三菱ケミカルGが田辺三菱売却へ 繊維事業撤退など構造改革加速

旧三菱レーヨンの「祖業」からも撤退

 三菱ケミカルグループ(筑本学社長)が構造改革を急いでいる。

 グループで医薬品事業を手掛ける田辺三菱製薬の売却に向けて準備を進めていると報じられた。田辺三菱売却に関して三菱ケミカルGは「そのような事実はありません」と否定したものの、「売却を含めたあらゆる選択肢を念頭に置いてポートフォリオ改革を推進」としている。

 足元で、田辺三菱自体の業績は悪くない。田辺三菱が属する三菱ケミカルGのファーマ事業の2024年3月期の業績を見ると、売上高に相当する売上収益は4372億円、コア営業利益(非経常的な要因で発生した損益を除いて算出)は563億円。産業ガス部門に次ぐ利益を稼ぐ存在。

 では、なぜ売却の話が出てくるのか。それは世界で製薬を巡る環境が大きく変わっていることがある。

 化学メーカーが製薬事業を手掛けてきたのは、石油化学などと同じく化学合成で生み出せるという技術的な親和性があったから。それが今の主流は「バイオ」。従来の研究開発とは全く違う世界に入ってきている。

 しかも、世界の製薬大手はバイオベンチャーが持つ新薬の「種」を巨費を投じて買収するなど、投資会社的側面を強めており、医薬の世界の投資金額はかつてとはケタが違っている。製薬各社は今後、開発投資を続けられるかが問われている。実際、三菱ケミカルG社長の筑本学氏は、決算会見の席で、投資費用捻出について「頭が痛い」と率直な考えを述べている。

 田辺三菱はALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬が米国で販売好調であるなど、神経系で特徴ある製品を持つが、先行きを見た時には厳しいということ。すでに同社は希望退職も募集している。

 同じタイミングで三菱ケミカルGは繊維事業からの撤退を発表。旧三菱レーヨンの祖業からの撤退で、これによって三菱ケミカルGで繊維と名の付く事業は炭素繊維のみとなる。

 三菱ケミカルGは11月にも新たな経営計画を発表する予定だが、それを待つことなく、聖域なき見直しを進めている。