AIハイプが早くも落ち着きを見せ始めているようだ。Slackは11月、2022年末の「ChatGPT」のリリース以来初めて、AIの受け入れ比率の伸びが鈍化したというグローバル調査結果を発表した。

AIに対する熱が冷めている

この調査はSlackのシンクタンク部門が定期的に公開する「Workforce Index」の2024年秋版。Slackの委託を受けてQualtricsが行ったもので、日本を含む15カ国で1万7372人のデスクワーカーを対象に、2024年8月に調査した。

AIの利用について尋ねたところ、2024年3月には32%だった米国は同8月は33%と僅か1ポイントの伸びとなった。フランスでも31%から33%と、伸びは2ポイントにとどまった。世界平均は32%から36%と4ポイントだ。

ちなみに、2024年1月から3月の期間で米国は26%から32%、フランスは22%から31%とそれぞれ6ポイント、9ポイント増加した。世界平均も米国と同じ26%から32%と急カーブを描いていた。

  • 米国、フランス、グローバルの2023年1月~2024年8月におけるAI利用率の変化を表したグラフ

    米国、フランス、グローバルの2023年1月~2024年8月におけるAI利用率の変化を表したグラフ

こうした結果からもAIへの期待について陰りが見られる。AIへの興奮や期待感は前回の47%から今回は41%と、6ポイント減っている。このトレンドが顕著になっているのは米国で、AIに期待しているというデスクワーカーは45%から36%と大きく減少した。日本でも期待は減っているという。

SlackのWorkforce Labのヘッドを務めるChristina Janzer氏は「企業はどこもAIへの投資を行っているところだが、この調査結果は企業の幹部にとって重要な警告と言える。AIに対する感情が下がる中で、企業は従業員にAI活用の取り組みを加速することを支援しなければならない。文化や組織面で障害となるものに対応していく必要がある」とコメントしている。

AIの活用がシフトダウンする3つの理由

Slackでは、このようなAIのシフトダウンを「新しいテクノロジーが通過する典型的な成熟曲線」としながらも、その理由について「AI利用に関する規範が不明確」「AIの期待と現実にギャップがある」「AIのトレーニング不足」の3つであると分析している。

利用規範が不明確な点については、デスクワーカーの多くがAIを使っていることを報告することをためらっていることも明らかになった。

日本でも「顧客向けのメール作成」(35%)、「自分のマネージャーにメッセージを書く」(33%)、「自分の同僚にメッセージを書く」(30%)などでAIを使う際に、居心地の悪さを感じているという。

  • 日本では「顧客向けのメール作成」などでAIを使うことに居心地の悪さを感じているようだ

    日本では「顧客向けのメール作成」などでAIを使うことに居心地の悪さを感じているようだ

上位3つの理由として「AIを使っていることはずるいと感じる」(47%)、「AIを使っていると能力不足と思われることへの懸念」(46%)、「AIを使っていることは怠惰と思われるという不安」(46%)を挙げている。なお「企業ポリシーによりAIの使用が禁じられている」という回答は21%にとどまった。

AIが期待していたほどのものではなかった

期待と現実のギャップに関しては、AIが期待していたほどではないという失望感のようなものだ。

AIに対する期待の多くは、自動化、半自動化によりタスクに割く時間が軽減されるというもの。一方で、時間はお金と違って削減の効果がわかりにくい。AIを使うことで数時間節約できたところで、他の業務に時間をかけるかもしれない。

従業員の最大の望みは、AIが自分の時間を有意義な活動に専念させてくれること。仕事に関係しない活動、スキルの構築や学習、既存の中核プロジェクトにもっと取り組みたいと思っている。しかし、AIによりさらに多忙になり、1日の仕事量は増加していると感じている、と調査はまとめている。

調査によると、経営者の99%が2024年にAIへ投資することを計画しており、97%が業務へのAI導入は急務と感じていることもわかった。経営者は従業員の実態を知る必要がありそうだ。

リーダー自身のAI活用についての経験を共有すべき

AIのトレーニング不足も深刻だ。Slackによると、前回の調査でAI使用のトレーニングを受けた人は、AIにより自分の生産性が改善していると回答する比率が19倍も高いことが判明した。

それでもAI使用のトレーニングは進んでおらず、今回の調査では自分はAI使用の専門家とみなしているデスクワーカーはわずか7%にとどまった。61%がAIの使用についての学習時間が5時間未満であり、30%がAIの使用についてトレーニングをまったく受けていないと回答した。

このような結果を受け、調査では経営層に提言をしている。従業員間で意見や受容の度合いが異なることを踏まえ、チームビルディングを実践してさまざまな視点を引き出す。AIの活用を可視化する、特にリーダー自身のAI活用についての経験を共有する。

スキルアップ、生産性をどう定義するのかについても経営陣のアクションが求められる。生産性をこれまでのように業務量ではなく、創造的な仕事にフォーカスして定義することが考えられる。実際に、経営層の多くが「事務処理や管理的なタスク」の重要度を下げているという。

調査では今後の予想も紹介している。既存の従業員のAIスキルを上回るAIネイティブ世代が入社し、職場のAI使用に影響を与えること、求職者はAIで先進している企業を優先することなどが考えられるという。一方で、AIユーザーの81%が同僚と相談する代わりにAIを使っていることなどから、人間同士のつながりを再構築する必要があるとも警告している。