Amazon Web Services(AWS)は12月2日より、米ラスベガスで年次イベント「AWS re:Invent 2024」を開催している。3日の基調講演にはMatt Garman氏がCEOとして初登壇し、新しいサービスを発表した。後半には長年AWSを率いた後、2021年よりAmazonのCEOを務めるAndy Jassy氏が登場し、新たな基盤モデル「Amazon Nova」を発表した。

13回目のre:Invent、変わらないものは「コミュニティ重視」

今年も最大のクラウドイベントである「re:Invent」が幕を開けた。13回目を迎える今年は6万人近くがラスベガスの会場に集まった。日本からも2000人弱が参加しているという。オンラインでは世界で40万人が視聴している。

基調講演に登場したMatt Garman氏はインターンでAmazonに入り、CEOに就任する前はコンピューティング事業を率いていた。Jassy氏のお気に入りと言われてきた人物だ。「CEOとしては初だが、2012年から全てのre:Inventに参加してきた」満場の基調講演のステージで、Garman氏はこう述べた。

  • Amazon Web Servicesの新CEO Matt Garman氏

クラウドコンピューティングというコンセプトを世に広めたのはAWSだ。現在、クラウドは一般的になった。しかし、AWSが大切にしているものは変わらないという。それコミュニティだ。

「(re:Inventの)中核は開発者が学習するためのカンファレンス。これは変わらない」とGarman氏。CEO就任後に行ったことの一つが、“AWS Heroes”と呼ばれる専門家との対談だという。現在、世界120カ国で600のユーザーグループがあり、AWSコミュニティは数百万人にも及ぶ規模だと同氏は胸を張った。

「コミュニティを通じて得たフィードバックは直接製品に反映される。このイベントで発表する製品にも大きな影響を与えている」とGarman氏は述べ、感謝を伝えた。

もう一つ、変わらないものがスタートアップ重視の姿勢だ。スタートアップはクラウドがまだ珍しい当時、最初にAWSを積極的に使ってくれた、いわば伝道師たちだ。Garman氏は「スタートアップの成功への投資を継続する」として、2025年に10億ドルのクレジットをスタートアップに提供することを発表、会場からは拍手が湧いた。

Garman氏はスタートアップから軸足を拡大し、大企業にアプローチした思い出も振り返った。ある金融機関を訪問した際、「興味はあるが、本番稼働のワークロードが全てクラウドで稼働することはないだろう」と言われたという。その理由は、コンプライアンス、監査、セキュリティなどだ。

「課題を伝えてくれたことに感謝している。われわれは規制のある企業をサポートするための課題を一つ一つ解決し、現在では多くの大手金融機関が当社の顧客だ」とGarman氏。基調講演では、JPMorgan ChaseのCEO Lori Beer氏がAmazon SageMaker」など、同社におけるAWSのAI技術の活用について語った。

AWSのイノベーションは顧客起点

そして、「AWSのイノベーションは顧客起点」とGarman氏はいう。「単に顧客が求めるものを提供するだけでなく、われわれは顧客に変わって革新(invent)を起こしている」とGarman氏はイベントの名称にかけて説明した。顧客の言葉に耳を傾け、何を望んでいるのかを理解して製品に反映させることを“顧客起点での逆算”と称し、「この姿勢はAWSのDNAに入っている」と述べた。

Garman氏はまた、創業時に目指した最高のコンポーネントを目指すアプローチにも触れた。当時、バンドルソリューションが席巻していたが、AWSは最高のコンポーネントを組み合わせることを標榜する。細分化したものを「ビルディングブロック」とし、それは当時のロゴにも表現した。そのビルディングブロック構想の下、AWSのサービスの数は現在、数百にも及んでいる。

最後にGarman氏はセキュリティにも触れた。クラウドの懸念の1つがセキュリティだったこともあり、セキュリティが組み込まれていなければクラウドの受け入れはないという信念の下、データセンターの設計、シリコンの設計、仮想化スタックの設計、サービスアーキテクチャ、ソフトウェア開発プラクティスにおいてセキュリティが組み込まれているという。

現在では、「セキュリティのメリットを感じて、自社のワークロードをAWSに預けてもらっている」とGarman氏は述べた。

「Amazon Nova」は6つのモデルから構成

Garman氏は、コンピュート、ストレージ、データベースとビルディングブロック別に新しいサービスを発表した(後述)。

ただし、この日の基調講演の目玉はおそらく、基盤モデル「Amazon Nova」の発表だろう。発表したのは、元CEO(現、Amazon CEO)のJassy氏だ。

  • 長年AWSを率いた後、2021年よりAmazonのCEOを務めるAndy Jassy氏が基盤モデル「Amazon Nova」を発表

Jassy氏は「Amazon Rufus」など、Amazonでの生成AIの活用を紹介した後、AIモデルについて「何らかのモデルのみが圧倒的に使われることはない」として、Amazon Novaを発表した。

Amazon Novaはテキストのみに対応した「Micro」、マルチモーダル対応で高速な処理を特徴とする「Lite」、マルチモーダル対応で高い能力とコストのバランスをとった「Pro」、マルチモーダル対応で最上位の「Premier」、そして画像生成の「Canvas」、動画生成の「Reel」と6つのラインアップをそろえ、同社の生成AIサービス「Amazon Bedrock」で利用できる。米国東部リージョンなど一部で利用開始となっている。

  • AWSの新たな基盤モデル「Amazon Nova」の概要

Jassy氏はすべてのモデルについてベンチマークも披露した。例えばMicroでは、Llama、Google Geminiと比較、Llamaについては全ての変数で上回り、Geminiは12~13の変数で上回ったと報告した。Liteは、GPT-4o miniに対し19の項目のうち17で同等か上回っているという。

  • 「Amazon Nova」のベンチマークの結果

Novaの特徴は、コスト効率、高速さ、Bedrockとの統合だ。コスト効率ではBedrockで利用できる他の主要なモデルと比較して75%低コストで、遅延も低いとのこと。

2025年には音声to音声、マルチモーダルtoマルチモーダルも実現するという。

インファレンス(推論)のビルディングブロック登場

このほか、基調講演では発表された主なサービスや機能は以下の通りとなる。今回、コンピュート、ストレージ、データベースに加え、インファレンス(推論)のビルディングブロックが加わった。

コンピュート

  • Amazon EC2でAWS Trainium 2を搭載したインスタンス「Amazon EC2 Trn2」がGAに
  • 64基のTrainium 2をNeuronLinkで接続した「Amazon EC 2 UltraServers」(プレビュー)発表
  • さらに大規模なTrainium2クラスタ構成にむけた「Project Rainier」をAnthropicと共同展開

ストレージ

  • Apache Icebergをサポートする「Amazon S3 Tables」を発表
  • オブジェクトがアップロードされるとメタデータを自動取得し、Amazon D3 Tablesに格納する「Amazon S3 Metadata」を発表

データベース

  • サーバレスな分散SQLデータベース「Amazon Aurora SDQL」発表
  • Amazon DynamoDB global tablesでマルチリージョンの整合性モデルをサポート

インファレンス

  • Amazon Bedrockでモデル蒸留(model distillation)をサポート
  • Amazon Bedrockでポリシー準拠を検証するGuardrails Automated Reasoning check
  • Amazon Bedrockで複数のAIエージェントのオーケストレーションを行うcollaboration
  • Amazon Q Developerで、AWS環境全体の運用を調査するOperational Investigation
  • Amazon SageMakerの刷新

最後にGarman氏は、「顧客が何でも構築できるように、われわれはかつてないスピードでイノベーションを進めている」と語った。そして、「今、イノベーションにはとってまたとない時代にあり、AWSは顧客が“reinvent"できるように“invent”し、充実かつ優れたツールをそろえている」と力強く述べた。