5Kウルトラワイドモニターは、その高解像度と曲面ディスプレイにより、PCでの作業効率を劇的に向上させる可能性を秘めています。本稿ではこのウルトラワイドモニターを「シングルマルチモニター」構成で使い、Visual StudioとVS Codeを並べてコーディングしつつ、ブラウザーでリファレンスを確認したり、多くのツールパネルを開いたIllustratorと資料を同時に表示したりと、作業環境を最適化する方法を紹介します。
はじめに
みなさんは、現在のモニター環境に満足しているでしょうか。筆者はモニターのサイズや解像度が作業効率や生産性に大きな影響を与える重要な要素であると考えています。マルチモニターや高解像度のモニターを使用することで、ウィンドウの切り替え回数が減り、作業の流れが途切れにくくなり、作業効率が向上します。
しかし、マルチモニター環境にはデスクスペースの制約やケーブルの煩雑さ、モニター間のベゼル(フレーム)が視界を分断するなどの課題も存在します。そこで注目すべきなのが、ウルトラワイドモニターです。ウルトラワイドモニターは 1 枚で広大な作業領域を提供し、作業効率の向上とデスク環境のシンプル化を同時に実現できます。
筆者は 20 年以上、Web や業務システムの開発でいろいろなモニターを使ってきましたが、最近 5K ウルトラワイドモニターを導入したことで、作業効率がさらに向上したことを実感しています。
本稿では、その経験をもとに、5K ウルトラワイドモニターを「シングルマルチモニター」として活用する方法と、そのメリットについていくつかの利用スタイルを交えて紹介します。
ウルトラワイドモニターの導入を検討中の方は、ぜひ本稿を参考にして効果的な活用方法を見つけていただければ幸いです。
対象読者
本記事は以下のような読者を想定しています。
- Windows のウィンドウスナップ機能を使っている方
- これからウルトラワイドモニターの導入を考えている方
- すでにウルトラワイドモニターを使っている方
- プログラマーやデザイナーでモニター環境を快適にしたい方
5K ウルトラワイドモニター
さて、まず本稿で扱う「5K ウルトラワイドモニター」がどのようなものかを確認しておきます。
なお、本稿執筆時点で入手できる製品としては、デルの「U4025QW」とLGの「40WP95C」などがあります。以下の説明ではなるべく両機に共通の特徴を取り上げますが、実機はデルの U4025QW を使用しているため、LG の 40WP95C については実機での確認ではないことをご了承ください。
解像度
一番の特徴である解像度は 5120 ピクセル×2160 ピクセルです。約 5000 ピクセルということで 5K と呼ばれます。縦横を合わせて「5K2K」とも呼ばれたりします。アスペクト比(画面の縦横比)は約 21:9 です。
4K モニター(3840 ピクセル×2160 ピクセル)に比べて横幅が 33% 広く、フル HD(1920 ピクセル×1080 ピクセル)と比べればその面積比は 5.3 倍にも上ります。
曲面
40 インチを超えるモニターサイズになると、画面の中央と端では目からの距離にかなり差が出てきます。実際に筆者が 43 インチ 4K モニターを初めて使用したときは、画面の端が遠ざかっていくような感覚を覚えたほどです。画面端までの距離はかなり遠くなるため、視力によっては首を振るだけでは見づらく、上半身ごと左右に動かす必要があります。
これを解決するのが曲面モニターです。曲面にすることで幅広であっても、大きな違和感なく端まで見渡すことができます。以下は一般的な平面モニターと曲面モニターの視線比較です。
数値上ではわずか数 cm の違いでしかないですが、実際に使ってみるとこの違いは意外と大きく感じられます。ただし、人によって曲面モニターが合わない場合もあるようなので、できれば購入前に実機の前に座り、しばらく操作してみることをお勧めします。
ピクチャーバイピクチャー (PBP) 機能
本稿の肝となるのが、ピクチャーバイピクチャー機能です。ピクチャーバイピクチャーとは、1枚のモニターに、2つの映像ソースを左右に並べて表示させる機能のことです。筆者はこの機能を使ってこそ 5K ウルトラワイドモニターの真価が発揮できると考えています。
今回、実機として用いたデル U4025QW では 50%:50% だけでなく、 80%:20% や 75%:25% のような分割比率も設定可能です。具体的な解像度は以下のようになります。なお、それぞれ左右の比率は逆にすることもできます。
80%:20% や 75%:25% では、右側の解像度がずいぶん縦長に感じられるかもしれません。しかし、これはフルHD (1920x1080) のモニターを縦向きに使う感覚に近く、Web ページや縦長の Excel ファイルを閲覧するのに適しています。
ただし幅 1024 ピクセルでは Web ページの表示には少し狭すぎるので、筆者は幅 1280 ピクセルが確保できる 75%:25% が気に入っています。この場合、残った領域はちょうど 4K モニターと同じ解像度(3840×2160 ピクセル)になります。
なお、U4025QW では、ピクチャーバイピクチャーで画面を分割した場合、左側がメイン入力、右側がサブ入力になります。メイン入力・サブ入力ともに、HDMI 2.0、DisplayPort 1.4、USB-C (Thunderbolt 4) を排他的に設定することができます。
ちなみに LG の 40WP95C でも、 50%:50% と 75%:25% の 2 パターンの分割比率が設定可能です(80%:20% には設定できない)。
ウルトラワイドモニターを使った「シングルマルチモニター」の提案
5K ウルトラワイドモニターは名前の通り横幅が広いことが特徴ですが、そのままウィンドウを最大化して使うと、ウィンドウが横長になりすぎて使いにくくなってしまいます。幅 5120 ピクセルで快適に使えるように設計されたアプリケーションはほとんどないでしょう。
必然的にウィンドウを横方向に何枚か並べて作業することが多くなります。ウィンドウを横に並べることで、ウィンドウの切り替え回数が減り、作業効率が向上します。
昔「デスクトップ」を実際に机の広さに例えて初心者に伝えることがありましたが、まさにその通りで、広い机に同時に書類を並べ、俯瞰しながら仕事ができるというのはいかにも効率がよさそうです。
Windows 標準のウィンドウスナップ機能の課題
バージョン 10 以降の Windows には「ウィンドウスナップ機能」があります。これはウィンドウを画面の端にドラッグすると、画面の半分にウィンドウが配置される機能です。 Windows 11 からはさらに3分割や4分割の機能も追加され、配置の選択肢も大幅に増えました。スナップの選択肢は、ウィンドウの最大化ボタンをポイントするか [Windows] + [Z] キーで呼び出すことができます。
OS 提供の機能としては優れた機能ですが、ウィンドウを画面端までドラッグしたり、配置するウィンドウを逐一選択する手間があります。Web ブラウザーなど、常に位置を固定しておきたいウィンドウがある場合、他のウィンドウのスナップ操作によって、位置が変わってしまうため、それを元に戻す手間も発生します。ささいなことですが、これが繰り返しになると、ストレスになることもあります。
ピクチャーバイピクチャーを使った「シングルマルチモニター」の構成
さて、前述のピクチャーバイピクチャー機能を利用することで、ウィンドウスナップ機能の課題を解消してみましょう。ピクチャーバイピクチャーでは、通常はメイン側とサブ側で別の PC を接続するのが一般的ですが、 PC から映像出力を複数取り出せる場合は、以下のように同じ PC を接続する構成が可能となります。
本稿では以下、ピクチャーバイピクチャーの各入力に同じ PC を接続するこの使い方を「シングルマルチモニター」と呼ぶことにします。
この構成にすると、 PC 側からすればあたかもモニターが 2 台つながっているように認識されますが、通常のマルチモニターとは異なり、物理的には境界がありませんので、見た目上はつながった 1 枚に見えます。言ってみれば、ベゼル(フレーム)が「ゼロ」のモニターをつなげたイメージです。
以下は「シングルマルチモニター」構成にした状態の Windows のディスプレイ設定画面です。2 つのモニターが認識された状態であることがわかります。
この構成のいいところは、PC の認識上は別個のモニター(デスクトップ)であるので、各モニター内でウィンドウを「最大化」するとそのモニター領域のみで最大化されることです。 Web ブラウザーや Slack などのように常に表示しておきたいアプリケーションを最大化しておけば、専用のモニター領域が確保できます。
これにより、ウィンドウスナップ機能を使わずとも、ウィンドウの位置を固定することができます。筆者の場合は右側のエリアに Web ブラウザーを固定して、左側のエリアで作業をすることが多いです。
さらにこの使い方の場合、仮想デスクトップとしては 2 枚がつながった状態であるため、5120 ピクセルの最大幅の恩恵を受けることもできます。例えば、列数がとても多い Excel ファイルなどを見るときは、2 画面分を余すことなく使って表示できます。
下図は白紙の状態で開いた Excel をモニターの端から端まで表示した例です。
筆者の環境では、列方向は A 列~ BR 列(70列目)まで、行方向は72行目まで表示できました。フォント設定により異なりますが、100% 表示で 5000 セルほどが一度に表示できます。
ノート PC でデイジーチェーンを使った「シングルマルチモニター」の構成
ここまでの説明はデスクトップ PC を前提にしましたが、ノート PC でも同様に「シングルマルチモニター」を実現できる場合があります。
モニターが、複数のモニターを数珠つなぎにする「デイジーチェーン」機能に対応していれば、 Thunderbolt (USB-C) でノート PC を接続することで実現できます。一般的な Thunderbolt のデイジーチェーン接続は以下のようなイメージです。デイジーチェーンに対応するモニターには、次のモニターに接続する用の「ダウンストリーム」ポートが用意されています。
ノート PC は 1 台目のモニターのみと接続し、 2 台目のモニターは 1 台目のモニターとデイジーチェーン接続します。これでノートPC からは 2 台のモニターが認識されます。
このデイジーチェーンとピクチャーバイピクチャー機能を使えば、メインの画面を 1 台目のモニター、サブの画面を 2 台目のモニターとして認識させることで、ノートPC でも「シングルマルチモニター」を構築できます。
具体的には以下のように接続します。
ノート PC との接続は Thunderbolt ケーブル 1 本というシンプルさを維持したまま、これまで見てきたようなピクチャーバイピクチャーを活かした使い方ができます。図中にある USB-C と HDMI の変換ケーブルは別途必要になりますが、これは Amazon などで 2000 円程度で入手できます。
以下の写真は実際に Thunderbolt ケーブル1本でノートPCとデル U4025QW を接続し、さらに USB-C と HDMI の変換ケーブルによるデイジーチェーン接続を利用して、「シングルマルチモニター」構成にしているところです。
これで、モニターだけでなく、140W USB-PD(Power Delivery)によるノートPCの充電、USBハブ、スピーカー、有線LANポートまで利用できてしまうのだから驚きですね(LG 40WP95C の場合は USB-PD は 96W まで、有線LANポートはなし)。
利用スタイルに応じた活用例
では実際に、「シングルマルチモニター」の活用例をいくつか紹介します。
プログラミングでの活用例
プログラミングでは、複数のウィンドウを並べて表示することが多いです。例えば、ソースコードエディターの他にも、Git やサーバー操作用のターミナル、Web ブラウザー、データベースクライアントなどです。
下図は実際に VS Code、ブラウザー(Google Chrome)に加えて、Excel、API 開発の支援ツール Postman を同時に表示した例です。
ブラウザーはピクチャーバイピクチャーで分けた右側の画面に表示し、残りのアプリケーションは Windows のウィンドウスナップ機能を使って配置しています。ブラウザーは常に固定されているため、ウィンドウスナップ機能を使って配置したアプリケーションによって、むやみに位置が変わることはありません。いずれのアプリケーションにも十分な領域が確保されており、ウィンドウを切り替えることなく作業ができます。
次に複数の IDE(統合開発環境)を同時に開いて作業する場合を考える。筆者の場合、 Visual Studio でプログラミングしながら、 VS Code でドキュメントを書きたいこともよくあります。以下は Visual Studio と VS Code を並べて表示した例です。
ブラウザー領域は固定的に確保しながら、いずれの IDE にも十分な領域が確保されているため、コードの俯瞰や複数ファイルの同時編集もしやすいです。
さらに VS Code の ZEN Mode を併用するのもおすすめです。 ZEN Mode は、エディターの余計な部分を非表示にして最大化することで、エディターに集中できるモードです(VS Code のデフォルトでは [Ctrl] + [K] → [Z] のショートカットキーで ZEN Mode が有効になる)。
ZEN Mode に入ると、余計な情報が少なくていいのですが、参考にしたい Web ページなどがある場合、切り替えが面倒だと感じることがあります。その場合もピクチャーバイピクチャーが役立ちます。
ZEN Mode だとサイドバーなどは非表示になるため、コードエディター自体は 3 列表示でも狭さを感じません。エディター以外を表示するというのは厳密には ZEN Mode のコンセプトから外れている気もしますが、そこは目をつぶりましょう。
Web デザインでの活用例
Illustrator や Photoshop などのデザインツールを使う場合、ツールパネルやレイヤーパネルなどが多くなると、作業領域が狭くなってしまいます。これは解像度の高いモニターで解決できますが、ウルトラワイドモニターではさらに Web ブラウザーや資料などを並べて表示することで、作業効率を向上させることができるでしょう。
下図は Illustrator と Web ブラウザーを並べて表示した例です。
しっかり作業領域を確保しつつ、ツールパネルやWebブラウザーも同時に表示できていますので、参考資料を見ながら快適にデザインできます。もっと大量のツールパネルを開いたり、 Illustrator と Photoshop をウィンドウスナップで並べても快適に作業できます。
[コラム]モニター上での紙の実寸表示 ---------------------------------------------------------------------------DTP 用途では、モニター上に紙などを実寸で表示したい場合があります。
本稿のモニターの DPI (Dots Per Inch; 1インチあたりの画素数) は 140 dpi で、Windows の標準(100%)の表示設定では 96 dpi です。実寸表示非対応のアプリケーション(Word や旧バージョンの Illustrator など)では、表示を約 146 %(140÷96*100=145.8%)に設定するとよいでしょう。バージョン 2019 以降の Illustrator ではアプリケーションが自動計算してくれますので、100%を選択するだけで大丈夫です。
なお、画面表示部分の高さは 392mm ありますので、 B3 サイズ(364mm×515mm)までは実寸で表示できます。
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