セールスフォース・ジャパンは1月29日、都内で記者説明会を開催し、SlackでAIエージェントを活用する「Agentforce in Slack」を同日から提供開始すると発表した。Agentforce in Slackは、Agentforceの最新版「Agentforce 2.0」のアップデートに含まれており、説明会では最新版も重点的に解説した。

Agentforceは“制限のないデジタル労働力を提供するプラットフォーム”

Agentforceは、昨年9月に米Salesforceが開催した年次カンファレンス「Dreamforce 2024」で発表された自律型AIエージェントで同10月に日本で提供を開始した。カンファレンスにおいてCEOのマーク・ベニオフ氏は、2025年末まで10億のAIエージェントの構築を宣言し、同12月にはバージョンアップしたAgentforce 2.0を発表するなど、同社にとっては野心的なものとなっている。

  • Salesforce 会長兼CEO兼共同創業者のマーク・ベニオフ氏は「2025年末までにAgentforceで10億のAIエージェントに力を与える」と宣言している

    Salesforce 会長兼CEO兼共同創業者のマーク・ベニオフ氏は「2025年末までにAgentforceで10億のAIエージェントに力を与える」と宣言している

セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏は「国内の労働力不足は加速、深刻化しており、2050年の生産年齢人口は2021年比29.2%減が見込まれており、GDP成長率も2024年度の実質成長率の見通しは0.4%と低調。労働力不足ではあるが企業における従業員の負荷は高まり、顧客からの要望も高くなっている」と指摘。

  • セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏

    セールスフォース・ジャパン 専務執行役員 製品統括本部 統括本部長の三戸篤氏

このような背景から、同社ではAgentforceを“制限のないデジタル労働力を提供するプラットフォーム”に位置付けている。

  • SalesforceではAgentforceを“制限のないデジタル労働力を提供するプラットフォーム”と位置付けている

    SalesforceではAgentforceを“制限のないデジタル労働力を提供するプラットフォーム”と位置付けている

三戸氏は「Agentforceは大きなインパクトを与えるテクノジーであり、Salesforceのプラットフォーム上で人と協力することでビジネスを成功に導くことができるもの」と力を込める。実際、同社では週3万2000件の問い合わせのうち、Agentforceの実装前は1万件をオペレーターにエスカレーションしていたが、導入後には5000件にまで減少させているなど、社内での効果が実証されているという。

さまざまな業務プロセスをスムーズに適用する「AIエージェントスキルライブラリ」

次に、Agentforce 2.0に関して、セールスフォース・ジャパン 製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングシニアマネージャーの前野秀彰氏が紹介した。

  • セールスフォース・ジャパン 製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングシニアマネージャーの前野秀彰氏

    セールスフォース・ジャパン 製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングシニアマネージャーの前野秀彰氏

Agentoforceの頭脳であり、データを取得してアクションを行うものが「Atlas推論エンジン」となる。そもそも、Agentforceの仕組みは(1)AIエージェントに質問、(2)AIエージェントが最適なトピックを選択して指示に従う、(3)AIエージェントがアクションとサービスを実行、(4)回答を生成するといった具合だ。

  • Agentforceの仕組み

    Agentforceの仕組み

Agentforce 2.0の目玉は、冒頭に述べたAgentforce in Slackに加え「AIエージェントスキルライブラリ」「推論とデータ検索の強化」の3つだ。前野氏はこのうち、AIエージェントスキルライブラリ、推論とデータ検索の強化について解説した。

同氏は「Agentforce 2.0はデジタル労働力を提供するプラットフォームと位置付けている。そのためには、いかに多くのことをAIエージェントができるようになり、人間のように深く考えて正確に行動するとともに、多くの人と一緒に働くには、どのようにすればいいのかということがデジタル労働力として使われる際に重要なポイントになる」と強調した。

AIエージェントスキルライブラリは、事前構成済みのスキルを用いて迅速にAIエージェントを構成するものとなる。セールスデベロップメントやカスタマーサービス、マーケティングキャンペーンなど、さまざまな業務プロセスをスムーズに適用できるテンプレートを提供。

前野氏は「例えば、営業領域では見込み客に対して自律的にエージェントがアプローチし、商談を作ることや、マーケターが効果的なマーケティングキャンペーンを作成できるものもある。CRMのスキルだけでなく、TableauやSlackのスキルも用意している」と話す。

  • AIエージェントスキルライブラリの概要

    AIエージェントスキルライブラリの概要

また、同社製品以外の他社システムのワークフローを適用できる。一例として、SAPの基幹システムに接続した返金手続きや、Workdayによるオンボーディングの手続きをはじめ、外部のシステムのアクセスしてアクションを実行することが可能。これにはMuleSoftの技術を活用しており、2月に「MuleSoft API Catalog」「同Topic Center」の一般提供開始を予定している。

  • 外部システムともAPIで連携できる

    外部システムともAPIで連携できる

さらに、事前構成済みスキルの中に入っていないAIエージェントを構築するエージェントビルダーの機能を持つ。AIエージェントを構成する要素を生成AIで生成し、テストするためのテスティングセンターで想定通りのアクションが実行されるか検証できる。

  • エージェントビルダーの機能も持つ

    エージェントビルダーの機能も持つ

推論とデータ検索を強化し、AIエージェントが人間と同じように深く正確に行動

一方、推論とデータ検索の強化について前野氏は「AIエージェントが人間と同じように深く正確に行動ができるようになるには、推論とデータ検索を強化する必要がある。デジタル労働力たりうるためには、一般的なナレッジだけの参照や初歩的なRAG(検索拡張生成)を実装するだけでは直感的な回答はできるが、深い洞察を持った回答が困難だ」との認識を示す。

そこで、同社は435のAI特許や336の論文、7つSLM(小規模言語モデル)など、強いバッグボーンを持つリサーチチームの研究成果をAgentforce 2.0に組み込んだ。これにより、メタデータで強化した高度なRAGの利用、高度な検索レトリーバーによる回答の改善、すべての回答におけるインラインでの引用元記載で信頼性と透明性を確保しているという。

  • 推論とデータ検索の強化の概要

    推論とデータ検索の強化の概要

メタデータで強化した高度なRAGの利用に関して、例としてPDFから質問に合わせて文脈上で必要な情報を抜き出して回答する際、質問に回答するFAQ形式のフォーマットを前提にしていないことから精度に難がある。

そのため、ドキュメントに記載されている製品名や機能名、会社名などのメタデータをAgentforceを用いて、インデックスとして用意する。このように想定される質問リストのようなインデックスの作成と併せて、元のドキュメントで作成されているインデックスも検索対象にすることで精度の向上が図るというわけだ。

  • 初歩的な回答と2.0における回答の比較

    初歩的な回答と2.0における回答の比較

高度な検索レトリーバーについては、ドキュメントに対する検索条件をユーザーからの質問とするが、検索時に重要なコンテキストが漏れたり、曖昧だったり、検索条件として十分ではない場合がある。そこで、Agentforceはクエリに追加の情報を加えることで検索条件として具体的かつ曖昧性を排除をしたクエリを実行する。

同氏は「こうしたアップデートの実装は、データを統合的に蓄積する『Data Cloud』で行っている。今回のものは、あくまでも機能としてノーコードで扱える機能。Data Cloudから検索したデータをLLM(大規模言語モデル)が回答として生成し、ユーザーからのクエリに対して内容が不十分であれば、推論エンジンがもう一度データを取りに行くというループを回すことで深く正確な行動に移すことが可能になっているもの2.0だ」と説明していた。

  • Data CloudがAtlasの信頼性と正確性を向上しているという

    Data CloudがAtlasの信頼性と正確性を向上しているという

AIエージェントがSlackのスキルを持つ「Agentforce in Slack」

続いて、セールスフォース・ジャパン 製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャーの鈴木晶太氏が、Agentforce in Slackを説明した。

  • セールスフォース・ジャパン 製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャーの鈴木晶太氏

    セールスフォース・ジャパン 製品統括本部プロダクトマネジメント&マーケティング本部 プロダクトマーケティングマネージャーの鈴木晶太氏

Agentforce HubやSlack内の会話(DMでの利用はすぐに可能、チャンネルでの利用は2月以降を予定)の中でAgentforceを活用することができる。すべてのSlack有料プランで、Agentforceライセンスを追加することで利用を可能としている。

2月以降には、Slack Actions in Agent Builderで「canvasを作成する」や「チャンネルにメッセージを投稿する」といった、事前作成済みのSlackアクションを使用できるため、ユーザーはAgentforceの機能を強化し、Slackで簡単にチームと連携することができるという。

  • Agentforce in Slackの概要

    Agentforce in Slackの概要

また、SlackのDMやチャンネル、canvasに蓄積された組織のナレッジを活用してエンタープライズ検索機能を通じ、関連性の高い応答やアクションができることから、Slack内で公開されている会話、企業内で連携しているアプリケーションのデータをもとに、会話の文脈を理解したうえで信頼性の高い情報に基づいた応答を可能としている。以下はAgentforce in Slackのデモ動画だ。

最後に、鈴木氏は「業務の生産性を高めることが可能で、AIエージェントがSlackのスキルを持っているためcanvasの作成・更新、メッセージ送信など日々の業務を代替してくれる。さらに、CRMのデータにアクセスするだけでなく、Slack上の会話のコンテキストを理解したうえで、企業に適した情報を提供することができる」と強調していた。