パロアルトネットワークスが今年9月、IBMのQRadar SaaSの買収を完了した。「IBM Security QRadar Suite」はセキュリティ・チームが脅威を回避することに特化した脅威検知・対応スイート。パロアルトネットワークスはなぜQRadar SaaSを買収したのか。これにより、何を狙っているのか。また、ユーザーにはどんなメリットがもたされるのか。
米国パロアルトネットワークス PresidentのBJ ジェンキンス氏に、QRadar SaaS買収について聞いた。
顧客、IBM、パロアルトの三者すべてがwin-win-win
パロアルトネットワークスは、SIEM、SOAR、ASM、XDRなどデータおよびセキュリティ運用機能を集約したプラットフォーム「Cortex XSIAM」を提供している。今後、両社はQRadar SaaSのユーザーに対し、Cortex XSIAMへの移行を無償で進める。
ちなみに、契約において、移行のためのファンドを設立しており、IBMはそのファンドを使うという。
ジェンキンス氏は、「今後、セキュリティオペレーション、SOC(Security Operation Center)が変容すると考え、Cortex XSIAMを2年前に発表した。それ以来、XSIAMは成功を収めている。一方、QRadarが大きなシェアを持っていることから、IBMと話し合いを続けてきた」と語った。
話し合いの中で、IBMはCortex XSIAMを革新的な製品と捉え、数十億ドルに及ぶセキュリティコンサルティングの機会があると考え、結果として、QRadar SaaSはパロアルトネットワークスの資産となった。
ジェンキンス氏は、今回の買収により、「QRadar SaaSの顧客、IBM、パロアルトネットワークスの三者すべてがwin-win-win」と説明した。
「QRadar SaaSのお客様は、Precision AIを搭載した革新的なCortex XSIAMを利用することができる。IBMはセキュリティサービス事業の成長を実現できる。当社はCortex XSIAMの顧客基盤を拡大して、成長させることが可能になる。Cortex XSIAMの提供により、IBMのユーザーのSOCのモダナイゼーションを支援したい」(ジェンキンス氏)
IBM watsonxのテクノロジーをCortex XSIAMに活用
今回の買収は、両社のパートナーシップの一環で行われたものだ。今後、IBMはパロアルトネットワークスのプラットフォームをポートフォリオに追加し、セキュリティサービスを強化するほか、パロアルト製品の移行・導入・デプロイに関し、1,000名以上のセキュリティー・コンサルタントにトレーニングを実施する。
なお、オンプレミス版QRadarは、既存のコネクタのアップデート、バグ修正など、引き続き、IBMがサポートする。Cortex XSIAMへの移行を選択したオンプレミス版のQRadarの顧客に対しては、IBMが増分の支払いを受けるという。
一方、パロアルトネットワークスはAI&データプラットフォーム「IBM watsonx」のテクノロジーを「Cortex XSIAM」に活用する。具体的に、IBM watsonxはどのような形で活用されるのだろうか。
ジェンキンス氏は、IBM watsonxの活用について、「2つ考えられる。1つは、IBMコンサルティングを活用して、彼らのAIを生かした形で顧客に価値を提供する。もう1つは、Cortex XSIAMに活用する」と述べた。
具体的には、watsonx LLMをCortex XSIAMに統合して自動化機能を推進するとともに、IBMのwatsonxを活用して、カスタマーサポートを向上させるロードマップを加速するとしている。
「IBMはAIを通じて専門性を持っている。連携により、銀行向けの不正に対応するモジュール、製造業ならサプライチェーンに対応したモジュールを載せるといったことが可能になる」(ジェンキンス氏)
また、ジェンキンス氏は「IBMはコンサルティングを通じて、業界やソフトウェアについて深い知識を持っている。QRadarの買収によって関係性が深まった」とも語っていた。
顧客は買収に対しポジティブな反応
どんなによい製品に無償で移行できるとしても、使い勝手も運用管理の形態も変わるので、それなりの手間は伴うはずだ。IBMのQRadar SaaSはこの買収をどう考えているのだろうか。
ジェンキンス氏は、「われわれはCortex XSIAMに対し、大きな投資をしている。Cortex XSIAMを知っているIBMの顧客は『すぐにでも移行したい』と言っている。また、Cortex XSIAMを知らない顧客は『Cortex XSIAMについて知りたい』と言っており、ポジティブな反応が得られている」と語った。
また、IBMの顧客は、パロアルトネットワークスとIBMが提携することで、IBMコンサルティングの信頼が守られることを喜んでいるという。
今回の買収がセキュリティ業界に与えるインパクトについて聞いたところ、ジェンキンス氏からは、以下のような答えが返ってきた。
「SOCのトランスフォーメーションが大きなトレンドと考えている。Cortex XSIAMの利用が増えることで、ポイントソリューションが減り、可視性が高まり、運用プロセスが改善される。最終的なベネフィットとして、脅威をブロックできるようになり、顧客のアウトカムがよくなる」
脅威、攻撃は増えているが、セキュリティ業界の未来は明るい
ジェンキンス氏に、今後の展望について聞いたところ、次のように話した。
「残念なことに、現在は攻撃者が多数いて、脅威は増える一方だ。AIの力を使って攻撃者もパワーを付けており、攻撃が増えている。ただ、将来は明るいと思っている。なぜなら、われわれはきめ細かなサポートを提供しており、プラットフォームのための投資も行っている。顧客をよりセキュアな状態にできると考えている」
さらに、ジェンキンス氏は未来が明るい理由として、同社がネットワーク、クラウドプラットフォーム、Cortex XSIAMに投資をすることで、セキュリティの運用管理の効率性が向上することを挙げた。
ジェンキンス氏は「これからもプラットフォームに投資を続ける」と述べた上で、「同様にローカルのお客様のサポートも重要であり、われわれは日本のお客様のサポートに注力している」と語っていた。