思いますし、業界全体を認知していただく方策に、今後意識的に取り組んでいきたいと思います。
例えば、当社はテレビCMなどは、まだやっていません。にもかかわらず、今のような認知を得られているということは、まだまだ伸び代がありますから、さらにPRに努めたいと考えています。
─ ネットなどを通じて、若い世代の認知が進んでいると思いますが、テレビCMを検討しているということは、さらに上の世代にアピールしたいと?
横田 そうです。今、若い世代にとっては認知が広がっていますがシニア層へのアピール、露出が足りていないと思っています。お客様の層を広げて、国民的なサービスにしていきたいというのが、次のステップになります。
─ 大手金融機関が同じ領域に参入してくることは想定していますか。
横田 まだ大手は不動産投資の小口化などには踏み込んできていません。この分野はBtoCの領域で、大手会社がこういったリテール分野へ参入することは一般的には手間の問題で二の足を踏むことが通常と思います。
ただ、三菱UFJフィナンシャル・グループが、ロボアドバイザーによる資産運用サービスを展開するウェルスナビを買収したように、今後の市場拡大に強い手応えが感じられるとなれば、市場に参入するでしょう。そうした競合参入リスクは常に念頭に置いています。
不動産投資のマーケットは証券投資と同等の規模があります。日本の市場は世界で3番目に入るような投資量の深さがありますから、これをオンライン化することで、さらに広く行き渡る可能性が高いと思います。
その意味で成長事業としてのポテンシャルを実感しています。
地方創生に向けて クラウドファンディング活用
─ 日本全体の課題である地方創生ですが、地方での展開は視野に入れていますか。
横田 地方創生とクラウドファンディングは親和性が高いということで、様々なご相談をいただいています。
クラウドファンディングは、応援投資の意味もあり、社会的に意義のあるものに、広く志のあるお金を集めるという発想があります。とはいえ、投資ですからきちんとリターンをお返しするというのが重要な部分です。
実は2019年に、我々は過疎化が進む千葉県南房総市に「ちくらつなぐホテル」というホテルのクラウドファンディングを行いました。元々は東京の国立小学校の保養所で、夏には東京から多くの小学生が大勢訪れていましたが、老朽化が進んで使用されなくなっていました。
ある時、小学校の卒業生の1人で不動産会社を経営している方が、親と子の体験型ホテルいうコンセプトでリノベーション工事を行いホテルアセットへの再生事業を計画したのですが、地銀などからの融資が得られず資金調達の目処が立たなくなったというご苦労がありました。
そこで当社に「クラウドファンディングで資金を集められませんか?」というご相談がありました。私としても、何といっても志があり、またホテルとしてのバリューもあり、安定したリターンも得られるだろうということで事業化に踏み切りました。
─ クラウドファンディングの結果はどうでしたか。
横田 足元で、当社には約9万人の投資家がいますが、当時はおよそ1万人ほどしかいない中で、1週間かからずに約3億円を調達しました。
その後、コロナ禍に入って大変な時期もありましたが、しっかりと運用の上、投資家の皆さんに目標利回り通りのリターンを提供したという事例です。
南房総市はもちろんのこと、国土交通省にも不動産特定共同事業を活用した好事例ということで我々のスキームに着目していただくことができました。
これはやはり、クラウドファンディングの力だと思います。様々な地域への横展開が可能だと考えています。地域での雇用を生み出すきっかけにもなると思いますから、国の目指す方向性にも合っていると思います。
ホテル運営事業に本格参入
─ ホテルといえば今、新規事業としてホテル事業に注力しているそうですね。
横田 ええ。我々は資産運用会社です。皆さんの共感をいただいて、きちんと資産運用に足る、安定性のある資産、商品を常に探しています。今は不動産に特化していますが、将来的には不動産に限らず、オルタナティブ領域と言われる分野を幅広く手掛けていきたいんです。
ただ、安定していて、資産運用に資するいわゆる「掘り出し物」のような商品を探すのは非常に難しいですから、我々の手で自らバリューアッドし、資産価値を高められる商品を扱うことが戦略上大事になります。その1つの商品がホテルでした。
これまでもホテルにはクラウドファンディングで投資をしていましたが、パートナー企業様が運営をし、我々が投資をするという役割分担でした。おかげさまで、パートナー企業様とは良い協業ができており、投資適格ないい案件として多くのパイプラインを積み上げてきました。
さらに我々のクラウドファンディングサービスの価値を高めるためには、当社のクラウドファンディングでしか投資できないプロダクト、いわばプライベートブランド的なファンドを組成することも大事だということで、当社自らホテル運営会社を立ち上げました。
─ やはり運営から携わると見えるものが違ってくる?
横田 運営から入ると、いい土地の情報がどんどん得られるようになり、より上流で競合が少ない状況で投資チャンスをつかむことができるようになります。
その意味で、資産運用会社として、より投資にふさわしい、お勧めの商品(ファンド)を作り出すためにホテル運営に進出したということです。
もっとも、現在円安環境も相まって外部環境が非常に良く、インバウンド(訪日外国人観光客)が多く日本に訪れており、ホテル運営に参入するタイミングだとしても適切と考えています。
ホテル運営事業への参入の主たる目的は投資適格な良い資産運用商品のパイプラインを増やすことですが、ホテルの運営事業から生まれる収益そのものが当社の利益貢献に大きく寄与する可能性も高いと考えています。
─ どのくらいのペースでホテルを増やしていきますか。
横田 今後、3年間で20棟を計画しています。
ホテル運営についてはインバウンドをターゲットとするアパートメントホテルを1つの大きなターゲットとしています。また、もう1つのポイントは、デジタルの活用です。
ホテルの中にはオープンしても従業員の方が足りずにうまく運営できていないところも多くあると聞いております。
我々の強みはデジタルの知見ですから、デジタルを活用して省人化すると同時に顧客満足度を下げない、新しい形のホテルブランドをつくりたいという思いがありました。
ありがたいことに、非常に優秀なホテル運営事業責任者候補が入社してくれましたから、彼をヘッドとしていいチームが構築できています。
「不動産投資を変え、 社会を変える」
─ 全産業的に人手不足が言われますが、採用状況は?
横田 24年は50名以上を採用し、全社で約200名体制になりました。採用は好調です。
─ クリアルの認知度が高まっていると。
横田 手応えはありますね。不動産投資は新しいようで古く、実はあまりITによるイノベーションが進んでいない領域です。そこでDXを活用し新しいことに取り組んでいる我々の姿勢に賛同して、多くの人に来てもらっています。新卒についても1期生を11名採用しました。
─ 今、社内をどのような言葉で鼓舞していますか。
横田 先ほどもお話したように、我々は資産運用会社です。ミッションは「不動産投資を変え、社会を変える」です。この言葉は社内の各会議室に掲げています。
不動産投資は「ミドルリスク・ミドルリターン」の、非常にバランスのとれた、希少な資産運用手段だと思います。しかし、日本において個人の間で一般的な資産運用手法は、「ハイリスク・ハイリターン」の株式投資だけですから、バランスを欠いていると見ています。
プロの投資家の7~8割がポートフォリオに不動産投資を組み込んでいるにもかかわらず、なぜ個人の方々に浸透しないかというと、やはり投資金額の面がが大きくなってしまうという点が大きいですし、手続きが面倒くさかったり、やり方がわからないという人が多いと思います。
我々は、その課題をオンラインの少額投資で解決したい。そして、波は来ていると言っても、資産運用はまだ日本に根付いているとは言えません。
不動産という、魅力的、安定的な投資商品を皆さんの中に根付かせることで、国民の生活形態を変える、「社会を変える」というのが我々のミッションの意味するところです。
─ 日本が緩やかなインフレに向かう中で、不動産投資の持つ意味をどう考えますか。
横田 これからいよいよ「失われた30年」のデフレ時代が終わりインフレ時代へ突入しようとしております。このような時代にインフレヘッジの手段としても、不動産投資は有用だと思いますから、非常に意義があると考えています。
─ M&Aへの考え方を聞かせて下さい。
横田 24年11月にホテル運営を手掛けるティーエーティーと資本業務提携しました。先ほどお話したような我々が手掛けたいインバウンド客をターゲットとしたアパートメントホテルを、主に関西を拠点で運営している会社です。
ホテル運営のノウハウと案件情報の共有を図ることで、パイプラインの拡大及びホテル運営事業の成長に繋げていきます。今後も、ホテルの運営事業会社については検討していきます。
また、資産運用の会社としては「免許」は重要です。特に金融商品取引業のライセンスは非常に魅力的です。このライセンスの変更登録を通じて、不動セキュリティトークン、デジタル社債等をはじめ幅広いオルタナティブアセットを対象とするプロダクトを開発することができます。
その観点で25年1月、茨城県の地場証券会社・臼木証券を完全子会社化しました。今後、「クリアル証券」(仮称)に社名を変更する予定です。
M&Aを駆使して、あらゆるオルタナティブアセットを資産運用の対象に加えていき、マルチアセット、マルチプロダクトのプラットフォームを構築していきたいと考えています。