山梨県は11月18日、富士山の麓から五合目までをつなぐ、レール不要の新交通システム「(仮称)富士トラム」を今後導入し、富士山とリニア新駅「山梨県駅」を直結する構想を発表。これまで議論を続けてきた、次世代型路面電車(LRT)を使った「富士山登山鉄道構想」を断念したかたちだ。
「(仮称)富士トラム」は、“電車とバスの両方のメリットを備えたニューモビリティ”。山梨県では「グリーン水素」を推進しており、2024年4月から水素を活用した小型EVバスが甲府〜米倉山間で運行されている。(仮称)富士トラムもグリーン水素を動力源として採用することで、環境負荷を軽減し、持続可能な交通網の構築をめざす。
軌道としては、磁気マーカーや白線による誘導方式を導入し、軌道法を適用。富士スバルラインへの一般車両の進入を規制することで、来訪者コントロールを可能にする。道路に鉄軌道を敷設する大規模工事は不要でメンテナンスが軽微となり、大幅なコストダウンも見込めるとのこと。
「(仮称)富士トラム」を導入することで、富士山の課題とされている五合目への来訪者をコントロールするだけでなく、同県鳴沢村から山中湖村に広がる6市町村の富士北麓エリア、富士山とリニア新駅「山梨県駅」を直結し、リニアの停車本数を増加させることをめざす。
将来的には県内各地への二次交通網を構築することで、県民の生活の向上や、観光客誘致の促進、地域経済の活性化に期待。東京まで25分のリニア新駅をハブとし、企業誘致や移住定住者の流入にも寄与するとしている。
山梨県では、富士山の世界文化遺産としての価値を守り、向上させるため、富士スバルラインに鉄軌道を敷設してLRT(Light Rail Transit:軽量軌道交通)を運行させる「富士山登山鉄道構想」を2021年2月に発表。2023年度には将来の事業化に向けた調査を実施し、2024年9月に事業化検討に関する報告、10月には技術面の課題および総合的な事業化方針について調査報告を公表している。
一方、2023年11月~2024年1月にかけて、富士北麓の6市町村のすべてで長崎知事が出席する「住民説明会」を開催し、2024年6月~7月には県職員が地域住民からの意見を聞く場を14回設け、他の交通システムとの比較を行うなど、LRTに留まらないさまざまなアプローチを検討。
2024年11月13日には、構想に反対する団体関係者から知事が直接意見を伺う会を開催した。構想への反対意見として、「鉄軌道の敷設など富士スバルラインの大規模工事が必要」、「環境破壊が避けられない」、「建設費や災害復旧費のコスト面が過大」などの指摘を受け、県ではLRTやその他の選択肢も含めて検討を重ねてきた。
その結果、従来の構想における鉄軌道案を断念。低コストで環境に配慮した「富士トラム」を検討し、実現可能性を見出したという。県は今後、「(仮称)富士トラム」に関して県民に説明を行い、十分な合意形成を図りながら推進していくとのこと。