「水資源を守れ!」涵養林からはじまる サントリー食品インターナショナルの水ビジネス

なぜ今、水人気なのか

「当グループは大手ビール会社として形容されることが多いのですが、本質的には水の会社です。良いビールもウイスキーも清涼飲料も、良い天然水がなければつくれない。水が何より大事」とサントリーグループ関係者たちは水への思いを語る。一般的にはビールやウイスキーの企業イメージが前に出ているが、コーポレートメッセージは「水とともに生きる」であり、水にかける情熱は深いものがある。

 サントリーホールディングスの2024年度決算は3兆2851億円で、うち『サントリー天然水』などを扱うグループ会社・サントリー食品インターナショナルの売上高は1兆5900億円(営業利益1417億円)で、グループの約半数を占める。

 育んだ水はグループの商品に使用され、天然水単体商品としても稼ぎ頭の一つ。同社全体における水の構成比は毎年増え続け、20年度は27・5%であったのが、23年には30・4%まで上昇し過去最高の販売数量に到達。1991年の発売から成長を続け、今では国内飲料ブランドで6年連続トップを維持している。

 なぜいま人々は天然水を求めるのか? 猛暑や地震に加え、昨今、水道水から検出される人体に有害である有機フッ素化合物(PFAS)に消費者が敏感になっていることもあり、今後天然水の需要はますます増加していくと見られる。水に詳しい武蔵野大学客員教授の橋本淳司氏は次のように話す。

「2050年には世界人口97億人の約半数が水不足に直面する。日本は水資源が豊か、というのは実は間違い。人口密度が高く、一人当たり水源賦存量(最大使用できる水量)は世界平均の約半分。なぜ渇水しないかと言うと、上下水道の人工的構造物、自然生態系を壊さないようにする活動、それらを支えている人々がいるから」

 同氏は日本の気候変動には水が大きく関係していると主張し、水道水も天然水も誰かの支えで成立しており、当たり前に存在するものではないと強調。

 今年は日本各地で記録的大雨やそれによる水害も多く発生した。これまで上下水は行政が管理し、森林や田んぼは所持者が維持管理してきた。しかし、多発する自然災害に備えるためにも、今後は行政、地域住民、企業の協働管理体制を敷き、国民一人一人が自発的に水資源を守る意識を持つことが重要だと警鐘を鳴らす。

 天然水を製造販売するサントリー商品インターナショナルは、その水サステナビリティへの活動に20年以上前から熱心に取り組んできた。全国15都府県22箇所の国内工場で、汲み上げる地下水量の2倍の水を涵養している。単に天然水を製造販売するのでなく、その水を育む環境保全に注力してきたことからも、同社の水に対する本気度、情熱が窺える。

 同社が年月をかけて行ってきた水源涵養活動は国内に留まらず海外にも及ぶ。水の循環や、大切な使い方を伝える次世代環境教育「水育」活動も、現在8カ国に展開し、累計参加人数は58万人を超えた。

 国土交通省の調査によれば、世界で水道水をそのまま飲める国は、日本を含めまだ9カ国のみという現実もある。2050年に来るといわれている世界の水不足に供給が間に合わなければ、水資源の奪い合いに発展する恐れもある。「水は有限」という消費者の環境への意識改革が急がれる。

若年層に高人気

 サントリー食品インターナショナルが10代に行った調査(24年3月、1都3県の高校生と大学生計500人を対象)によれば、一番好きな飲料は1位が水で、2位がお茶、3位がスポーツドリンク、以降は炭酸飲料、果汁飲料と続く結果であった。若年層は今も昔もジュースや甘い炭酸飲料が好きかと思いきや、大きな変化を感じさせる結果だ。全体の6割が週に1度水を購入する習慣がある。

 同社はこの結果をふまえ、水をよく購入するこの世代への啓発を強化するため、『次世代ウォーター・ポジティブ プロジェクト』を8月から開始。

「長年取り組んできた水のサステナブル活動は、ブランドの価値の一つと考えている。10代の子たちは生まれた頃から家庭にミネラルウォーターがあり、水は買う価値のあるものという認識がある。この世代が水を未来につないでいく重要な世代」と同社ブランドマーケティング本部長の多田誠司氏。

 美味しい天然水は、雨や雪がおよそ20年もの歳月をかけて地中深くに浸み込み、何層もの地層で磨かれてできるため、その雨や雪を受け止める豊かな森が不可欠。同社ではその森を保全する活動を、中長期の視点をもって継続して実施してきた。

「水の資源が有限であることをもっと知ってもらいたい」(同氏)という想いから、同社は高校生主体の啓蒙活動(座談会や高校生によるSNS発信)や、幼児から小学生向けイベント、小学校授業の展開や拡張を、今後もさらに推進していく方針で、26年までに対象者累計10万人を目指している。

 高校生との率直なコミュニケーションは同社に新たな気づきをもたらした。例えば高校生は美容・健康意識から水を頑張って摂取しているのではなく、純粋に水が好きでミネラルウォーターを購入しているということが多い。更に、価格ではなく、安全安心を求めNB(ナショナルブランド)を選んでいるということも意外な事実であった。

 同社は今後も世界中でウォーター・ポジティブ活動を強化し、消費者の水への意識をさらに高めていこうとしている。

 水は一見華やかさに欠ける商品で、涵養活動にもスポットが当たることは多くはない。しかし、非常時に一番求められるのは水。人々の生命を支える水を扱うトップ企業として、水資源をどう確保するかという中長期的課題に対応しながらの事業展開である。