【データに見る「ECの地殻変動」】<第33回>サービス系ECのポテンシャルに気付いているか?

本コラムでは基本的にネット通販、すなわち物販系ECを主テーマとしているが、今回はサービス系ECを取り上げたい。

経済産業省の電子商取引市場調査では、サービス系ECを旅行(交通機関含む)、外食、チケット、理美容、フードデリバリー、金融、その他に分類している。サービス系ECとは、それらの利用申し込みがネットで行われることを指す。実際のサービス利用金額(但し金融の場合は手数料)の総額がEC市場規模という計算だ。

では、その市場規模を物販系ECとの対比で見てみよう。2023年のサービス系ECは7.5兆円で、一方、物販系はECは14.7兆円である。サービス系ECは順調に拡大していたがコロナによって2020年に大打撃を受け、現在は回復中といったところだ。

カテゴリー別に見てみると旅行がまだ2019年のレベルに戻り切っていないが、飲食、チケットはコロナ前の水準を既に超えている。面白いのは理美容で、コロナ禍でも変化がない点が興味深い。

<まだある未開拓分野>

そもそもサービス系ECとは利用の事前申し込みだが、細かく言えば飛行機や新幹線の座席予約、あるいはコンサートやスポーツ観戦のチケット予約といったように、決まった利用枠を買う行為であるケースが多い。利用枠を「在庫」と捉えれば、実は物販系とコンセプトは変わらないのだ。

またフードデリバリーのように利用枠とは無関係のものもある。そう考えるとサービス系ECの適用範囲は幅広く未開拓分野が残っているのではと思う。

総務省家計調査によると、物販系とサービス系の消費支出の比率は約10:7で長年推移している。コロナ前の2018年、2019年のEC市場規模を見てみると、グラフの通り物販系ECとサービス系ECの比率は確かにその比率となっている。これを2023年にあてはめて計算してみると、本来であればサービス系ECの市場規模は10.3兆円程度あっても不思議ではない。理論上7.5兆円との差額2.8兆円分が未だ回復していないということだ。

<物販連携にも可能性>

パンデミックが再発しない限り、時間の経過とともに恐らくこの差分は埋まるものと予想してよいだろう。加えて上述の通りサービス系ECの適用範囲は広いと筆者は考えており、10:7の比率で計算される数値よりもポテンシャルは大きいと見ている。仮に10:8の比率までサービス系ECの市場規模が伸びるとすれば2023年の理論値は11.8兆円という計算になる。つまり7.5兆円との差分4.3兆円が2023年時点での伸び代だ。

一般的には物販系ECとサービス系ECは別物として捉えられているが、筆者はその点について”もどかしさ”を以前から感じている。

例えば購入した商品に関連するサービスをEC化してみるといったように、物販系ECとサービス系ECを上手く組み合わせるなどしてニーズを開拓してみてはと思う。

既知の通り物販系ECが今、伸び悩んでいる。物販系EC事業者はサービス系ECを別扱いせずに、いろいろと工夫してみてはどうだろうか。