
「戻ってきてやりたいことは、自然エネルギーを使った循環型の6次産業モデルである『ワタミモデル』を広げること」と語るワタミ会長兼社長CEOの渡邉美樹氏。同氏は2013年から政治家として国会議員を1期6年務め、5年前2019年に祖業・ワタミの経営に再び戻ってきた。宅食、焼肉などさまざまな事業転換をはかり、時代を生き抜く挑戦を続けているワタミ。経営に戻ってきた渡邉氏が熱心に提唱するのは、自然エネルギーを用いた生産、加工、販売を掛け合わせた循環型
6次産業モデル「ワタミモデル」の拡大。渡邉氏が今後成し遂げたいこととは─。
第2次経営時代、今後の 使命はワタミモデルの拡大
─ 起業されて昨年5月で創業40周年でしたが、まずはこれまでの感想を聞かせてくれませんか。
渡邉 この40年間を大きく3つに分けますと、最初の29年は創業してから政治家になるまでの第1次経営時代、その後6年間は政治家をやり、またこちらに戻ってきて、今第2回目の経営者生活を思う存分楽しんでいるという状況です。
─ 6年間の政治家時代は勉強になりましたか。
渡邉 ええ。マクロ面で勉強になりましたが、性にあったのかどうかはわかりません。結局6年間で成果は出せませんでしたし、世の中を変化させるという志は果たせませんでした。
─ ちょっと残念な感じもあったと。
渡邉 そうですね。ただ、政治という世界に入り、国会を自分の中でしっかり経験できたのと、それから会社というものを俯瞰して見ることができました。
29年間の第1次経営時代は、経営のど真ん中にいたわけですが、国会議員としてワタミという会社、それから社会というものを俯瞰して見ることができました。ですから人生の大きな句読点としては価値があったんじゃないかなと考えています。
─ コロナ禍を経て、サブウェイ買収など新しいことにも挑戦していますが、これからの抱負を聞かせてくれませんか。
渡邉 最初の29年というのは居酒屋から始まったんですが、この29年で「ワタミモデル」という一つのビジネスモデルをつくることができたんです。
それは何かというと、自然エネルギーを使った循環型の6次産業モデルです。ですからわたしが考えているこのワタミモデルというものが世界に広がって、まさにSDGsを実現する。
世界にこれが広がっていくことによって、未来の子どもたちからあの会社があってよかったと言ってもらえるような存在になれると思うんですね。ですから戻ってきてからわたしがやりたいことは、このワタミモデルを広げることなんです。
サブウェイ買収についても、このワタミモデルの広がりの一環で、海外の展開も進めている最中です。宅食もさまざまな事業を広げています。また、外食では新しい寿司の分野にも参入し、さまざまな業態をつくっています。これは全てワタミモデルをより大きくするための手段なんです。
─ そういう意味では、創業から変わってないですね。
渡邉 そうです。ワタミモデルというものを本当のビジネスモデルとして認めてもらうためには、今の1千億円規模から1兆円規模にしなければビジネスモデルとしても認定されない。であるならば、しっかりと売上を取りに行くというのが、今の大きな課題ですね。
わたしが引退する時までに達成したい目標だと考えていますので、あと20年後です。
─ ワタミモデルは自然エネルギーや循環型といった新しい概念が入っていますが、この骨子は何ですか。
渡邉 骨子は「〝ありがとう〟を集める」です。企業の存在そのものが今の方々、それから未来の方々から〝ありがとう〟が集まる、そのようなビジネスモデルです。
いかにそれを持続可能にするかということで、自然エネルギーを使っています。われわれはRE100(再生可能エネルギー100%)を宣言している日本の唯一の外食企業です。
自然エネルギーを使いながら、なおかつ今食品リサイクルループというのを日本中で張っています。つまり生ゴミを全部再生させて、肥料・飼料化して、卵などさまざまなものを食品として使っていくと。わたしはそういう活動こそが企業にとって大事であると思っています。
─ そういう思いは創業の時から持っていたんですか。
渡邉 そうですね。創業時にお好み焼きの宅配をやっていたのですが、その宅配に使う発泡スチロールのリサイクルを始めたのがスタートです。
1980年代ですから、まだそのころ環境配慮なんて誰も言っていませんでした。その発泡スチロールは結構大きいのですが、それがごみ埋立地の夢の島にどんどん捨てられるわけです。それが嫌だったんです。
それであるメーカーさんにお願いして、何とかこれを再生してもらえないだろうかとお願いしたのが最初です。
現在はSave Earth Foundationという公益財団法人の代表理事を務めていて、コンビニエンスストアさんや大手外食産業も含め、85社くらいが加盟しています。ワタミが中心となって、日本中のリサイクル活動を始めています。
農業の課題
─ ワタミさんは全国にファームを展開していますが、農業事業の進捗はいかがですか。
渡邉 いま力を入れているのは5年前につくった陸前高田市の農業テーマパーク「ワタミオーガニックランド」です。震災時に津波で流された場所でやらせていただいているんですが、農地も当然今広げていますし、ここでソーラーシェアリングによる自然エネルギーをつくっています。
面白いのは、ここで蓄電設備を駆使して蓄電を実現させようとしているんですよ。そうすると昼間の電気が全部蓄電されて、夜もずっと自然エネルギーが使えるというかたちで今やっています。不測の事態の時にも役に立つと思います。
日本全国から年間1万人以上の学生が勉強のために修学旅行で来てくれています。これを何とか2万5千人にしようということで、今頑張っています。
─ 場所も含めて、いろいろなことが学べそうですね。
渡邉 はい。ここでは有機農業、循環型社会というものを教えています。
─ 市が提供してくれているんですか。
渡邉 はい。市が土地を提供してくれています。震災の時から市と二人三脚でずっと復興参与をやってきました。全国の農業関係者の視察も増えてきています。
また、新しい取り組みとして陸前高田市と連携し、560㌶という広大な森を今整備していまして、森のCO₂のクレジットの排出権の販売も2月から始まります。
この取り組みもワタミモデルに通じています。
─ 農業問題の一つとして、農家でなければ農業はできない。企業が参入する場合は、農業関係者と合弁ということになりますね。
渡邉 ええ。規制を変えないといけません。国会議員時代にわたしはそのことをずっと訴えて戦っていました。要は企業が農地を持てないわけです。
これまでもそうですが、結構荒れている農地も多いんですね。われわれが有機で土地を全部耕し、堆肥をたくさん入れるわけです。そうすると10年、20年後にはものすごい価値のある農地になるわけです。
でも返してと言われたら、われわれは返さなければいけないんです。農地は投資をするものだという概念があれば、買わないと投資はできません。
─ 時間も費用もかかると。
渡邉 はい。だから今のこの農地を企業が保有できないという状況では、耕作放棄が今後どんどん広がっていきますよ。
─ これに対して役人や政治家からの発信や議論がないですね。
渡邉 あるにはあるのですが、農協の票が怖いがために当面選挙に受かるということだけの目標になってしまっているのです。このことはどうにもなりませんでした。同じ議員からも厳しい言葉を投げられましたし。ですからまずは今回の取り組みが突破口です。
海外市場開拓は…
─ 世界は混乱している地域も多いですが、海外事業についてはどう考えていますか。
渡邉 この1年間でシンガポールの加工会社を買収して、アメリカのラスベガスの寿司加工・卸販売会社も買収したんです。
われわれが考えているのは、東南アジアの外食およびその食品加工の仕事、店舗事業、それからアメリカの焼肉、居酒屋、寿司の事業を展開していくと。今はヨーロッパは考えていません。アメリカと東南アジアを中心にと考えています。
─ 2024年はインバウンド3500万人は来るそうですが、和食に対する手応えは感じていますか。
渡邉 感じています。特にアメリカでは、寿司テイクアウトが非常に強いですね。例えばアルバートソンズとかABCストアなど有名なスーパーに卸していて、売上が非常にいいです。
最近はちょっと凝ったおにぎりを卸しはじめて、これも大変好調です。これを全米に広げていくことによって、ものすごく大きな事業になり得ると感じています。
─ 中国にはあまり関心はないですか。
渡邉 われわれは、中国はコロナ禍で全面撤退したんです。その後、もう一度深圳と上海に出店もしたのですが、やはり最近の中国の経済状況は非常によくないと思います。
治安問題もありますし、今まではアメリカと同等のマーケット規模、チャンスがあると思って中国と接してきましたが、最近の認識では中国は控えようと考えています。
103万の壁、人材の流動化をどう考える?
─ 昨今103万円の壁問題が議論されています。渡邉さんはどのように考えますか。
渡邉 わたしは103万円の壁はなくなることによって、皆さんが働きやすくなることはとてもいいことだと思います。
特にうちは7千人のまごころさんという業務委託会社がお弁当を配ってくれています。これはわれわれの非常に強さなんです。
でもまごころさんは、103万円の壁を意識して、お弁当の数を制限してしまう。なぜなら103万円超えちゃうから。ですから壁がなくなることによって、皆さんがもっとお弁当を配ってくださるということにおいては大変良いことだと思います。
ただ一方、わたしが政治家になった理由は、この国の財政規律です。この国の財政規律は本当にこれでいいのかと思ったんです。このあまりにひどい財政は、このままいけば必ず国は潰れてしまうと思い、政治家になりました。
それがまた先日の衆議院選挙でも与党が過半数取れないということもあり、さらに拍車を掛けている。ですからそんなに遠くないうちに、日本は大きなハイパーインフレになるのではという心配をしています。
─ 国債発行の借金は関係ないんだという声が一方で出ています。
渡邉 無責任だと思います。
わたしが自民党で最後6年間終わった時に、全議員に最後のあいさつの場を与えていただいて、皆さんどうか忘れないでくれと。この日本の財政というのはあるべきかたちじゃないと。
みなさん目先の当選を考えてしまって、だから場を置こうとする。当選より大事なことがあるんじゃないですかというメッセージを送りました。政治家でこのことを言う人はいません。挙げ句の果てに消費税をなくすと言う人もいて、本当に間違っていると思います。
─ 米国でも同じ話が出ていますね。
渡邉 そうですね。米国はインフレですから金利が上がります。一方、日本は金利を上げられませんから結果としてもっと円安になってしまう。
ですから日本は本当に今年あたりハイパーインフレが来てしまうんじゃないかなと心配しています。
─ 円安はワタミの経営にどう影響してきますか。
渡邉 ワタミにとっては円安だと仕入れが多いですから、決して好ましくはないです。ですからコロナの時も含めて、今の段階で約300億円をドルに替えて円安に備えています。