ヒーロープロデューサー・福嶋 一郎代表取締役の「世界で羽ばたく〝ヒーロー〟のような人材を育てていきたい」

「預貯金と株式投資でハイリスク・ハイリターンなのはどちらですか?」─。こんな科目を教える保育施設がある。ヒーロープロデューサーが運営する「ヒーロー幼児園」だ。保育施設でありながら、教育も行うと共に、日頃食べているものがどのような経過を経て自分の口に入っているのか。そんなことも教えている。長男の誕生を契機に保育業界に身を移した代表取締役の福嶋一郎氏。次世代の子どもをいかにつくるか。

科目は「語学」「ビジネス」など

 ─ まずは「ヒーロー幼児園」の概要を聞かせてください。

 福嶋 2021年4月に第1号として南青山校をオープンしました。定員は50人ですが、2~6歳の園児で埋まっています。また、ありがたいことに24年度に生まれた子どもの2年後の入園申し込みも既に満員です。

 ─ 幼児園は造語ですか。

 福嶋 はい。保育園には認可保育園と認可外保育園がありますが、当社の幼児園は認可外保育園になります。認可の保育園は基本的には長くお子様をお預かりできるという場で、認可の幼稚園は、お預かりする時間は短いけれども教育はする場だと。

 一方で、当社の幼児園はお子様を長くお預かりする上に教育も行うという点が特徴です。

 なぜ認可を取らないのかと聞かれるのですが、当社の幼児園は「認可外保育施設」となります。もし認可の保育園になれば厚生労働省の管轄となり、教育ができませんし、認可の幼稚園になると文部科学省の管轄となり、同省が定める教育範囲内の教育に限られてしまうのです。

 もちろん、認可外ですので国からの補助はありません。ただ、各ご家庭の保育料に対する補助は出ます。一定基準を満たす保護者に対しては、国や区からの支援などが出ますので、保護者は費用の面では助かるような経営をしているということです。

 ─ 具体的にどのような取り組みを行っているのですか。

 福嶋 登園から午後3時頃までは自由時間を定めず、分単位で時間割を設定しています。学校の時間割と同じです。

 科目は「語学」「計算」「体操」「ビジネス」などで、子どもたちの集中力が続くように、多くの科目を1コマ20分程度に定めています。

 ─ 「ビジネス」という科目まであるのですね。

 福嶋 ええ。当社の幼児園の特徴はオールラウンドにあらゆる分野を学ぶことができるという点です。運動や音楽だけに特化しているわけではありません。

 例えば、インターナショナルスクールでは英語が中心ですね。

 当社の幼児園も英語を学ぶ機会はありますが、読み書き計算などの小学校のミニ版のようなカリキュラム構成になっています。やはり小さい頃に始めることによって、更に伸びる余地が子どもにはあるからです。

 そして最も大きな違いは、先ほどおっしゃっていただいたビジネスや金融といった世の中の仕組みを教える科目がある点です。

すごろく形式のゲーム

 ─ 金融などは実際にどのように教えるのですか。

 福嶋 クイズ形式で学ぶ科目が多いです。その中でも4歳児クラスから行う「ビジネスゲーム」という、すごろく形式のボードゲームは遊びながら仕事について学んでいくものです。

園内

 例えば、スクールに通ってレベルアップしたり、資格を取ったりすると収入が増えるのです。学ぶことの大切さを教えています。

 他にも、税金の支払いや株の運用、原価率から利益率やマーケティングなど、リアルにビジネスについて学べるようにもなっています。場面ごとに成長ポイントがあるのですが、お金を稼げば勝てるわけではありません。

 最終的にはハッピーポイントが多い人が勝ちになります。どのようにお金を稼いだり、成長したりすることでハッピーポイントを増やすかを考えさせるような仕組みになっています。

 ─ 本格的ですね。

 福嶋 ええ。例えば「預貯金と株式投資で、一般的にハイリスク・ハイリターンなのはどちらですか?」という問題があったりするのですが、子どもたちはしっかり答えることができます。

 もちろん最初は預貯金とは何かというところから教えていきます。ハイリスクの「ハイ」は高いという意味だねと。徐々に子どもたちも学んでいきます。

 そして銀行の役割とは何か。日本銀行の役割とは何かといったことも学んでいくと。当園では貨幣を作る造幣局にも見学に行ったりしているので、子どもたちの頭の中では普段、園で学んだことが、この見学によって結びついていくのです。

 実際に子どもたちに教えていると、子どもたちの可能性を感じます。

 ─ 勉強だけでなく運動についても熱心なようですね。

 福嶋 はい。全クラスの園児で朝9時から近くの公園を3㌔ほど走ります。私は、運動の醍醐味は壁を乗り越える力を養うことだと思うのです。

 得意・不得意もありますが、毎日少しずつ繰り返すことで、必ずゴールに辿り着けるような目標を設定しています。入園時には鉄棒にぶら下がることもできなかった子が、3カ月後には逆上がりができるようになった事例もあります。年中の段階でバク転をマスターした子もいます。

 ─ 保育園や幼稚園では運動会などのイベントや行事があります。ヒーロー幼児園ではどのようなイベントがありますか。

 福嶋 運動会など他の保育園や幼稚園と同じように当園でも行います。ただ、今の幼稚園などでは順位を付けなかったりするのですが、当園は順位をつけます。

 300㍍走で勝った子が負けた子を馬鹿にするのではなく、勝っても威張らず、他の子たちを応援する。負けた子も負けた悔しさをバネにして次につなげる。そういった人としての生き方の基本を教えています。

ヒーロー

 他には田植えがあります。新潟県の農家に行って田植えを手伝うのです。秋になると稲刈りに行って鎌で稲を刈らせます。

 鎌を使うのは危ないという意見もあるかもしれませんが、刃物の使い方もしっかり教わることで、扱い方さえ間違えなければ決して危ないものではないということを学ぶことができるのです。

 もちろん、事前に段ボールで作った鎌を使い、ティッシュを稲に見立てて稲刈りをする練習もしています。こういった取り組みを通じて、お米を作るためには何と何が大事なのか、自分たちが普段食べているお米がどのようにできているのかを学んでいくのです。

 ちなみに、刈り取った稲は園に持ち帰り、乾燥させ脱穀して精米します。

 ─ 自分たちの食べ物がどのように生まれているかを学ぶことができるわけですね。

 福嶋 そうです。他にも夏の2泊3日のサマーキャンプでは富士山に登っています。先ほど申し上げたように、朝3㌔走っているからこそ何とか登ることができているのです。

 そしてキャンプですから、自分たちで布団を片付け、着替えをし、荷物の整理もする。全てを自分の力で行うことで、子どもたちに「やればできる」という自信がつき、心の教育にもつながります。

 ─ 保護者からクレームが入ったりしないのですか。

 福嶋 入園説明会で私や園長から当園の方針をご説明し、方針にご賛同頂けないのであれば他の保育園などを薦めています。

多彩な保育士

 ─ ブレない方針なのですね。保育士はどんなバックグラウンドを持つ人なのですか。

 福嶋 金融やビジネスは私が教えています。私自身がリクルート人材センター(現リクルートキャリア)やリンクアンドモチベーションで大学生向けの塾「モチベーションカレッジ」で塾長を務めていたからです。

 もちろん、保育を専門に長きにわたって園長を務めてきたベテランの保育士をはじめ、商社に入ってアメリカで子会社の社長を務め、早期退職して日本で保育士資格を取得した人もいます。彼は英語とビジネスを教えています。

 ユニークなところでは、現役のオペラ歌手が音楽を指導していたりしています。

保育士

 ─ 現在はどのくらいの園を展開しているのですか。

 福嶋 ヒーロー幼児園は東京に4校あります。青山、恵比寿(25年4月開園)、自由が丘、阿佐ヶ谷です。

 会社の業績としてはまだ赤字ですが、既に黒字化への道筋が見えています。園児が定員になれば収益面での問題がないからです。中には南青山校に入園できなかった保護者が自由が丘校にまで通ってくれるケースもあります。

 その中で私の基本的な考え方は、保育士の給与を少しでも上げながら、園の数も身の丈にあった形で増やしていきたいと。特に私の考え方としては、利益率を5%減らしてでも人件費を5%上げた方が優秀な保育士が集まるというものです。

 そうすれば園の評判は高まり、園児も集まってきます。その結果、当社が利益を得ることもできるわけです。そういった良いスパイラルをつくるためにも今は踏ん張っているところです。

 ありがたいことに、当園の取り組みに共感し、支援して下さる方も多く、経営者の保護者さんなどが支援してくれています。

 ─ そもそも福嶋さんが起業した理由は何だったのですか。

 福嶋 長男が生まれたことです。当時、スポーツに特化した幼稚園に通っていたのですが、逆上がりや跳び箱などをすぐに習得していました。抵抗感が薄い幼少期にこそ、あらゆる可能性を広げるべきだと実感しました。

 子どもたちがどんな分野でも活躍できる人間に成長できるように、スポーツだけでなく、広範な教育を施すことの重要性を感じ、自分がそれをやるべきだと感じたのです。

戦後から変わらない幼児教育

 ─ 今後の幼児保育・教育をどのように進めていきますか。

 福嶋 当園の保育士になりたいという方々には、ただ見守っているだけの保育は良くない、幼児教育もこのままで良いのだろうかといった疑問を持っていらっしゃる方が多いのも事実です。

 そもそも今の幼児教育は戦後から何も変わっていません。おかしいと思いませんか。これだけ世の中が大きく変わっているのに、幼児教育の世界は変化していないのです。

 今の子どもたちが大人になる20年後や30年後は今以上にもっと変わっているでしょう。我々の世代でも、20~30年前、スマートフォンなど存在していなかったわけです。それが今では1人1台の時代です。

 スマホに限らず、いろいろな物事がもっと更に急加速して変わっていく中で、同じ教育をしているようでは世界から取り残されます。

 ─ 国際競争で打ち勝つことができませんね。

 福嶋 はい。ただ、それでも日本は平和です。安全ですし、食べ物も美味しい。そういった国の土壌があるのですから、もっと世界で活躍できる子どもたちを育てることができるはずです。

 そのためには、この幼児教育で、いろいろなことを教えてあげれば、世界に羽ばたくような子どもが出てくるのではないかと。そう思っています。

 ─ 幼児園は福嶋さんが手探りで作り上げてきたのですね。

 福嶋 ええ。子どもたちにとっていいだろうなと思う教育をしたいと。そのためにも国からの補助をいただかなくても、地に足のついた経営をすればいいと振り切って考えています(笑)。

 その分、保護者から少し高い金額で授業料をいただく形にはなるのですが、当園の名前のように将来、日本や海外で「ヒーロー」になるような子どもを育てたいと思っています。

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