深刻な人手不足に加えてネット通販の拡大などにより物流需要が増加している中、あらゆる産業において人手に頼らない自動化・省力化のニーズが高まっている。配送センター、自動車工場や最先端の半導体工場、空港などで、物流業務を合理化するためのマテハンシステムを手掛けるダイフク。社長の下代氏は「製品を作ってお納めするだけでなく、その後のメンテナンスサービスにも力を入れてきた」と同社の強みを語る。海外売上高比率が67%を占めるグローバル企業となるまでには、どのようなものづくりの思想で顧客のニーズに応えてきたのか。
海外に合わせた決算期の変更
─ 今期から決算期(事業年度の期末)を3月期から12月期に変えましたね。まずは決算期を変更した理由から聞かせてください。
下代 当社においては、もともと日本国内では4月から翌年3月までを事業年度としていましたが、海外現地法人においては、インドを除くすべてが1月から12月を事業年度としています。
このように海外と日本国内とでは決算期に四半期分のずれがあり、連結決算に現地法人の業績がタイムリーに反映されていませんでした。
当社グループの売上高の67%は海外での事業によるものです。また、グローバルでみても、圧倒的に12月決算の企業が多く、決算月を海外に合わせた方が、グローバルな事業運営の効率化や経営情報の適時・適格な開示が可能となり、経営の透明性を高められるのではないかと考えました。
決算期の変更に伴い、今期に限り日本国内については、4月から12月までの9カ月間の変則決算になります。日本国内の1月から3月までの3カ月分が含まれませんので、今期の業績予想は減収減益に見えてしまいますが、国内をこれまで通り12カ月間と仮定した場合は、前期を上回る業績を見込んでいます。
─ それだけダイフクブランドがグローバルになってきたということですね。
下代 そうですね。当社グループは、世界24の国と地域に生産・販売拠点を設けており、コンサルティングから企画・エンジニアリング、設計、製作、施工・メンテナンスサービスまでのトータルソリューションを提供しています。
こうした強みを持ち、多様なニーズに対応できる企業として、海外の多くのお客さまにも認識いただき、良い関係を構築・継続することができているのではないかと感じています。
顧客から信頼を得ている理由
─ 海外でも顧客と良い関係を築けたのは、トータルソリューションの中で、特にどのような点が評価されたのだと思いますか。
下代 当社の売上高の30%はサービス売上高になります。これは、お客さまに納入したマテハンシステムや製品を対象にした保守・メンテナンスなどによる売上高で、様々なご要望に対応できるように体制を整えています。
なぜなら、当社においては、お客さまが求めるマテハンシステムを設計、生産、納入するだけではなく、「その稼働も守っていく」必要があるからです。お客さまからすれば、当社システムを使い始めてからトラブルなく順調に生産や配送に役立つことを期待されており、さらにその効果を維持していくのが重要なのです。
当社はそのようなお客さまからの期待に応え続けていくためにも、システムの品質を保証しながら維持していく必要があります。そのためのメンテナンスサービスを継続して行っていくことによって、日本国内だけでなく、海外でもお客さまの信頼を得てきていると自負しています。
─ ダイフクの場合は、製品を作って売った後のメンテナンスサービスに力を入れてきたのですね。
下代 はい。マテハンの世界においては、海外ではメンテナンスは別の会社が手掛けるケースが多いのですが、我々はこれらを一気通貫で対応することができる体制になっています。
─ これは、ダイフクがこれまでの歴史の中で培ってきたものだということですね。
下代 そうです。メンテナンスサービスがしっかりしていれば、お客さまにとっては新しくシステムを導入しようと考えたときでも、ダイフクにお願いしようとなりますからね。
海外では、お客さまが他のメーカーからシステムを導入された後、メンテナンスは別の会社にお願いしなければならないことがある。しかし、ダイフクならば、導入後のメンテナンスも信頼をもって任せることができるわけです。
─ そういった強みを磨いてきたダイフクの現在までの成長につながる転換点を聞かせてください。
下代 1959年に、トヨタ自動車工業(当時)さんの元町工場(愛知県)の中で当社が日本初の乗用車専門工場の組み立てラインに「チエンコンベヤシステム」を納入しました。
様々な要求に対応し、信用を一気に高めることになりました。これを機に、日本におけるモータリゼーションに社運をかけ、飛躍的な成長を遂げました。当時、このシステムをどこから入手したかというと、米国から導入しました。
─ もともとは米国の企業が持っていた技術だったのですね。
下代 ええ。米フォード・モーター・カンパニーが1900年代初頭に「T型フォード」の生産ラインの自動化を行って大量生産を実現していました。このときのチエンコンベヤを作ったのが米国のジャービス・ビー・ウェブ社でした。同社と技術提携し、チエンコンベヤを日本に導入しました。
ウェブ社はその後、米GMなどの様々な自動車メーカーの工場にチエンコンベヤを納入していました。ですから、同社とは60年以上の付き合いになります。
その後、両社の経営資源の相互有効活用を図り、より一層の事業・業績の拡大を図っていくという合意の下、縁あって当社の完全子会社になったのが2007年のことです。
工場と一緒にサービス拠点も展開
─ マテハン業界の発展は自動車産業とのかかわりが、その発展の基礎になったということになりますね。
下代 そうですね。トヨタさんを皮切りに、国内の自動車メーカーさんはもちろん、海外の自動車メーカーさんの工場にも当社のシステムを納入させていただきました。そのときに自動車メーカーさんから言われていたのが、「生産ラインを止めることはできない」ということでした。
日本は高度成長期を迎え、自動車を購入する人が急増しました。それに伴って、1分間に1台のペースで自動車を作るような工程になっていきました。もはや生産ラインを止めることはできない状況になっていたのです。
マテハンが故障してストップしたら、お客さまやその先の消費者、社会に大きな迷惑をかけてしまいます。ですから、我々は生産ラインを止めてはならないという意識を強く持っています。
だからこそ、メンテナンスも日頃からしっかり実施していかなければなりません。当社がシステムをお納めした自動車工場が完成したら、その近くにサービス拠点を作るということをしてきました。
─ 生産・販売拠点だけではなく、サービス拠点も同時に顧客の傍で広げていったということですね。
下代 はい。そういった取り組みを日本で継続していき、日本の自動車メーカーさんが海外に進出すれば、当社も付いて行きました。
そして、現地での工場建設に伴って、我々が生産ラインを担当させていただき、当社もそこで現地法人を設立して、生産設備のメンテナンスや改修工事などをしっかりやっていきました。ですから、当社には現地法人が海外にたくさんあるのです。
今ある当社の現地法人も、多くが自動車メーカーさんの進出先になります。現地法人の近くに部品などのサプライヤー企業、一般の物流システムの引き合いが出てくれば、現地法人から対応していきます。そういった積み重ねを続けてきたことが当社の海外展開の中で大きかったことだと思います。
また、広大な国であれば、企業は分散して拠点を作っていきます。当社もその流れに沿って同じ国の中でも複数の拠点を広げていきました。例えば、米国では、一般の物流システムの工場や拠点もありますし、自動車向けや空港向けの工場もありますからね。
空港向けシステムは米国内でトップクラスの実績
─ 一方でインバウンドが増加している空港向けのビジネスも成長しているようですね。
下代 はい。空港内の手荷物搬送・仕分けシステムをはじめ、セルフ手荷物チェックインシステムやセキュリティシステム、空港内設備の監視システムなど幅広いソリューションを世界の空港に提供しています。この空港向けのシステムも先ほどのウェブ社が手掛けていた事業です。
同社は米国内で多くの空港向けシステムを提供していたのですが、ダイフクグループの一員になったことで実績も増え、現在、米国では納入実績でトップクラスになっています。
─ 日本国内であれば、どのような会社に製品を納入するのですか。
下代 納入先は空港の運営会社であったり、航空会社であったり、地域によって違いはあります。例えば、羽田空港であれば日本航空さんや全日空さんですね。一方で関西国際空港の場合は、関西エアポートさんが空港を運営していますので、同社に納入する形になります。
他には北海道の新千歳空港さんなどがそうです。国内外の様々なエアラインが就航する関西空港では、当社の手荷物の搬送システムが全面的に導入されている形になります。
─ 産業界にとって必要不可欠なもの、引いては我々の生活に欠かせないものを作っていると言えますね。
下代 そうですね。マテハンシステムを提供している会社は他にもありますが、その中でも当社には、それなりに信頼を置いていただけていると感じています。
一度お付き合いさせていただくと、「また次もダイフクに任せよう」とおっしゃっていただけるお客さまは多いと感じています。納期通りに、お客さまの求めているものをしっかりと納入していく。これは日本の文化かもしれません。
そして、我々の提供するシステムは、きちんと動いて当たり前です。そのための体制づくりをこれまでも注力してきましたし、それはこれからも変わりません。約束したものはしっかり動かすということが我々の思想でもあります。(次回に続く)