建設業は現在、労働力不足や高齢化が大きな課題となっている。そこで、TECH+では12月4日、建設DXをテーマに、設計や現場作業における課題を整理し、デジタルを活用した生産性向上や経営環境の改善を後押しすることを目的に、「TECH+セミナー 建設DX 2024 Dec. 建設業のいまとあるべき姿」を開催した。

この中で、国土交通省 大臣官房参事官(イノベーション)の森下博之氏が、「i-Construction 2.0 ~動き始めた建設現場の省人化~」と題し、同省が進める「i-Construction」の取り組みについて説明した。

「i-Construction」とは

国土交通省では2016年から、建設現場の生産性向上や業務、組織、プロセス、文化・風土や働き方の変革を目的に、「i-Construction」を推進している。i-Constructionは、ICTの全面的な活用(ICT施工)によって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組みだ。そして、今年の4月には、i-Constructionの取り組みを加速し、建設現場のさらなる省人化に取り組むため、「i-Construction 2.0」を新たに発表した。

森下氏は、同省がi-Constructionを進める背景について、以下のように述べた。

「日本全体の生産年齢人口が、2040年度には2020年度から約2割減少すると推計されています。建設産業が、今のシェアをキープしたとしても2割減少し、今よりさらにシェアが低くなると、さらに減少するという危機的な状況になっていることが一番大きな背景です。こういった中、生産性を上げていく取り組みを強化し、建設現場の省人化を進めていかないといけないということが問題意識です」(森下氏)

  • 生産年齢人口の推移

また、人口が減っていく中で、激甚化、頻発化する自然災害への対応や、上下水道など、インフラの老朽化への対応も大きな課題としてあり、この課題解決のためにもi-Constructionを推進する必要があるのだ。

i-Constructionでは、2025年度までに生産性を2割向上させるという目標を立てて進めてきており、ドローンとICT建機という2つのコアテクノロジーに注力してきた。

ドローンは、現場で行う起工測量に効率的でスピード感をもって対応できるほか、3次元データが取得できる点が注目されたという。

「この3次元データをICT建機に入力することで、建設機械のオペレーターを支援でき、また、一部の操作を自動化できるようになったので、これらを組み合わせて建設現場での測量から施工、管理検査までをデータで行う『ICT施工』を本格的に導入していくこととし、これを中核としてi-Constructionの取り組みを進めてきています」(森下氏)

これらの技術を導入することで、作業スピードが3割以上上がることが確認できており、すでに国土交通省が発注する土木工事の87%がICT施工に置き換わっている。一方、ICT施工は比較的大きな企業を中心に普及しており、今後は小さな現場でのICT施工の普及促進を図ることが、今残されている課題だと森下氏は述べた。

  • 従来施工とICT施工の違い

国土交通省では、これまで推進してきた、i-Constructionの取り組みをさらに進めるため、今年の4月にi-Construction 2.0を新たに発表した。その特長はオートメーション化だ。オートメーション化では、現場に人がいなくても建設工事が進んでいく。具体的には、遠方から機械をコントロールしたり、機械が自動で動いたりする、製造業のファクトリーオートメーションをイメージしているそうだ。

i-Construction 2.0では、2040年までに建設現場から少なくとも3割を省人化することを新しい目標として設定している。この目標値は、現在の約3分の2の人で今の仕事ができる、すなわち生産性を1.5倍に上げることに相当する。

「i-Construction 2.0」で目指す3つのオートメーション化

i-Construction 2.0では、施工のオートメーション化、データ連携のオートメーション化、施工管理のオートメーション化という3つのオートメーション化を柱に推進していく。

  • 3つのオートメーション化施策

施工のオートメーション化は、建設現場、建設機械施工のオートメーション化だ。

建設機械自体の作業を効率化することはICT施工でこれまでも進めてきたが、i-Construction 2.0では、複数の機械を組み合わせて行う建設作業の無理や無駄を省いて効率を上げる取り組みを進めていく。そのために、今までは機械にデータを入力する取り組みだったが、これからは、機械からデータを吸い上げて施工計画を立てていくことを考えていくフェーズとなる。

例えば、トラックとバックホーの組み合わせで土の掘削運搬を行う際に、トラックの位置を把握して建設機械の作業状況を見える化することで、どういうふうにすれば、トラックの運行を効率的にでき、待ち時間を減らせるのか、どの組み合わせでやっていけば効率が上がるのかという取り組みを進めているそうだ。

また、現場の機械から出てくるデータに関しても、ある程度統一化しておくことが必要なため、こういったプラットフォームもあわせて整備していくという。

このほか、これまでは災害現場に限って導入してきた遠隔施工を一般の建設現場にも導入していくことで省人化や働き方改革につなげたい考えだ。

「建設機械の遠隔操作によって、例えば午前中は九州、午後から北海道などといったオペレーションもできるようになり、省人化や働き方改革に効果が出ると思っています。建設機械メーカーによる商品化も進んできているので、こういったものをどんどん一般の建設現場に取り入れていきたいのです」(森下氏)

さらに、これまでの建設現場とは異なり、建設機械が自動で動く建設現場における安全性確保のために新たな安全ルールの策定が必要と考え、今年の3月には、自動施工の安全ルールのバージョン1.0を作成した。

データ連携のオートメーション化は、BIM/CIMを使ってデジタルデータをプロセスの上流から下流まで連携共有しながら効率化していこうという取り組みだ。

「まずは3次元モデルに慣れていただくためのBIM/CIMの原則化を昨年度からスタートしました。BIM/CIMを使っていく、使いこなしていくというフェーズにしていきたいと思っています。また、公共工事の発注側もしっかりBIM/CIMを使って業務を効率化していくという取り組みをしないといけません。デジタルツインを建設現場で容易につくっていけるようにする取り組みも必要です」(森下氏)

施工管理のオートメーション化は、施工管理のような施工まわりのさまざまな仕事をできるだけリモート・オフサイトで行うようにする取り組みや、工場の中でコンクリート構造物を製作し、それを現場に持ってきて組み立てる「プレキャスト」という取り組みである。

また、この施工管理のオートメーション化においては、通信環境が大きな問題になっているため、これに向けた大容量の基盤整備を国土交通省も進めており、各地方の地方整備局や北海道開発局といったところを100GbpsSでつなげる作業を進めているそうだ。

最後に森下氏は、「施工会社でも建設現場に積極的に新しい技術を取り入れて、省人化に向けた取り組みを国と一緒になって進めていただければありがたいと思っています」と述べ、講演を結んだ。

※ BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)は、計画、調査、設計段階から3次元モデルを導入することにより、その後の施工、維持管理の各段階においても3次元モデルを連携・発展させて事業全体にわたる関係者間の情報共有を容易にし、一連の建設生産・管理システムの効率化・高度化を図ることを目的としている。