リコージャパンは11月20日、2024年度におけるデジタルサービスの進捗と今後の注力領域について、記者向けの説明会を開き紹介した。同日に300人の「AIエバンジェリスト」育成開始を発表するなど、グループ全体で人材育成によるさらなる価値提供を推進するとのことだ。

ITサービス分野が好調だった24年度上期(4~9月)

今般リコーが発表した上期決算によると、デジタルサービスのうち国内のオフィスサービスは売上高が前年比200憶円増となる2046憶円であり、前年同期比で成長率は10.9%となった。特にITサービス分野が好調で、16%の成長。Windows11のマイグレーションを中心に、PCのリプレースなどが成長をけん引したという。

アプリケーションサービス(AS)分野においては、建設や介護福祉士業の法改正残業時間規制など、俗に言う「2024年問題」の解消ニーズが高まったとのことだ。勤怠管理やテレワークを支援する働き方改革のスクラムパッケージが好調だった。

  • 24年度上期決算より振り返り

    24年度上期決算より振り返り

同社が展開するスクラムパッケージおよびスクラムアセットでは、特に2024年問題やサイバー攻撃の増加といった課題を解消するためのソリューションが好評とのことだ。これらのソリューションを導入したユーザーの声は、「中小企業応援サイト」に掲載されている。累計で627事例(11月15日時点)が紹介されているとのことだ。

  • 売れているスクラムシリーズ

    売れているスクラムシリーズ

8月に笠井社長が語った注力領域の進捗は?

8月21日に開催された説明会では、リコージャパン社長の笠井徹氏が2024年度の事業戦略について記者向けに語った。同氏はその際に3つの注力領域として、「AI」「セキュリティ」「脱炭素」を挙げた。

このうちセキュリティ領域では、DDS社との提携によって創出された「リコー サイバーセキュリティパック」の売上が好調だ。建設業、製造業、流通業など、各業界に固有の課題解消に貢献しているという。

セキュリティ対策のソリューションを展開する際には、リコージャパン独自の提案がカギとなっている。それは、顧客のセキュリティレベルを1~10に分け、各社の対策状況をヒアリングしながら伴走型で多層防御を支援するという手法だ。単にソリューションを導入するだけでなく、リコージャパンのスタッフが中長期的に支援することで顧客のセキュリティリスクの最小化に貢献する。

  • リコージャパンならではのセキュリティ支援

    リコージャパンならではのセキュリティ支援

AI領域では特にLLM(Large Language Models:大規模言語モデル)の進捗が著しい。同社は顧客独自のプライベートLLMや、さらにはオンプレミス環境でも稼働可能なプライベートLLMを手掛けているため、セキュリティの観点から引き合いが増加している。

製造業では開発段階のデータや設計書、ヘルスケアでは診療情報や院内規定、自治体では住民データや学校の教員規定、指導要綱など、機微なデータにもLLMを適用したいというニーズがあるとのことだ。

  • リコージャパンのLLMの展開

    リコージャパンのLLMの展開

アプリケーション領域でDXエコシステム立ち上げを発表

リコージャパンでデジタルサービス企画本部の本部長を務める宮本裕嗣氏は説明会の中で、アプリケーション領域を強化するとして、DXエコシステムの立ち上げについて発表した。リコー製のアプリケーションとパートナー企業のアプリケーションの連携強化を図るという。

  • リコージャパン デジタルサービス企画本部 本部長 宮本裕嗣氏

    リコージャパン デジタルサービス企画本部 本部長 宮本裕嗣氏

  • DXエコシステムの概要

    DXエコシステムの概要

中堅・中小企業においては、「人手不足への対応」「DX(デジタルトランスフォーメーション)による生産性の向上」「セキュリティの確保」などが喫緊の課題とされる。これに対し同社は、MFP(Multifunction Peripheral:複合機)をはじめとするエッジデバイスやアプリケーション、サポートを一気通貫で提供することで、中堅・中小企業のDXを支援する。

その中核となるアプリケーション領域においては、リコー製のアプリケーションだけでなく、パートナー企業が手掛けるアプリケーションともリコーグループの基盤の上でデータ連携を強化。これにより業務を自動化する。リコージャパンはこれまでも「トレードエコシステム」として同様の仕組み作りに着手してきたが、今回これを拡充する。

  • 中堅・中小企業の経営課題解決を支援する

    中堅・中小企業の経営課題解決を支援する

オフィスソリューションズ北九州の事例によると、請求管理システム「MakeLeaps」を販売管理システムと連携することで、手作業による請求書発送を削減できたという。発送の電子化が可能になったことで、業務時間を約70%削減したほか、リモートワークでも業務が可能に。さらには書類が到着するまでのタイムラグがなくなり、顧客満足度の向上にもつながったとのことだ。

  • オフィスソリューションズ北九州の事例

    オフィスソリューションズ北九州の事例

AIを用いた業務改善を提案できる専門人材を300人育成

リコージャパンは「スペシャリスト認定制度」を2024年度中に新設し、重点事業の成長をけん引する人材の育成を図る。これまで同社はプロフェッショナル認定制度として、全社員を対象に個々のスキルアップを支援する教育を提供してきた。今回はさらに取り組みを強化し、選抜または立候補者を対象に重要事業やソリューション分野を率いる人材育成を開始するとのことだ。

スペシャリスト人材の育成に向けて、これまでに「Microsoftエバンジェリスト」「kintoneマスター」「バックオフィススペシャリスト」「AIエバンジェリスト」「セキュリティスペシャリスト」の5制度を立ち上げた。

特に、AIに関する知識や技能を持つAIエバンジェリストは、従業員総数の約8%に相当する1387人(10月末時点)が立候補するなど、社内での人気も高い。従来の営業担当以外のスタッフ部門からも立候補があったという。

  • 専門人材育成の状況

    専門人材育成の状況

AIエバンジェリストは、日本ディープラーニング協会(JDLA)が実施するG検定などの外部資格取得や、社内の独自eラーニングコンテンツによる学習、AIセミナーの講師経験、AIソリューションの販売、社内での業務改善実績といった要件を満たした社員が認定される。

同社は2025年度に300人のAIエバンジェリスト認定を目指す。RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)を活用した「RICOH Chatbot Service デジタルバディ」や「RICOH デジタルバディ」を活用したAI開発の経験を積み、顧客企業への高度なAI提案やユースケースの創出を進める。なお、2026年度にはより高度な知識を持つ「高度AIエバンジェリスト」認定制度の開始も予定しているとのことだ。