KDDI、KDDI総合研究所、Jij、QunaSys、早稲田大学の5者は2月27日、量子コンピュータの技術開発と事業化に関するパートナーシップ締結に合意したことを発表した。量子計算の組み合わせにより普及が進むAIの性能を大きく向上させるため、5者はAIと量子計算をシームレスにつなぐAI・量子共通ビジネスプラットフォームを開発するとともに、プラットフォームを活用したユースケースの拡大と量子コンピュータの事業化に向けた具体的な取り組みを進める。
量子コンピュータの期待と課題
LLM(Large Language Models:大規模言語モデル)を中心に生成AIの利用が拡大するなかで、従来の古典コンピュータの計算能力や処理速度の限界が明らかになりつつある。近年はこうした課題を解決するため、新しい計算機として量子コンピュータが注目されている。
量子コンピュータは量子の特性を活用して複数の計算を同時に行える計算能力を持ち、古典コンピュータでは解決が難しい組み合わせ最適化問題などの複雑な計算を処理可能だとされる。さらに、AIと量子コンピュータを組み合わせることによって、より複雑なデータセットの分析や新しいアルゴリズムの開発が可能となるため、AIの性能向上が期待される。
一方で、実用的なユースケースの開拓が業界全体の障壁となっており、内閣府の「量子未来社会ビジョン」においても利用者が量子技術を活用してユースケースを探索・創出する取り組みの重要性が指摘されている。
量子コンピュータの研究開発はビッグテック企業やスタートアップ企業を中心として進められるが、大規模な量子ビットや量子チップの実現方法はいまだ確立されていない。量子コンピュータの実現に向けてさまざまな技術開発のアプローチがある中で、将来の主流な技術の予測が困難であり、量子コンピュータの活用を検討している企業や組織の課題となっている。
これまでの取り組み
KDDIとKDDI総合研究所は通信分野を中心に、量子技術のユースケースの探索や創出を進めてきた。具体的には、基地局の設定を最適化して通信品質を向上させる取り組みや、auのコンタクトセンターのシフト勤務作成を自動化する実証などにより、量子技術に関する知見を獲得してきた。
KDDI総合研究所、Jij、QunaSys、早稲田大学は「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第3期 先進的量子技術基盤の社会課題への応用推進」(SIP3量子)に参画し、他企業や他大学との連携を通じて量子技術のユースケース探索と創出や、量子コンピュータのベンチマークソフトウェアの開発、テストベッド利用環境整備に取り組んでいる。
取り組みの概要
今回の取り組みでは、通信分野で量子コンピュータのユースケース探索や創出に取り組んできたKDDIおよびKDDI総合研究所の知見と、量子計算で早期に実用化が期待される最適化や化学計算の分野で強みを持つJij、QunaSys、早稲田大学の知見と要素技術を統合する。 また、今後は産業技術総合研究所の量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)が構築を進めている量子・古典ハイブリッドのテストベット環境とも連携していく予定。
ユースケースの開拓
5者は量子コンピュータを活用できる産業分野を特定するため、早期に実用化が期待できる最適化や化学計算の分野を中心にユースケースを開拓する。最適化の分野では、KDDIのコア事業である通信に関連して通信品質や基地局のエネルギー管理の最適化などを想定しているという。通信以外では物流の経路や製造業における生産計画の最適化などを想定している。また化学計算の分野では、次世代の再生可能エネルギーに向けた材料開発などを想定している。
AI・量子共通ビジネスプラットフォームの開発
量子コンピュータを社会に実装するためには、古典コンピュータ上で社会的な実装が進むAI基盤から量子コンピュータに利用者をシームレスにつなげ、古典・量子コンピュータ間の境目を感じさせない環境の構築が必要とされる。
そこで5者は今後、量子計算に詳しくない利用者でも容易に量子コンピュータの計算能力を活用できる機能や、アプリケーションごとに最適な計算資源を選択できる機能を備えるAI・量子共通ビジネスプラットフォームの構築を目指し、開発を進めるとのことだ。