日本ヒューレット・パッカード(HPE)は1月28日、都内で記者説明会を開き、「HPE Private Cloud AI」と新しいソリューションアクセラレータの受注を2月に開始、4月に出荷開始、「HPE VM Essentials」を2月末から提供開始するほか、Unleash AIパートナープログラムを発表した。

68%の企業が生成AIの展開モデルにハイブリッドクラウドを選択

冒頭、日本ヒューレット・パッカード 執行役員 ハイブリッドソリューションズ事業統括本部長の吉岡智司氏は以下のように語った。

「この数年間で当社はハイブリッドの環境をいかに簡単に活用できるかということをテーマに製品開発を行い、市場展開してきたが、AIのワークロードは確実にハイブリッドを前提にした環境でないと開発が進まない。そのため、これまで推進してきたハイブリッドな環境をそのまま生かして、簡便に企業でAIの開発に突き進んでいける環境を用意する必要がある」(吉岡氏)

  • 日本ヒューレット・パッカード 執行役員 ハイブリッドソリューションズ事業統括本部長の吉岡智司氏

    日本ヒューレット・パッカード 執行役員 ハイブリッドソリューションズ事業統括本部長の吉岡智司氏

続けて、同氏は「IDCの調査結果では、68%の企業が生成AIの展開モデルにハイブリッドクラウドを選択すると回答したほか、別の調査では83%の企業がパブリッククラウド上のワークロードをプライベートクラウドに移行することを検討している。市場競争力を高めるためには、自社内のデータを多く使い、ブラッシュアップしていくことが重要だ」との見解を示した。

こうした、環境の変化や企業のニーズに対応したソリューションがHPE Private Cloud AIとHPE VM Essentialsというわけだ。

多様化するマルチモーダル、マルチモデル、RAGに対応したHPE Private Cloud AI

次に、日本ハイブリッドソリューションズ事業統括本部 GreenLakeソリューションビジネス本部 ビジネス開発部 シニアカテゴリーマネージャーの寺倉貴浩氏がHPE Private Cloud AIの説明に立った。

  • 日本ハイブリッドソリューションズ事業統括本部 GreenLakeソリューションビジネス本部 ビジネス開発部 シニアカテゴリーマネージャーの寺倉貴浩氏

    日本ハイブリッドソリューションズ事業統括本部 GreenLakeソリューションビジネス本部 ビジネス開発部 シニアカテゴリーマネージャーの寺倉貴浩氏

本番業務でのAI活用において企業が直面する課題として、同氏は商用AIサービス型はセキュリティに対する懸念や利用の拡大に伴うコストの増大、オープンソース型はフルコントロールは魅力的ではあるものの自前での対応に苦慮する点を挙げており、クラウドの利便性とオンプレミスITの制御性の両立が不可欠だという。

そこで、現在は多様化するマルチモーダル、マルチモデル、RAG(検索拡張生成)に対応したAIプラットフォームが求められている。

HPE Private Cloud AIは、NVIDIAとの協業スキーム「NVIDIA AI Computing by HPE」ポートフォリオの一部として、昨年6月に米ラスベガスで開催した年次イベント「HPE Discover 2024」で発表された。

NVIDIAのAIコンピューティング、ネットワーキング、ソフトウェアと、HPEのAIストレージ、コンピュート、HPE GreenLakeクラウドを統合したオファリングで構成している。寺倉氏はNVIDIA AI Computing by HPEについて「企業向けにAIをシンプル化するNVIDIAとの共同ソリューション」と位置付けている。

HPE Private Cloud AIは、ネットワーキングに「NVIDIA Spectrum Switch」、コントロールプレーンが「HPE GreenLake orchestration」、同 VM Essentials、アクセラレーティッドコンピューティングは「NVIDIA L40S / H100 NVL」、「NVIDIA GH200」、「HPE ProLiant Compute Server」、ストレージに「HPE GreenLake for File Storage」「Ezmeral Data Fabric(オプション)」。

また、AIソフトウェアにデータ準備、学習カスタマイズ、推論・展開を行う「NVIDIA AI Enterprise」、データエンジニアリング、分析&可視化、データサイエンスを担う「HPE AI Essentials」、プラットフォームは「HPE GreenLake Platform」で構成。これらのハードウェア、ソフトウェア、ソリューションをもってして、チャットボットや翻訳、コーディング、ビジュアルコンテンツ、ライフサイエンスをはじめとした生成AIアプリケーションを開発するAIターンキーソリューションとなっている。

  • HPE Private Cloud AIの概要

    HPE Private Cloud AIの概要

プライベートクラウド管理者は3クリックで容易にデプロイできることに加え、認証トークン管理、インフラリソース管理などを可能とし、AIプラットフォーム管理者はGPUリソース管理、データソースの選択、機械学習パイプライン・分散処理ツールの選択、アプリケーションメトリック(開発中)などの機能を持つ。

さらに、AI開発者はデータパイプライン・データ加工ツールの選択、ソリューションアクセラレータ、最適化されたノートブックの提供、NVIDIAのツールセットなどを提供。寺倉氏は「AIの環境を管理者からAI開発者までクラウドコンソールのGreenLake Platformでセルフサービスで可視化された状態で操作できる。イチからアプリケーションを開発するのではなく、既存のものをマッシュアップしてくみ上げてAI開発に集中できる点が特徴だ」と、そのメリットを説く。

  • AI開発者におけるHPE Private Cloud AIの運用イメージ

    AI開発者におけるHPE Private Cloud AIの運用イメージ

一方、Unleash AIプログラムはパートナーエコシステムをサポートするように設計されており、HPE Partner ReadyのTechnology Partner Programの一環。同プログラムはテクノロジースタックのデータ、AIモデル、AIアプリケーションの各レイヤーにまたがるソフトウェアプロバイダーや、フルスタックのAIソリューションのアドバイザリー、設計、実装、管理を行うシステムインテグレーター、サービスプロバイダーを対象にしている。

グローバルでは、Codeium、Contextual.AI、Dataiku、IronYun、Securitiが参加し、AIで強化されたソフトウェア開発、高度なRAG、インテリジェントビデオ分析、安全でセキュアな生成AIシステム構築ソリューションなど、さまざまな高価値のユースケースを実現するとのことだ。

  • Unleash AIプログラムの参加企業

    Unleash AIプログラムの参加企業

ライセンス体系変更前の「VMware vSphere」と同価格・機能のHPE VM Essentials

最後に、日本ヒューレット・パッカード ハイブリッドソリューションズ事業統括本部 GreenLakeソリューションビジネス本部 ビジネス開発部部長の小川大地氏がHPE Private Cloud AIにも搭載され、昨年6月にラスベガスで発表したHPE VM Essentialsを解説。

  • 日本ヒューレット・パッカード ハイブリッドソリューションズ事業統括本部 GreenLakeソリューションビジネス本部 ビジネス開発部部長の小川大地氏

    日本ヒューレット・パッカード ハイブリッドソリューションズ事業統括本部 GreenLakeソリューションビジネス本部 ビジネス開発部部長の小川大地氏

小川氏は、まず同ソフトウェアの特徴について「コストパフォーマンスに優位性を持つハイパーバイザーであり、既存のVMware仮想環境を統合でき、コンセプトは“必要十分な機能を求めやすい価格”。また、マルチクラウド対応かつエンタープライズグレードのサポートとエコシステムを有している」と話した。

  • HPE VM Essentialsの概要

    HPE VM Essentialsの概要

必要十分な機能を求めやすい価格に関して、2023年当時における「VMware vSphere」のスタンダードエディションは1年~3年契約で17万円~24万円程度の価格を設定し、HPEの販売実績ベースでは8割のユーザーがスタンダードエディションを選択していたという。そのため、HPE VM Essentialsは「同程度の価格、機能でリリースする」と小川氏は説明。

VMware仮想環境を統合できる点については、HPE VM Essentialsは同社が2024年夏に買収した統合管理ツールを提供するMorpheus DataのKVM(Kernel-based Virtual Machine)、VMwareの管理技術を切り出して利用し、ホストOSはUbuntuとなる。

  • HPE VM Essentialsの機能

    HPE VM Essentialsの機能

加えて、移行に関してはVMwareベースの既存環境も管理できるため新旧環境の統合管理を可能とし、管理下にある既存のVMware仮想マシンをVM Essentials仮想マシンに変換できるほか、オンライン移行や一括移行が必要な場合はHPEZertoソフトウェアへの対応を予定している。

  • KVMに加え、既存のVMware環境も統合管理できるという

    KVMに加え、既存のVMware環境も統合管理できるという

ラインアップは単一エディションを用意し、2月末にソフトウェア単品でエンジンだけ提供する「HPE VM Essentials Standalone」、今春に小~中規模の個別システム向け仮想化プラットフォームのユーザー、今夏に中~大規模の統合基盤向けのクラウドプラットフォームのリリースを予定。そのほか、Standaloneでは運用サービスも提供する。

  • HPE VM Essentialsの単一エディション

    HPE VM Essentialsの単一エディション

小川氏は「HPE Private Cloudシリーズは、これまでVMwareを中心にラインアップを拡充してきたが、これに加えてコストバランスが良いハイパーバイザーも選択できるということが当社の戦略だ。『クラウドライクに使いたい、オンプレミスもクラウドライクに昇華させたい』というニーズに対応していく」と力を込めていた。