日立製作所(以下、日立)とNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)は12月5日、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の主要技術であるAPN(All-Photonics Network)を用いた分散型データセンターの実現に向けた技術検証の一つとして、日立ヴァンタラのHitachi Virtual Storage Platform One Block(以下、VSP One Block)とIOWN APNを用いた共同実証を実施したことを発表した。

日立が提供するVSP One Blockは、ストレージ仮想化技術によって遠隔地に設置した複数のストレージをあたかも1つのストレージのように管理し運用可能。災害発生時の事業継続などを支援する。

IOWNはNTTグループが研究してきた光技術をベースとする低消費電力と高速大容量を特徴とするネットワーク。今回はこの2つの強みを組み合わせ、長距離間のデータ同期における往復応答時間を、日立が推奨するネットワークの応答時間(20ミリ秒)以内に収めることに成功し、また災害発生時にもシームレスにシステム復旧が可能であることを確認したという。

  • IOWN APNを用いた仮想ストレージのイメージ

    IOWN APNを用いた仮想ストレージのイメージ

実証の背景

近年の災害激甚化によるレジリエンス強化のニーズが高まり、金融やインフラ事業者などミッションクリティカルな事業を支える企業を中心に、ディザスタリカバリ(DR)構成のシステム導入が進められている。しかし、システム構築や維持にかかるコストの増加や、災害時における業務継続のためのオペレーション、復旧までの作業時間などさまざまな課題があり、企業の負担も増加している。

また、生成AIの普及によってデータ処理量が増加しており、データセンターの需要が拡大する一方で、電力使用量の増大は地球環境に対し負荷となっている。そこで、全国各地のグリーンエネルギーを有効活用できる分散型データセンターの実現が待たれる。今回はその技術検証の一環として、離れたデータセンター間をリアルタイムに連携できるのかを確認した。

長距離間データ同期の往復応答時間を検証

実証ではまず、VSP One BlockをIOWN APNで接続して仮想的に600キロメートル(東京・大阪間を想定)離れた環境を作り、日立のストレージ仮想化技術GAD(global-active device)でデータ同期に要する時間を測定した。

回線の応答遅延を改善した結果、日立が推奨するネットワークの往復応答時間(20ミリ秒以内)を下回り、書込み時7.5ミリ秒、読込み時0.1ミリ秒を達成。600キロメートルの長距離でもデータ常時同期での環境構築ができる実用性が確認された。

災害発生時のシステム復旧時間を検証

加えて、同一データセンター内で利用されるクラスタ技術を用いてデータセンター間で冗長化を行い、データセンターのメインサイトで疑似障害を発生させ、サブサイトにおいて業務継続が可能かを検証した。その結果、メインサイトがシステムダウンした後もデータ損失なく自動的にサブサイトでのシステム稼働が確認でき、災害時にもシームレスな業務の継続ができることが確認されたという。

この検証結果を適用することにより、メインサイトからサブサイトへの切り替えや災害発生時のデータ損失に対するリカバリー作業など、従来のシステム復旧作業にかかっていたSEの稼働が不要になると期待され、運用者の負担軽減が見込める。

さらに、従来のように非同期に複数のデータを保持しバックアップを取得していた場合と比較して、ストレージ容量が削減できることでITインフラの維持コストや消費電力の低減も期待できるとのことだ。

  • 検証の概要図

    検証の概要図