スピードを求めるホンダ、面子を守る日産 世界3位のメーカーを目指した経営統合の破談劇

子会社化を提案した理由

「誰にでも威張りたい日産、どこよりも技術にプライドがあるホンダ。両社が同じゴールを目指せるかどうか」ー。ホンダと日産の経営統合が発表された際、日産元首脳はこのような感想を述べていた。

 日産との経営統合が破談になった経緯について、ホンダ社長の三部敏宏氏は「当初想定していた持ち株会社の傘下に両社が入る体制では判断のスピードが鈍る可能性があった」と語る。かねてより三部氏は「スケールメリット」と「意思決定のスピード」がなければ生き残れないという危機感を抱いていた。

 経営統合の協議を進めていく中で、持ち株会社のトップはホンダから、そして取締役の過半数もホンダ出身者が占めるという枠組みが決まっていても、持ち株会社としての意思決定、さらには傘下にぶらさがる事業会社としてのホンダと日産それぞれでの意思決定の階層があることで、変化に対応できないという感触を掴んだようだ。そこで提案したのが株式交換による日産の子会社化であった。

 それに対し、日産は「自主性が守れるか自信が持てなかった。子会社では日産の強みを出すのは難しい」(社長の内田誠氏)として提案を拒否。特に日産社内では、内田氏が経営統合の協議を開始することを発表した昨年末の記者会見で「対等な統合」という言葉を使っていたことが反故にされている感があった。そのため、同社の取締役を筆頭に「経営の自由を奪われる」という声が上がったという。

 三部氏の考えは「合意が撤回される可能性も考えたが、それ以上に恐れることは統合が遅々として進まず、より深刻な状況に陥ること」だった。これまで自前主義を貫いてきた結果、「提携下手」(関係者)でもあり、スピードを求めて前のめりになったホンダ、国産車初の御料車を開発するなど歴史や伝統といった面子を守りたかった日産という構図が両社の経営統合協議の打ち切りにつながったと言える。

 今後は両社とも自力で生き残りをかけた競争に突入することになる。ただ、両社とも足元の業績や収益力には、それぞれ課題がある。

 特に日産は「売れるクルマがない」(内田氏)状況が続く。中でも北米で需要の高いハイブリッド車(HV)を投入できていない。同社の2025年3月期の純損益は800億円の赤字に転落する見通し。当面、人員削減や工場の生産能力の削減に注力せざるを得ず、「新車開発に経営資源が避けない状況が続く」(別の関係者)。

 かつて約43%の日産の株式を保有していた仏・ルノーが仏政府の意向を受けて日産に経営統合を迫ったことがあったが、その際も当時のCEOだったカルロス・ゴーン氏を筆頭に、日産は徹底抗戦。しかし一方で、肝心の新車開発が滞り、その後、販売台数が低迷して業績が悪化していた時期があった。「当時と同じことを繰り返している」と日産と取引のある関係者は語る。

 一方のホンダの24年4-12月期の売上高営業利益率は3.7%と低水準。EV(電気自動車)への投資がかさんでいるとはいえ、トヨタ自動車の9.5%に比べると見劣りする。今後、北米や中国でEVを投入する予定だが、それはトヨタも同様。既に米テスラや中国のBYDなどが先を行く。

 ホンダ副社長の青山真二氏は「EVにかかる開発コストは大きく、仮にEVの開発コストを控除してガソリン車やHVだけに絞れば営業利益率は8%前後になる」と強調。しかし、同期の営業利益は四輪事業が前年同期比13%減の4026億円に対し、二輪事業は同22%増の5016億円。「二輪がある限り、ホンダは当面は生き残っていける」(部品メーカー幹部)という状況だ。

 あるアナリストが「前門のテスラやBYD、後門のトヨタに挟まれたホンダがどんな立ち位置を示すか。それができなければ埋没してしまう」と指摘するように、ホンダの経営も安泰とは言えない状況が続く。

 実際、24年の世界販売台数を見ても、BYDは427万台に急増し、ホンダ(約381万台)と日産(約335万台)を初めて上回っている。内田氏自身が既に語っていたように、「新たなプレーヤーが次々と登場し、市場の勢力図が次々と塗り変わっている」という状況なのだ。

新たなパートナー探し

 世界の自動車業界は電動化ではEVが本命視されるが、そのEVの競争力の源泉は自動運転技術やソフトウェア、バッテリーなどがカギとなり、それらに対する開発費用も巨額となる。そのため、ホンダも日産も「ソフトウェア開発は4桁億円ぐらいの開発費がかかる」(三部氏)ことを念頭に、三菱自動車を含めた3社による協業を今後も維持していく考えを示す。

 ただ、「それだけでは足りない」(ホンダ幹部)。その意味では、今後の課題は新たなパートナー探しだ。日産に触手を伸ばした台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)、バッテリーに強みを持つ中国のEV電池メーカーのCATL、米国のテック企業など「異業種も視野に入れた提携が求められる」(前出のアナリスト)。

 しかしながら、トランプ第2次政権の誕生で手を組む相手にも気を配らなければならない。その意味では、自社のメンツを捨て、生き残るためには何が必要か。その危機感を両社のトップはもちろん、現場で働く社員が共有することが避けられない。

 もはや単独で生き残れない時代となり、両社とも不安を抱えることになる。その不安の先に待ち受けるのは大胆な再建策の作り直しか衰退の道か……。

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