IFSが切り拓く“産業用AI”の可能性とは? 「IFS Unleashed 2024」基調講演

スウェーデンに拠点を置くエンタープライズソフトウェア企業のIFSは10月14～18日(米国時間)までの4日間、米国フロリダ州オーランドで同社のグローバルフラグシップイベント「IFS Unleashed 2024」を開催している。パートナー企業やユーザー企業などから約3000人が参加し、200以上のセッションが実施される予定だ。

IFSは10月14～18日まで、米国フロリダ州オーランドでグローバルフラグシップイベント「IFS Unleashed 2024」を開催している

15日の基調講演では、IFSのマーク・モファットCEO(最高経営責任者)や、クリスチャン・ペダーセンCPO(最高製品責任者)らが登壇。同社が注力する産業用AI製品のアップデートや同社の今後の戦略について語られた。

モファットCEOは「AIの急速な普及により、産業を革新する大きな機会が目の前に来ている。産業用ソフトウェアの業界リーダーになることが当社が掲げるビジョンだ。これまでは考えられなかった成長の機会を多くの企業に提供していく」と切り出した。

IFS CEO(最高経営責任者) マーク・モファット氏

6つの業界に特化した「IFS Cloud」

1983年にスウェーデンの原子力発電所のエンジニアが創業したIFSは、大手製造業、航空宇宙・防衛産業、通信産業、建設業、エネルギー産業、サービス産業の6業種に特化し、統合基幹業務システム(ERP)と設備資産管理(EAM)、フィールドサービス管理(FSM)、サービスライフサイクル管理(SLM)の4領域の製品を1つのプラットフォームで提供している。

米国、北欧、南欧、アジア太平洋・中東の4地域で80カ国以上の市場に参入しており、グローバルにおいて6500社以上の企業が同社のソリューションを導入している。2024年上半期(1～6月)の業績は、年間経常収益(ARR)が前年同期比24%増の8億5000万ユーロ(約1381億円)、クラウド収益が前年同期比20%増と2桁成長を続けている。ソフトウェア収益は総収益の82%を占めた。

IFSは大手製造業、航空宇宙・防衛産業、通信産業、建設業、エネルギー産業、サービス産業の6業種に特化したソリューションを提供している

日本市場には1997年に参入し、トヨタ自動車や日鉄スチール、日本航空(JAL)、京セラ、クボタ、OKIなど、日本を代表するさまざまな企業が同社のソリューションを活用している。

サービスの中核となるのが4領域の製品の機能をSaaS(Software as a Service)で提供する「IFS Cloud」。2021年3月に提供開始されたサービスで、顧客は自社に適している機能をベストオブブリードで組み合わせることができる点が強みだ。設計から調達、製造、据付工事、出荷後のサービスまでのライフサイクル全体を1つのプラットフォームで管理でき、クラウドだけでなくオンプレミスでも導入できる。

モファットCEOは「6つの業界に特化しており、それぞれの業界知識の深さが強みだ。ただ単にERPの代替となるソフトウェアを提供しているわけではないし、数年後に倒産してしまうような会社ではない」と強調した。

「IFS Cloud」が提供する各種ソリューションは市場から高い評価を得ている

急成長する「IFS.ai」の実績

同社は、IFS Cloud上で提供する産業用AI機能「IFS.ai」の開発にも力を注いでいる。AIを活用したソフトウェアを実現しており、製品開発や製造、サプライチェーンや現場におけるオペレーションなど、産業の基本的なプロセスをAIで自動化し、改善につなげている。基調講演では、IFS.aiのこれまでの実績や活用事例、新たに追加された機能などが紹介された。

IFS Cloud上で提供する産業用AI機能「IFS.ai」

モファットCEOは「世界中で31万人を超えるさまざまな業界のフィールドエンジニアがIFS.aiを活用して業務プロセスを効率化している。例えば、毎日20億人がIFS.aiが支えるエスカレーターに乗り、2億人がIFS.aiが管理するモバイルネットワークを利用しており、年間3億1000万人がIFS.aiが整備した航空機で安全なフライトを利用している。また、米国のエネルギー関連企業のトップ10社のうち8社がIFS.aiを導入している」とIFS.aiの実績を強調した。

IFS.aiは、生成AIと予測AIの両方に対応しており、プロジェクトレポートの自動生成や、製造における組み立て指示やリアルタイムガイダンスなどを実現している。例えば、航空業界なら、コンプライアンス遵守とリスク軽減のために、不足している必須コンポーネントと期限切れのメンテナンスタスクをAIで自動的に検出してフラグを設定するといった活用が可能だ。

「IFS.ai」の実績

そしてIFSは、業界に特化した産業用AI機能の提供に向け、積極的にM&A(合併・買収)を行っている。2024年1月には製造業や防衛産業に自動化された高速データ分析を提供する産業用AIソフトウェア企業の米Falkonryの買収を発表。同年8月にはAIを活用したエンタープライズ設備投資最適化ソフトウェアを手掛けるカナダのCopperleafを10億カナダドル(当時で約1073億円)で買収した。

Copperleafが提供するソリューションは、意思決定分析を通じて、組織が資本配分を最適化し、リスク管理を効率化できるようにする。同社は世界中で2兆9000億ドル以上の資産を管理している。IFSは同買収を通じて、IFS.aiを活用して資産投資計画機能を強化する狙いがある。

基調講演に登壇したCopperleafのジュディ・ヘスVice Chairは「今の社会は本当に複雑だ。Copperleafは企業が適切な投資を実行できるように支援を行っている。当社の意思決定分析とIFSのソリューションを組み合わせることで、企業はより多くの情報に基づいたリアルタイムの意思決定を行うことができる」と説明した。

IFSが買収したカナダCopperleaf Vice Chairのジュディ・ヘス氏

生成AI「IFS.ai Copilot」で業務効率化を後押し

IFSは年に2回、IFS Cloudの機能をアップデートしている。そして同社は15日、アップデートした「IFS Cloud 24R2」をリリースし、IFS.aiを活用した60を超える新機能を追加したとを発表した。基調講演では、そのうち「Home」と「IFS.ai Copilot」について詳しく紹介された。

「Home」と「IFS.ai Copilot」

Homeは、AIを活用してアップデートされたIFS Cloudのホーム画面だ。プロジェクトの状況をリアルタイムで可視化し、異常があれば自動的に検出してAIが対応策を提案する。プロジェクト分析の時間の削減や精度向上につなげる機能だ。

そしてIFS.ai Copilotは、生成AIの機能を搭載したアシスタント通じて、フィールドエンジニアの意思決定を支援する機能。2024年5月に一般提供された機能だが、今回の機能強化により、これまで以上に組織全体からインサイトを浮かび上がらせることができるようになったという。

「IFS.ai Copilot」のデモ画面。生成AIによるアシスタント機能がフィールドエンジニアの業務効率を高める

IFSのペダーセンCPOは「IFS Cloud 24R2のすべての新機能と機能強化は、IFSの戦略的テーマに基づいている。IFS.aiを活用してサプライチェーンとオペレーション全体から秘密兵器であるデータを解放することで、顧客は運用効率と収益性の両方の観点から潜在能力を最大限に発揮できるようになるだろう」と語った。