電子部品メーカーのTDKは2月13日、社内ベンチャーの一環として、日本酒の味覚・香り・ガス感を視覚化するシステム「Sake Sensing System」を開発し、同日よりサービスを開始することを発表した。これに際し同社は記者説明会を開催し、TDKが日本酒の味わい測定に挑戦した理由や今後のサービス展開について語った。

  • 記者説明会の様子

    「Sake Sensing System」に関する記者説明会の様子

創業者の地元・秋田が誇る日本酒に着目したTDK

長期ビジョンとして、社会変革への貢献と自社自身の変革を続けることでサステナブルな未来の実現を目指す「TDK Transformation」を掲げるTDKは、社内で保有する技術を活用し新たなビジネスを創出することを目的とした社内ベンチャーのテーマとして、創業者の齋藤憲三氏の出身地で現在TDKの主力製造拠点でもある秋田県の代表生産品目である“日本酒”とその課題に着目。生産量が減少傾向にあり、説明文があっても“どんな味わいかよくわからない”という理由から敬遠されることも少なくない日本酒について、TDKが強みとする素材解析やソフトウェア技術、AI技術などを用いて課題解決に貢献するため、新たなサービスの開発に挑んだという。

今般発表された日本酒測定システム「Sake Sensing System」は、日本酒の味わいを、人間の感覚に近い形で可視化するレーダーチャートだ。このチャートは主に、“複雑さ・甘さ・酸味・味の余韻・濃淡”からなる「味」、フレッシュさや甘さを感じさせる「香味」、発泡度を表す「ガス感」の3つからなるとのこと。またこれらで表現されない特徴(「米の甘さ」や「ラムっぽい味」など)も検出可能で、取得されたデータから当てはまるものが記載されるとする。

  • Sake Sensing Systemの概要と表示項目

    Sake Sensing Systemの概要と表示項目

日本酒の成分測定で用いられるのは、TDKが電子部品製造などで活用する、液体クロマトグラフィ/イオンクロマトグラフィ、およびガスクロマトグラフィなどの解析装置で、有機酸・アミノ酸・糖分・香気・ガス感など、人の味覚や嗅覚、触覚を刺激する成分を測定。それらを独自開発のソフトウェアやAIで処理することで、視認性の高い形で日本酒の味わいがチャートの形で可視化される。

  • Sake Sensing Systemの基本的な仕組み

    Sake Sensing Systemの基本的な仕組み

なおこのレーダーチャートの開発では、酒類総合研究所からも助言や科学的知見の供与を受けながら、味わいの関係性についてブラッシュアップを重ねたという。またSake Sensing Systemの出力結果と、同研究所で行われる専門家による官能試験の結果をすり合わせながら微調整を重ね、アルゴリズムの最適化が行われた。こうした試行錯誤を経てTDKは、秋田県内の天寿酒造とともに概念実証を実施。実際の味わいから見たチャート表現の納得度について、80%以上の納得を得られるまでになったとする。

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    日本酒の酒類による味わい評価の比較

3月にはチャートが記載された日本酒「鳥海山」も発売

同社はこのシステムを用いたサービスを通じて、日本酒の生産者・販売者と消費者とのコミュニケーションを効果的にし、感覚に頼りがちな会話を効率化できると期待しているという。また、酒蔵のストーリー強化になる上、定量的な味覚評価により酒質改善にも貢献可能だとした。

なおTDKとしては酒蔵を顧客として想定しており、酒蔵から提供された日本酒を測定し、その結果となるチャートを提供する形が想定されるとのこと。加えて、2025年の収穫米を使った日本酒の開発にも活用を考えているといい、9月ごろと見込まれる日本酒仕込み開始の時期を見据え、認知の拡大に努めるとする。

そして将来的には、日本酒購入のきっかけづくりをSake Sensing Systemが担うことで消費者が増加し、酒蔵の資金が増加することを夢見ているという。また会見に登壇したTDK 技術・知財本部 日本酒プロジェクトの兼森庸充プロジェクトリーダーは、こうした流れをグローバル規模でも創出し、“日本酒ビジネス”を活性化していきたいとした。

なお3月5日には、Sake Sensing Systemがサービスを開始してから初めての市場投入となる製品として、かねてより共同で実証に取り組んできた天寿酒造より、ガス感とフレッシュな香りを特徴とする「純米大吟醸 鳥海山 生酒」が発売される予定。また、日本酒をテーマとした雑誌でも味わいの表現として同システムが用いられるなど、すでにその活用が広がり始めている。

  • 「鳥海山」を持つ兼森氏

    3月5日に発売予定の「鳥海山」を持つ兼森氏。瓶にはSake Sensing Systemのチャートも記載される