何を期待されて 社長に選ばれたのか?
ー 2023年4月に昭和電線ホールディングスから社名変更したSWCCですが、改めて、社名変更した狙いから聞かせてくれませんか。
長谷川 当社は1936年に設立しまして、88年の歴史があります。ですから、昔からの伝統を守らなくてはいけないという一方で、"昭和"や"電線"という言葉があるため、どうしても古い会社だというイメージがありました。社内外にも電線にこだわっていてはいけない、新規事業の展開を進めようという考えを伝えるため、思いきって社名を変更することを決めました。
昭和電線電纜の時代から英文表記は「Showa Electric Wire & Cable Co., LTD.」としていましたので、"SWCC"という略語は社内ではずっと使っていました。馴染みのあるSWCCという商号をつかうことで、伝統は重んじつつ、変化の激しい世界の中にあっても、新しいビジネス構造や方向性を目指して進んでいこうという思いが込められています。
ー なるほど。社名変更は電線という既存事業にとらわれがちな社員の意識変革を促したい、という思いも込められているんですね。
長谷川 はい。われわれは創業以来、電力、通信用の電線事業を中心に成長してきました。現在はエネルギー・インフラ事業、通信・産業用デバイス事業、電装・コンポーネンツ事業などを幅広く手掛ける総合メーカーに進化しています。社名変更には従来の電線事業だけではなく、これからは新領域の開拓も積極的に行っていくという意味を込めています。
ー 社名変更から2年弱が経ちましたけど、特にトラブルはありませんでしたか。
長谷川 トラブルはありませんが、昭和電線電纜を知らない人たちや新たに入ってきた社員が「SWCCって何の略号ですか?」と言うんです(笑)。また、昭和電線と言えば何となく何の会社かイメージしやすいと思いますが、SWCCでは何の会社か分からないという方々も沢山いらっしゃいます。
ですから、1年間くらいは「SWCC(旧昭和電線)」と表記していたんですが、新たな社名が認知されないと採用やPRにも影響が出てしまいますので、今は広報活動に力を入れているところです。
ー 分かりました。長谷川さんが社長に就任されて7年目になりました。この間の手応えを聞かせてくれますか。
長谷川 わたしが社長へ就任したのは2018年6月ですが、この時からずっとわたしが社長である理由とは何か? 何を期待されて社長に選ばれたのだろうか? ということを考え続けてきました。
当社の長い歴史の中で、女性社長は初めてですし、研究開発出身の社長も初めてです。多くの方々から女性社長は珍しいと言われますが、これまで長く続いてきた男性目線の経営ではなく、女性社長だからこそ何かできることがあるのではないか? と考えてきました。
加えて、研究開発はかなり傍流です。製造や営業のような会社のメイン事業を歩んできたのではなく、決して会社の中心にいない傍流を歩んできた人間だからこそ思いきった改革ができるのではないか? そういうことを期待されていると思いますので、今までにやったことのない経営を是非ともやってみたいと考えました。
三つの事業セグメントに再編
ー 自らの役割と使命を問うところから始まったと。
長谷川 ええ。一番初めに取り組んだのがガバナンス改革でした。もともと監査役会設置会社だったのですが、2019年から監査等委員会設置会社に移行し、指名・報酬委員会を設置しました。
もう一つは、事業セグメント制の導入です。当時は23社ぐらいの子会社がそれぞれ独立した経営を行いながら、その上に持ち株会社があるという体制でした。ただ、当社のような売上高2000億円規模の会社で、一国一城の主が20何人もいると、グループ全体の改革を進めようと思っても、それぞれ個々の事情があるのでなかなか思うように進みません。
それではグループ全体にとって良くないと思いましたので、個々の会社経営を行うのではなく、事業セグメント制にして、三つの事業セグメントに再編しました。それでエネルギー・インフラ事業、通信・産業用デバイス事業、電装・コンポーネンツ事業の三つの事業で、それぞれの事業セグメントごとにセグメント長を置くようにしました。子会社はセグメント長が管理することにしました。
ー 各セグメントの下に子会社が来るようにしたということですか。
長谷川 はい。そうすると、子会社の社長が「こうしたい」と言っても、セグメント長が同意しなければできませんし、セグメント長が「こうしなさい」と言ったら、子会社の社長は同意しなければなりません。
そうやって各セグメント長に強い権限と責任を与えることで、意思決定の効率化や迅速化、グループの統制を図ろうと考えたのです。ですから、子会社の社長さんたち、役員も世代交代させました。かなり思い切った経営改革でしたので、社内では不安に思う声もあったと聞きましたが、何とか無事に変化を乗り越えて、これまでとは違う形の会社を形づくることができました。各セグメント長をはじめ、全体を束ねるポジションにいる役員に本当に苦労を掛けたと思います。
もう一つは、ROIC(投下資本利益率)を経営指標に取り入れ、事業の収益性、資本効率をきちんと測るようにしました。中には事業撤退を決めたものもありましたし、従業員も矢継ぎ早の改革にいろいろ不安があったと思います。それでも、決めたことをしっかり実行してくれましたので、本当に真面目に辛抱してやってくれたと思います。