
電気は需要と供給が 常に一致しなければ…
「お客様から太陽光パネルを設置できるポテンシャルはあるのに、自社だけでは電力を消費できずに設置を諦めたり、逆にサプライヤーから脱炭素を求められて太陽光パネルを設置したいが、スペースが無く設置できないといった相談を数多くいただいていた。こうした課題を当社でうまくマッチングできる方法はないか常に考えていた」
こう語るのは、中部電力の販売子会社・中部電力ミライズで静岡営業本部法人営業部販売統括部長の山崎能継氏。
電気事業連合会会長(中部電力社長)・林 欣吾「電力の安定供給と将来的な脱炭素の両立へ、あらゆる手段を尽くす!」
中部電力ミライズが静岡県遠州(西部)地域の企業と共同で、新たなエネルギープロジェクト『遠州脱炭素プロジェクト』を始める。参画するのは、スズキやヤマハ、浜松ホトニクスなど、浜松を中心に拠点を構える15社。企業間で再エネ余剰電力を融通する仕組みを整えることで、地域全体における太陽光発電の導入量最大化と有効活用に取り組むのが狙い。
具体的には、太陽光パネルを設置する余地がある参画企業の敷地内に、その企業が消費する電力需要以上の電気を発電する設備を設置。自分たちで消費することのできない余剰電力を一度、ミライズが買い取り、需給管理をして、余剰電力を使いたい他の企業に提供。参画企業内で再生可能エネルギー由来の電力を無駄なくフル活用していこうというもので、ミライズとしては初の試みだ。
電気はその性質上、電気をつくる量(供給)と消費量(需要)が常に一致していなければならない。このため、自社工場の敷地内に太陽光パネルの設置スペースがあっても、土日などの休業日には電力を同時消費できないため、太陽光パネルの設置を最小限にとどめている企業が大半だ。
「太陽光パネルを沢山設置すれば導入コストは安くなるが、沢山パネルを設置しても自社だけでは電気を使いきれないし、設置コストを考えた時に、屋根のポテンシャルを十分に使いきれていないという会社は結構ある。そこにわれわれは課題感を持っていた」(山崎氏)
そこでミライズは、企業の自社敷地外に設置した太陽光発電設備などから、電力系統設備を介して電気を供給する「オフサイトPPA」の仕組みを活用。企業が従来、十分に活用できていなかった屋根などの設置スペースを最大限に生かして太陽光発電を導入し、余剰電力の融通を図る。
電力融通を巡っては、日立製作所が関東圏のグループ約20カ所の事業所で電力融通するなど、日立やソニーグループのように、自社グループ内で電力融通する事例はあるが、電力会社を除いて、異なる企業間で電力を融通する仕組みは珍しい。
同プロジェクトでは、容量5000キロワットの太陽光パネルを増設し、年間2500トンのCO2(二酸化炭素)削減を見込む。早いところでは今年5月の稼働を目標にしており、今後も参画企業の拡大を目指している。
「遠州地域は日射条件が良く、太陽光を積極的に導入し、再エネ比率を高めていこうという企業が多い。また、近年は環境への取り組み意識の高い企業は学生さんからの評価も良いので、採用という観点でも、企業の脱炭素へ向けた関心は高い。今後はもっと賛同企業を増やし、地域の脱炭素化を推進していくことができれば」(山崎氏)
電気の量と質、 両方の確保が問われる
電力広域的運営推進機関(OCCTO)の調査では、10年後の2034年度の需要電力量は24年度比で約6%増の8943億キロワット時まで増加する見通し。データセンターや半導体工場の新設に伴い、電力需要は2030年にかけて継続的に増加するという。
一方、経済産業省が発表した「第7次エネルギー基本計画」の原案では、2040年度の電源構成について、再エネが4~5割程度、原発が2割程度、火力が3~4割程度を占めるとの見通し。現在の再エネ比率は約20%で、実現に向けては、今まで以上の再エネ導入や新たな技術開発が喫緊の課題である。
米国では1月20日に大統領に就任したトランプ氏が、地球温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」から離脱する大統領令に署名。就任演説でエネルギー緊急事態を宣言し、化石燃料の石油を「掘って、掘って、掘りまくる」と言い放った。
また、ロシアによるウクライナ侵攻以降、世界で資源価格は高止まりしており、脱炭素のけん引役だった欧州でも物価高に国民が嫌気をさし、ひと頃に比べて、脱炭素に向けた機運はスローダウンしている。
それでも長期的には脱炭素への移行を進めなければならない。今後、全ての企業には電気の量と質、両方の確保が問われることになるのだろう。
そうした状況下、中部電力ミライズ カーボンニュートラル推進本部再生可能エネルギーサービス開発部課長の宮部孝典氏は「まだまだ日本でも太陽光のポテンシャルは高い。ただ、適地がどんどん少なくなってきているのも事実で、そうした中でも今回の取り組みのように、すでに存在している屋根を活用できるのは非常に有効で、例えば、電力需要量が少ない倉庫などの上にパネルを載せることはまだまだ可能だと思う。発電所を置く側と使う側双方のニーズをうまくマッチングすることで、脱炭素化を目指したい」と語る。
静岡県の一部で始まったばかりの新たな電力融通プロジェクト。1社単独でできなかった再エネ活用が、企業連携によって実現できるなら、今回のプロジェクトには大きな意味がある。