ネット炎上リスクにどう対処? エルテス・菅原貴弘が取り組む「ネット炎上」対策

24時間365日体制で炎上リスクをモニタリング

「SNS(交流サイト)にはページビュー文化というか、再生回数文化があって、そういう数を増やすための迷惑行為が後を絶たない。社会のデジタル化が進めば、その反動で誹謗中傷や炎上などの問題が起こってくる。そうしたリスク対策が絶対に必要になってくると考えていた」

 こう語るのは、エルテス代表取締役の菅原貴弘氏。

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 AI(人工知能)を活用して、リスク検知に特化したビッグデータ解析によるソリューションを提供するエルテス。ネット炎上や誹謗中傷などのリスクに備えて、24時間365日体制でのリスクモニタリングやリスクコンサルティングを行っている。

 同社の創業は2004年。当時はmixiなどのSNSが普及し始めた時代。多くの人が新たなSNSを開発していく中で、菅原氏が注目したのは、こうしたテクノロジーの"影"の部分。進化の反動で発生するトラブルに着目し、現在のデジタルリスク事業を開始した。

「マーケティングやポジティブな事業をやりたがる人は多いが、自分は逆張りでリスクの面に着目した。当時からインターネット掲示板やブログなどの風評で困っている人たちは結構いたので、これをテクノロジー活用で解決できないかと」(菅原氏)

 飲食店や小売店でアルバイトがふざけて、不適切な動画を投稿し、炎上騒動に陥る"バイトテロ"。投稿した本人にとっては面白半分の行為なのかもしれないが、企業にとっては、ブランドイメージの低下や来客数・売上の低下が避けられない。最悪の場合、閉店や倒産に陥る可能性もある。

 バイトテロは若気の至りでは済まない迷惑行為だが、今も定期的に発生する。しかも、近年は仲間うちしか見ることのできない非公開アカウントや、一定の時間で投稿が消去されるSNSも登場。こうしたSNS慣れが「これくらいの投稿なら大丈夫」という油断になり、炎上の引き金となるケースも多い。

 また、菅原氏曰く、「例えば、企業が自社CMに外国人のタレントを起用したところ、かつてその人が反日発言をしていたことが発覚して炎上したとか、かつて海外で重大な事件・事故が起きた日付に、あるタレントが意図せず『今日は最もハッピーな日』といった投稿をしてしまったとか、そのような類の炎上も結構ある」そうだ。

 同社はこうしたリスクをモニタリングして検知。炎上の予兆を把握し、防止するため、"こういうことをしたら炎上してしまう"といった従業員へのリスク研修やSNS利用のルール策定、炎上発生時の初動対応コンサルティングなど、様々な炎上対策サービスを手掛けている。

 外食チェーンや小売業の他、食品メーカーや製造業、金融機関、商社まで、すでに1000社以上がエルテスのサービスを導入している。

 今期(2025年2月期)は、売上高72億円(前年同期比10.2%増)、営業利益3億円(同81.2%増)の見通し。

 今後は生成AIの普及によって、偽の動画や音声などのディープフェイク(偽情報)で本人になりすまし、機密情報が盗まれる新たなリスクも想定される。こうした時代背景もあり、27年2月期に売上高100億円、営業利益10億円が目標だ。

日本の停滞を打破するような会社に!

 菅原氏は1979年岩手県生まれ。IT企業でインターンを経験しているうちに、これなら自分でもできるのではないか? と考えるようになり、東京大学在学中の2004年にエルテスを創業。結局、大学は中退してしまった。

「田舎者だったので、東大に入ったら一生安泰で無敵だと思っていたのに、全然無敵ではなかった。大学の授業もこれを勉強して社会に出て何の役に立つのか疑問に感じ、そこから起業家を目指そうと考えた」(菅原氏)

 2016年に東証マザーズ(現グロース)へ上場。その後、M&A(合併・買収)によって、人手不足や高齢化が課題となっている警備業界に参入。「未だに警備員を配置する業務はホワイトボードとマグネットを使った超アナログな世界」(菅原氏)として、警備業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)化に乗り出した他、2021年には菅原氏の故郷である岩手県紫波町に本店を移転した。

 現在は祖業のデジタルリスク事業の他、警備保障サービス運営と、警備業界DXサービスの開発・提供を行うAIセキュリティ事業、自治体や事業会社のDX支援を行うDX推進事業などへ事業を拡大している。

 創業から20年にあたる昨年、同社はグループのミッションを『安全なデジタル社会をつくり、日本を前進させ続ける。』へ変更した。そこには、菅原氏の「この20年、日本は全然変わらない」という危機感にも似た思いが込められている。

「サイバーセキュリティで困っているのは都心の大企業くらいで、地方にサイバーセキュリティのニーズはほとんど無い。それくらい地方ではデジタル化が進んでいない。当社は安全なデジタル社会創出を目指す企業への脱皮を目指し、事業を拡大してきた。今後も日本の生産性向上、安全なデジタル社会の構築に向け、いろいろなサービスを提供することで、日本の停滞を打破するような会社になりたい」と語る菅原氏。

 時代の変化と共に、SNSリスク対策の企業から、デジタルリスク対策企業、そして、DX支援企業へと業容を変革してきたエルテス。テクノロジーが日々発展していく中で、菅原氏の挑戦が続いている。

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