テクノロジーで社会課題の解決を モネ・テクノロジーズが進めるMaaSの社会実装論

「レベル2」の移動サービス

「単に(クルマを)走らせることだけを目的にしていない。運行を行う地域ごとに課題を見つけ、それを解決するための運行を行いながら自動運転への地域の受容性も高めていきたい」ー。このように語るのはモネ社長兼CEOの清水繁宏氏だ。

 ソフトバンクとトヨタ自動車などが出資する同社が東京臨海副都心(有明・台場・青海地区)の公道で、自動運転技術を用いた移動サービスを期間限定で提供する。同社のアプリを利用し、一般の人でも無料で利用できる。

 ただ、自動運転といっても、運転手が乗らない「レベル4」の完全自動運転ではなく、部分的に運転が自動化され、セイフティードライバーも乗車する「レベル2」での運用となる。

 今回の移動サービスは、トヨタが米国で販売するミニバン「シエナ」をベースとした車両を使い、乗降場所を国際展示場駅、東京テレポート駅、東京ビッグサイト、シティサーキット東京ベイの4カ所に設定し、それぞれの場所をつなぐ12ルートから乗りたいルートを予約して利用できるというもの。タクシーのような貸切りサービスではなく、複数の利用者が乗り合いで利用し、それぞれ希望する乗降場所に移動できる。

 モネは「インテグレーター(統合者)の役割を担う」(同)。車両は前述した通り、トヨタの車両を使い、自動運転技術はトヨタが出資する自動運転ベンチャーの米・メイモビリティの自動運転システムを搭載。自動運転車両の運行支援システムなどはモネが開発する。同システムは将来的に複数の車両を1人のオペレーターが管理できる「マルチ遠隔監視システム」の開発につなげていく構想を描く。

 今回のサービスの舞台が東京臨海副都心なのはなぜか。大きく分けて2つの背景がある。

 1つ目は東京臨海副都心エリア内が交通量の多い東京湾岸道路を含む点だ。自動運転の最大速度は時速40キロに設定しているが、これは公道での自動運転車両としては国内最速。交通の激しい道路でも他の車両と極端な速度差が生まれにくくなる。

 そしてもう1つが社会課題の解決だ。具体的に言えば、江東区や港区内におけるタクシーやバスなどの運転手の高齢化だ。江東区長の大久保朋果氏は「東西の交通インフラとして鉄道が発達しているが、南北が弱い。今は都営バスがその役割を担っているが、人材が不足している」と吐露する。港区でも同様だ。

 実はモネの狙いは自動運転を普及させて省人化を図ることではない。清水氏が「目指すのはロボタクシーではなく、オンデマンド交通」と強調するように、同社のゴールはオンデマンド交通とサービスを掛け合わせたサービスを行うことだ。そのゴールとは「行政Maas」や「医療Maas」の社会実装だ。

行政や医療のMaasも展開

 今回も一般試乗に乗り出すことで、多くの利用者からの利用データを集めると共に、多くの人に自動運転の存在を認識してもらうことで社会受容性を高めていきたいという意図がある。

「モネは社会課題の解決に向けてMaasの社会実装を実現する会社で、その数は国内でトップクラスだ」と清水氏は強調。Maasとは住民や旅行者1人ひとりの移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスを指す。同社は48件の社会実装を手掛ける。

 例えば、広島県の東広島市で広島大学や中国ジェイアールバス、芸陽バスと共に、広島大学とその周辺をつなぐデマンド車両と、大学と新幹線東広島駅までをつなぐ定時路線の実証実験を開始し、大学生や周辺住民の移動利便性の検証を行っている。

 また、行政Maasでは福島県いわき市で展開。車両に遠隔相談システムを搭載し、遠隔地の市民の元に出向く。そこから行政手続きや税務・福祉・母子保健などの相談内容を市役所内にいる担当職員などにオンラインで相談できるようになる。

 医療Maasは岐阜県高山市で実施。遠隔地にいる医師によるオンライン診療を車両内で受けられる。車に乗った看護師が患者の住む地域に出向き、オンラインで診療を受けられる。

 また、自動運転Maasではトヨタ自動車九州の宮田工場内の敷地内の1周約3.4キロのルートに5カ所のバス停を設けて、工場で働く従業員に移動サービスを提供している。

「医療Maasなどは利害関係者が多い。地元の医師会や行政の規制など、ハード面だけでなくソフト面でも乗り越えるべきハードルがある。そういった諸課題をクリアしたMaasを社会実装することが我々の使命だ」と話す清水氏。だからこそ、同社にはトヨタ以外にも日野自動車やホンダ、いすゞ自動車、スズキ、マツダなどの多くの自動車会社が出資している。

 Maasの社会実装は1社単独では実現できない。業界の垣根を超えた"異業種連携"は不可欠だ。モネはその仲介役を果たす。今後は人手不足や過疎化といった課題が全産業・全国各地で深刻化。これまでのように、顧客が出向いてサービスを受ける世界からサービス提供者が「出向く医療や行政サービス」(同)を提供する世界になる。

 足元では赤字が続くモネ。ソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏とトヨタ会長の豊田章男氏の肝入りで始まっただけに、モネの収益改善と社会実装を同時並行で実現していくことが求められる。