データ分析ツール大手の米Qlik Technologiesは11月18日、東京都内で記者説明会を開いた。同社のマイク・カポネ最高経営責任者(CEO)が来日し、企業が陥りがちなAI活用の落とし穴と、それに対する解決策を紹介した。
カポネCEO「AIの成功なくしてビジネスの成功はない」
昨今AI技術が注目されており、多くの経営者はAI導入がこれからの企業や組織の変革には必要不可欠と考えている。一方で、同社が4月に発表した調査によると、組織として正式なAI戦略を策定している企業は4社に1社ほどだった。
カポネCEOは「AI活用を始めてみたが、IT人材不足や莫大な開発コストといった壁が立ちはだかり、頓挫してしまう企業は少なくない。道筋は不透明で、危険も伴うものだ。しかし、AIの活用は必須事項で『待つ』という選択肢はないだろう。AIの成功なくしてビジネスの成功はない」と警鐘を鳴らした。
では、企業がAI活用を成功させるためにはどうすればよいのか。カポネCEOは「長期的な視点が必要で、忍耐強く取り組まなければならない」と説明。「とにかく成果を上げるために、急いでAI導入を進める企業は失敗しやすい」とのことだ。
「AI活用は長期戦」取り組むべき3つのステップ
そこでカポネCEOは、具体的な取り組みとして3つのステップが必要だと説明した。
AI活用でまず取り組むべきことは「道幅を広げること」だという。失敗のリスクを減らすためには、さまざまな要素を組み合わせることが重要だ。
「複数のユースケースとAIモデルを検討する必要があり、生成AIだけでなく予測AIも活用すべきだ。AIを複合的に使うことで失敗のリスクを軽減できる。そうすれば、成功のチャンスを最大限に生かすことができる」(カポネCEO)
2つ目は「走る前に歩いてみること」。AI活用における言葉に翻訳すると、企業が持つデータをAIに対応させることだ。いきなり走るのではなく、基盤となるデータをしっかりと固めておく必要がある。
「AIに対応させるために、データは多様なものであるべきで、すぐに利用できるものでなければならない。また、正確な情報に基づいた予測を行うために、データはリアルタイム性を持つべきで、正確かつ安全でなければいけない」と、カポネCEOはAI活用のためのデータの特徴を説明した。そのうえで、小さなモデルから始めることが失敗しないための秘訣だ。
そして、3つ目は「ステップを飛ばさないこと」だ。「なんでも簡単に早急にできると思ってはならない」(カポネCEO)ということだ。
AI活用を進める前に、組織におけるAIの倫理的な開発、導入、使用に関する原則、ガイドライン、基準を明らかにする必要がある。加えて、部門横断的なチームが、AIシステムの倫理的使用や規制遵守、リスク管理、戦略的調整を監督する体制も重要だ。
また、AIシステムで使用されるデータの品質や完全性、セキュリティを確保するためのシステムとプロセスを事前に策定しておいた方が無難だ。
「AI導入の前に、責任あるAIの枠組みを確立する必要がある。自動車でとにかく早く走りたい場合は、性能の良いブレーキが役立つのと同じだ」(カポネCEO)
生成AIサービス「Qlik Answers」が日本語に対応
Qlikはさまざまなデータを簡単にリアルタイムで分析できるソフト「Qlik Sense」などを提供する。米Paypalや中国Lenovo、韓国サムスン電子など世界100カ国以上、4万社以上の企業にサービスを提供している。同社は19日、7月に一般提供した「Qlik Answers」を日本語に対応させると発表した。
Qlik Answersは、企業が保有しているメールやPDFといったプライベートな非構造化データを学習し、それに基づいた信頼性の高い回答を導いてくれる生成AIサービス。大規模言語モデル(LLM)によるテキスト生成に、外部情報の検索を組み合わせることで、回答精度を向上させるRAG(Retrieval-augmented generation)という技術が使われている。
カポネCEOは「世界のデータの80%は非構造化データだ。これまで多くの企業が非構造化データの活用を試みては失敗してきたが、Qlik Answersを使えば、その可能性と価値を解き放つことができる」と強調した。