シスコシステムズは1月22日、都内で事業戦略説明会を開催した。説明会には同社 代表執行役員社長の濱田義之氏、昨年3月に買収が完了したSplunkの日本法人であるSplunk Services Japan 社長執行役員の野村健氏が登壇した。
2024年で一番のニュースはSplunkの買収
昨年12月に米国本社では創業40周年を迎えるとともに、濱田氏の社長就任から1年が経過した。昨年、日本法人ではビジョンとして「セキュリティ」「サステナビリティ」「AI」を注力分野に据え、サブスクリプションモデルの拡大、企業文化に自立分散型組織を掲げていた。
こうしたビジョンのもと、同社では「シスコセキュリティサミット東京」、「WebexOne Japan」、「シスコサステナビリティサミット」の開催に加え、広島で開催した「平和のためのAI倫理」式典での登壇、AIガバナンス協会に参画とセキュリティ、コラボレーション、サステナビリティ、AIの取り組みを推進。
また、濱田氏が「1番のニュース」と言及したことは、言わずもがな昨年3月に280億ドル(当時の為替レートで4兆円)と、米国本社としては過去最高の買収額となったSplunkの買収の完了だ。買収完了直後の6月にはサイバーセキュリティCoE(Center of Excellence)の開設を発表し、7月には防衛省陸上幕僚監部と覚書を締結した。
製品・サービスについては、セキュリティにおいて認証とアクセスの間のギャップを解消し、アイデンティティ、ネットワーキング、セキュリティを統合する「Cisco Identity Intelligence」、AIを前提に設計・構築されたセキュリティ・アーキテクチャ「Cisco Hypershield」のリリース、SD-WAN対応のファイアウォールセキュリティアプライアンス「Cisco Firewall 1200」シリーズを販売開始した。
濱田氏は「シスコと言うと、どうしてもルータやスイッチなどネットワークカンパニーの印象が強いが、最近ではセキュリティカンパニーとしての知名度も拡大しており、セキュリティをテーマにした問い合わせ、取材などの依頼が多くなってきている」と述べた。
また、ネットワークでは11月に「Cisco Wi-Fi 7アクセスポイント」を発表し、12月に提供を開始。2月からは全国6都市で「Cisco Wi-Fi 7 ロードショー」の開催を予定している。
同氏は「セキュアなITインフラの構築、となるとセキュリティに目が行きがちだが、煎じ詰めるとハードウェアを含めて、どのように強固なネットワーク基盤を構築するとともに、ネットワークをどのようにセンサとして活用していくかがカギになる。当社はソフトウェアに注力しているが、継続的にはハードウェアにも投資してリーダーポジションを維持していく覚悟」と強調した。
日本市場における中長期戦略
続いて、2025年も含めた中長期的な戦略について話は移った。濱田氏は「AI時代において、あらゆる組織をつなぎ、保護していくことがシスコの使命。インターネット、クラウドの変革を支えてきた当社だからこそ、AIの変革を実現しなければならない。これを実現するには、卓越したネットワークカンパニーであり続ける。卓越したネットワークカンパニーであり続けるためには、卓越したセキュリティカンパニー、AIカンパニー、データカンパニーでなければならないと考えている。当社はネットワーク、セキュリティ、オブザーバビリティ、コラボレーションを単一のプラットフォームで提供できることから、実現可能だ」と力を込める。
こうした考えをふまえ、注力している分野を「AI対応のデータセンター」「未来を見据えたワークプレイス」「デジタルレジリエンス」の3つの領域を軸に、AI時代における顧客の新しい価値創造やビジネスの成長に向けて、同社にしかできない単一のプラットフォームを通じて、サポートしていく考えだ。
一方、日本法人の注力戦略は「AI時代のビジネス変革」「テクノロジーで安心・安全をつなぐ」「持続可能な未来の創造」とし、パートナーとの価値共創に加え、引き続き自律分散型組織を標榜していく。
AIによるビジネス変革
AI時代のビジネス変革では、日本のAI利活用習熟度の遅れを鑑みて、日本社会・企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)、AIの利活用を加速化していくために、AIの民主化と保護を実現していく。
そのようなことから、昨年に買収したRobust Intelligenceのテクノロジーを活用した「Cisco AI Defence」を提供する。これは、組織におけるAIのセキュアなアクセス制御や高度なリアルタイム検出を、AIセーフティ、AIセキュリティといった形で、企業のAIの利活用を包括的に保護するソリューションとなり、3月1日から米国と日本で先行リリースされる。
セキュアなネットワーク
テクノロジーで安心・安全をつなぐについては、エンドツーエンドでのセキュアなネットワークを提供し、顧客にSplunkとの統合効果を最大限に活用してもらうという。前述したサイバーセキュリティCoEが本格稼働する。
すでにナショナルサイバーセキュリティアドバイザーが着任し、政府関係者や企業との連携を開始するほか、脅威インテリジェンスチーム「Talos」の日本チームも近日中に始動するという。また、製品サポートチームの体制を強化していく。
サステナビリティの支援
持続可能な未来の創造に関しては、AIの利活用とサステナビリティの両立は課題になるため、企業や政府の目標達成に貢献すると同時にデジタル人材の育成を図る。同社のプログラム「Cisco Green Pay」では、省消費電力の環境に顧客が移行する際にシスコ製品だけでなく、他社製品も無償で受け取り、可能な限りリサイクルする。
さらに、シスコ製品についてはリプレイスの有無にかかわらず、パートナー経由で無償で受け取り、リサイクルに回ることを加速化していく。デジタル人材の育成ではIT人材育成プログラムの1つで30年以上、実施している「シスコネットワーキングアカデミー」の対象を学生のみから、社会人にも無償で提供する。
これら3つの注力分野を推進していく中ではパートナーエコシステムを構築、提供していくことが重要になることから「Cisco 360パートナープログラム」により、カスタマーライフサイクル全般にわたり価値を提供していく考えだ。
このような取り組みを推進することでセキュリティビジネスを3年で2倍に拡大し、AI民主化の実現を支援するソリューションをAI Defenceを含めて、3つのソリューションをリリースしていく。なお、昨年も言及したグローバルの目標として掲げている総売上に占めるサブスクリプションの割合50%は、すでに達成している。
「シスコとともに、より良い未来を」 - Splunk 野村社長
次に、Splunk Services Japanの野村氏が同社の事業戦略について説明に立った。まず、同氏は昨年6月にOxford EconomicsとForbes Global 2000を対象に実施した共同の調査結果を引き合いに出し「システムのダウンタイムコストは60兆円となり、うち56%がサイバーセキュリティ、44%がアプリケーション/インフラに起因するものだった。国内外でデジタル化が進展している一方で環境が複雑化して、問題が発生した際に発生した箇所がセキュリティ、アプリケーション、インフラなのか切り分けることが難しい時代になっている」と指摘。
そのため、同社ではこうした複雑な環境に対して、SIEM(Security Information and Event Management)などのセキュリティと、オブザーバビリティの両方を統合的に可視化するプラットフォームを提供している。セキュリティの領域ではシスコ製品、AIセキュリティではRobust Intelligenceと年末にシスコから買収が発表されたSnapAttackとの統合・連携を強めていく。
オブザーバビリティについては、AppDynamicsのチームとともに企業全体の可観測性の向上を図る。さらに、2020年にシスコが買収したThousandEyesとの連携を進めていくことでクラウド、インターネット、エンタープライズのネットワークアプリケーション、顧客のサービスを高い次元で安心安全に使えるよう、エンドツーエンドのデジタルエクスペリエンスの構築を支援する。
日本市場のコミットに関しては2つのポイントを挙げている。1つはMicrosoft Azure上で「Splunk Cloud on Azure」のサービス提供を昨年11月に開始。「Splunk Cloud Platform」「同Enterprise Security」「同IT Service Intelligence」「同SOAR」を提供する。
野村氏は「すでにAWSとGoogle Cloudには対応している。Azureをメインにしていたお客さまにとっては、例えばデータ転送のスピード感やコストの最小化、Azureのコンサンプション契約の一部を使えるなどのメリットがある」と説く。
もう1つは、ISMAP(政府情報システムのためのセキュリティ評価制度)への登録完了について。すでに、Splunk Cloud Platformと同Enterprise Security、同IT Service Intelligenceが登録されている。
シスコとの強化では、従来のログベースの課金モデルからワークロードベースの課金体系を用意することに加え、Amazon S3といった外部ストレージもサポート。パートナー戦略は前述のCisco 360パートナープログラムを導入する。
強化ポイントの1つとして、Talosの情報をSplunkのセキュリティ製品に取り込むことができるようになったため、安価で高い価値をインテリジェンスの領域に適用できることから、攻撃の多様化や環境の複雑性、生成AIの活用などにも対応したSOC(Security Operation Center)を提供していく考えだ。
野村氏は「シスコとともに、より良い未来を迎えられるように今後も活動していく」と述べており、濱田氏は「すべての領域でSplunkとの融合が大きく寄与すると考えている。Splunkを活用しながら強固な基盤を構築し、ビジネスの損害を防ぎ、安心な環境でビジネスの成長につなげていくことを支援する。今後も新しいイノベーションに期待してもらいたい」と期待を口にしていた。