ベネッセは12月4日、「リスキリングから日本社会を再考察する勉強会~2025年と「人生100年時代」に向けて日本の「人事」「雇用」「制度」と「学び」を考える~」というテーマで、リスキリングに関する勉強会を実施した。

勉強会には、ベネッセコーポレーション 執行役員 社会人教育事業領域担当(Udemy日本事業責任者)の飯田智紀氏が登壇し、リスキリングの現在地と同社が行っているBenesse Reskilling Awardについて説明した。

リスキリングに積極的な企業は26.1%にとどまる

最初に飯田氏は、「リスキリングの現在地」として、リスキリングの認知度が向上している一方で、いまだにリスキリングのハードルが高い現状を説明した。

「全国の18~64歳の男女約4万人にリスキリングの内容を聞いた社会人の学びに関する実態調査では、2022年から2024年の2年間で大幅に認知度が高まる結果となりました」(飯田氏)

  • ベネッセコーポレーション 執行役員 社会人教育事業領域担当(Udemy日本事業責任者)の飯田智紀氏

    ベネッセコーポレーション 執行役員 社会人教育事業領域担当(Udemy日本事業責任者)の飯田智紀氏

具体的には、2022年の時点では23%しかなかったリスキリングの認知度が、2年間で56%まで上昇しており、過半数の社会人が「リスキリングという言葉を知っている」という結果になった。

  • 「社会人の学びに関する実態調査2022,2024」(ベネッセコーポレーション)

    「社会人の学びに関する実態調査2022,2024」(ベネッセコーポレーション)

一方で、社会人の学びに関する意識調査の結果からは、「社会人の65%が直近1年間で学んでいない」ということが分かったという。

「学んでいる」と回答した人が33.8%だったのに対し、「学ぶつもり」と回答した人が13.3%、「学ぶのに疲れた」と回答した人が11.4%となった。また最も割合が多かったのは「なぜ学ぶのか分からない」という回答で、41.5%もの人がリスキリングに懐疑的であることが分かる結果となっている。

  • 「社会人の学びに関する意識調査2024」(ベネッセコーポレーション)

    「社会人の学びに関する意識調査2024」(ベネッセコーポレーション)

企業のリスキリングの取り組みも限定的で、リスキリングに積極的な企業は26.1%にとどまる結果となった(「取り組んでいる」8.9%、「取り組みたいと思う」17.2%)。

ボリュームゾーンは「取り組んでいない」という回答で、約半数を占める46.1%が取り組んでいない結果となっている。

業種で見てみると、最もリスキリングに取り組んでいる業種は「情報サービス」(20.5%)で、これに「金融」(19.5%)、「医療・福祉・保健衛生」(15.3%)と続く。

反対に取り組みが進んでいない業種を見てみると、最も取り組む企業が少ない業種は「建設」(10.7%)で、以下「旅館・ホテル」(10.9%)、「広告関連」(11.3%)が続いている。

Benesse Reskilling Awardの概要

ベネッセでは、組織的な取り組みとしてリスキリングを捉え、挑戦する企業を表彰し社会に発信することで、リスキリングの施策や学びを促進することを目的として「Benesse Reskilling Award」というイベントを開催している。

Benesse Reskilling Awardの審査基準である「リスキリングの成果」としては、「社会の変化に伴い事業の変革を行う企業が従業員の心に火を灯し、学びを通じたビジネスインパクトを出しているか」という内容が定義されている。

特にここで使われる「ビジネスインパクト」とは、サービス/顧客接点の進化、業務効率化/生産性向上、アウトソース費用の削減、特定分野の有識者増加(キャリア開発)など、「学びによる個人または組織単位での行動の変化が生じ、何かしらの変化・良い影響が組織的成果として出ている状態」が想定されている。

  • Benesse Reskilling Award

    Benesse Reskilling Award

そして「リスキリングストラテジーが施策として企画推進されている」「事業や業務への課題・目的意識をもったラーニングヒーローが生まれ、個の学びが組織に生かされる場がある」「リスキリングカルチャーが施策として企画推進され、学びたくなる場づくりがなされている」という3点から審査される。

飯田氏は、「持続的な組織成長につながる要素」として「戦略」「文化」「ラーニングヒーロー」という3つを挙げた。

持続的な「組織成長」につながる要素(1)「戦略」

  • 目的や方針が中期経営計画やトップメッセージとして重要な位置づけにある
  • 従業員の学びを促進する仕組み化がされ、戦略的に施策が実施されている
  • リスキリングの成果に対する報酬が人事制度や育成方針などに組み込まれている(ただし金銭に限らない)

持続的な「組織成長」につながる要素(2)「文化」

  • 推進部門が従業員の施策や成果を可視化し変化の推移や成果を観測できている
  • 従業員が学んだ結果のアウトプットが組織内で生かされている
  • 学んだ従業員が自律的にキャリア開発したりオープンポジションに挑戦するなど異動や配置に生かされた経験ある

持続的な「組織成長」につながる要素(3)「ラーニングヒーロー」

  • 学びを推進するラーニングヒーローがいる
  • ラーニングヒーローを中心にコミュニティやイベントが発生し組織が支援している
  • 学んだ人や成果にスポットライトが当たる仕組みがある

「ラーニングヒーロー」とは
学びの達人として学びを推進する人材のこと

求められているのは「自分の可能性」を見付けられるリスキリング

最後に、飯田氏は「2025年のリスキリングトレンド予測」として、ミドルシニア層のリスキリングの現状を語った。

飯田氏はリスキリングへの本音として「学びに対する2つのハードル」を説明した。飯田氏曰く、学びに対するハードルとしては「自己肯定感が低く、自分の人生の主体性がない」「リスキリング=押し付けられる、終わらないタスクというイメージがある」という2点が挙げられるという。

  • 学びに対する2つのハードル 引用:リスキリングに関する生活者理解のためのインサイト調査

    学びに対する2つのハードル 引用:リスキリングに関する生活者理解のためのインサイト調査

「いま本当に求められるリスキリングとは、社会から肯定され『自分の可能性』を見付けられるものです。そのためには、自分を知り、自分を生かすことが大切です」(飯田氏)

「人生100年時代」とも言われる現代において、いまのミドル・シニア層は「生涯社会的現役」を当たり前として迎える最初の世代となっている。それに伴いミドル・シニア層の「人生の節目」が多様化しているという。

「2025年、高齢者雇用制度が延長されました。今後も、定年年齢は60歳、65歳、70歳と引き上げられることが予想される中、社会人人生を『よく生きる』ために『学び』は何ができるか?そしてそれを組織がどう生かすか?を模索することが大切です」(飯田氏)