オンライン本人確認サービス「LIQUID eKYC」を提供するELEMENTSは1月14日、都内で説明会を開き、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)のポラリファイの株式を取得し、連結子会社化することを決議したと発表した。なお、SMBCグループは引き続きポラリファイの株式を保有する。

  • 左からポラリファイ 代表取締役兼三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部部長の和田友宏氏、ELEMENTS 代表取締役社長兼Liquid 代表取締役の長谷川敬起氏、三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部長の松永圭司氏

    左からポラリファイ 代表取締役兼三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部部長の和田友宏氏、ELEMENTS 代表取締役社長兼Liquid 代表取締役の長谷川敬起氏、三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部長の松永圭司氏

グループ全体の売り上げ規模が40億円に拡大

これまで、ポラリファイの株式はSMBCグループとアイルランドのDaon、NTTデータが保有しており、ELEMENTSがDaonとNTTデータから全株式を取得し、株式の95.01%を譲り受けることで合意。ポラリファイは金融庁から「銀行業高度化等会社」として第1号の認可を取得し、主力事業はオンライン本人確認を行うサービス「Polarify eKYC」を提供している。

  • 統合の概要

    統合の概要

ELEMENTS 代表取締役社長兼Liquid 代表取締役の長谷川敬起氏は「LIQUIDeKYCとPolarify eKYCは同じようなサービスをマーケットに提供し、鎬を削ってきた。今回の資本業務提携でグループ全体の売り上げ規模はELEMENTSの25億円、ポラリファイの15億円で計40億円が見込まれており、1.6倍に拡大する。2025年11月期についてはポラリファイの2四半期分の売り上げが連結業績に取り込まれ、2026年11月期以降に通期で寄与し、業績予想については影響数値を精査したうえで、後日開示を予定している」述べた。

  • ELEMENTS 代表取締役社長兼Liquid 代表取締役の長谷川敬起氏

    ELEMENTS 代表取締役社長兼Liquid 代表取締役の長谷川敬起氏

今後、1年半かけてPMI(Post Merger Integration:M&A後の統合プロセス)で収益改善を図り、2年後には年間7億5000万円~10億円程度の収益改善を見込んでおり、長期的には高付加価値ソリューションの売上高が個人認証売上高の50%までを視野に入れている。現状、両社を合算した累計契約者数は550社、累計本人確認件数は1億2000万件に達しており、これらの顧客基盤を活かして認証ソリューションを提供していく考え。

  • 「LIQUID eKYC」と「Polarify eKYC」の契約事業者

    「LIQUID eKYC」と「Polarify eKYC」の契約事業者

犯罪対策閣僚会議の「国民を詐欺から守るための総合対策」で示された方針への対応として、ICチップを活用した本人確認(身元確認)のへ方式とワ方式(利用者のマイナンバーカードのICチップ情報と、地方公共団体情報システム機構が提供する公的個人認証サービスを用いる本人確認)の提供に加え、Liquid独自の不正対策ソリューションをLiquid、ポラリファイ両社のユーザーに提供していく。

  • 今後の取り組み

    今後の取り組み

海外も含めた事業展開の可能性も

具体的には、厳格な本人確認(身元確認)に加え、顔認証でアカウントや口座開設者と実際の利用者の同一性を確認することで、利用者アカウントと利用者のスマホを正しく紐づけるバインディングを行い、なりすましを防止。

万が一、フィッシングなどの詐欺でIDやパスワード、ワンタイムパスワードなどが詐取されても、不正者は取引できないようにするほか、通常の公的個人認証(JPKI)における本人確認は、顔撮影のフローがないが、LIQUID eKYCは公的個人認証による本人確認(身元確認)時に顔容貌を撮影し、サービス利用時の当人性を顔認証で確認可能にする「JPKI+(容貌)」機能を搭載し、バインディングによる不正対策をできるようにしている。

  • 「JPKI+(容貌)」機能の概要

    「JPKI+(容貌)」機能の概要

また、公的個人認証による本人確認(身元確認)後、国の機関(J-LIS)から本人同意にもとづく基本4情報(住所、氏名、生年月日、性別)を取得し、継続的に現況や最新基本4情報を確認します。また、顔認証と組み合わせ、口座開設をした利用者から別の人物へ不正に口座が譲渡されていないかも確認可能にしています。

さらに、ELEMENTSは画像生成AIツール「SugeKae」を提供しており、ECサイトで自然に見える商品画像を生成するための開発を行うなど、生成AI技術も既に商品化・実用化している。これらの技術を背景に、昨今の生成AIによる不正手口の傾向を分析し、ディープフェイクを含む、デジタルでのなりすまし攻撃全般を判定する機能を、導入する全事業者に無償で提供する。

このほか、当人認証サービス「LIQUID Auth」と不正検知サービス「LIQUID Shield」を展開。フィッシングによるものとみられるインターネットバンキングに係る不正送金件数が5,578件、被害額は約87.3億円と過去最悪を更新しており、LIQUID Authの月間認証回数は前年比約20倍、LIQUID Shieldの同不正検知数は同約2倍となっている。

そのため、パスワードを使わずにログインなどができ、次世代認証技術の1つとして普及促進が見込まれ、パスキー(FIDO)は初回導入や機種変更時に、利用者アカウントと取引に使う利用者のスマホを正しく紐づけるバインディングが重要となる。

ポラリファイが強みを持つパスキーと、ELEMENTSの正しいバインディングを実現する身元確認(本人確認)、当人認証、また業界横断の不正検知も組み合わせ、パスキー単独では起き得るなりすまし不正にも対応し、総合的な不正対策ソリューションを展開していく。

  • 本人確認(身元確認)から当人認証、不正検知までを一気通貫で行うことによる、アカウントの不正開設や不正利用を防止するという

    本人確認(身元確認)から当人認証、不正検知までを一気通貫で行うことによる、アカウントの不正開設や不正利用を防止するという

ポラリファイ 代表取締役兼三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部部長の和田友宏氏は「今回の譲渡は当社の事業に深くかかわる犯罪収益移転防止法の改正やパスキーといった新たな認証技術の台頭など、外部環境の大きな変化が生じる中で生体認証市場を拡大し、利用者の利便性向上を目指す中での最適解を模索した結果。今後、より良いソリューションを提供するチャレンジを続け、グループの一員として新たなイノベーションを創出するとともに業界全体の発展に貢献していく」と決意を述べている。

また、三井住友フィナンシャルグループ デジタル戦略部長の松永圭司氏は「ポラリファイとLiquidが合流することで、さらなるニーズの拡大とサービスの高度化が見込まれる個人認証ビジネスにおいて、事業者、ユーザーに対して不正対策を含めた総合的な認証ソリューションを提供していくことが最善の選択肢と判断した。今後は海外も含めた事業展開の可能性も含めてチャレンジしていく」と期待を寄せていた。