インターネットイニシアティブ(IIJ)は9月17日、IoTセンサーやアプリなどを活用したスマート農業の取り組みに関する説明会を開催した。同社は2017年に静岡県で開始した水稲栽培のスマート農業技術実証事業を皮切りに、北海道から九州・四国地方まで全国各地の自治体で農業IoTの取り 組みを推進している。

スマート農業技術活用促進法が制定

IIJ IoTビジネス事業部 副事業部長 兼 アグリ事業推進部長 齋藤透氏は、「当社がスマート農業に取り組んでいることはあまり知られていないが、いろんなことができるようになっているので、今日はそれを網羅的に説明したい」と述べた。

  • IIJ IoTビジネス事業部 副事業部長 兼 アグリ事業推進部長 齋藤透氏

齋藤氏は、スマート農業に関する最新のニュースとして、スマート農業技術活用促進法を紹介した。農林水産省は、同法について、「農業者の減少等の農業を取り巻く環境の変化に対応して、農業の生産性の向上を図るため、「スマート農業技術の活用及びこれと併せて行う農産物の新たな生産の方式の導入に関する計画(生産方式革新実施計画)」と「スマート農業技術等の開発及びその成果の普及に関する計画(開発供給実施計画)」の2つの認定制度を設けるもの」と説明している。

齋藤氏は、米不足を例に、スマート農業の役割を説明した。例えば、「高温や雨不足による一部地区での不作」に対しては、異常気象が続く今、平年値が意味をなさなくなっていることから、気象データや圃場でのセンシングデータを活用することが重要になってくる。また、「稲作農家の減少」については、水管理の自動化、ドローンによる散布など、スマート機器の導入による生産性を向上することで対応できる可能性がある。

ただし、スマート農業の導入にあたっては、コストや費用対効果、産地での機器やノウハウのシェアリングなどの課題があるという。

LoRaWANを用いたスマート農業システムを開発

IIJのスマート農業の最初の取り組みは、水田センサー「MITSUHA」だ。「MITSUHA」は2016年から開発が開始、「3年かけて開発したが、簡単ではなかった」と齋藤氏は述べた。

現在は、「スマート農業システムMITSUHA」として販売している。その特徴の一つが、LoRaWANを用いた無線を採用している点だ。これにより、通信料金なしで無線通信が行えるほか、水田センサーのみならず、自動給水弁やハウス内環境センサーなど、さまざまな機器を接続することができる。

「より安価に使ってもらうため、LoRaWANを用いた無線を採用した。屋外で使うニーズに応えられるなど、いろんなことができるようになっている。今後は、水稲以外の用途での活用も計画している」(齋藤氏)

  • IIJのスマート農業の今後の方向性

愛媛県でみかん・里芋・アボカドにまつわるスマート農業実装検証

同日、2023年度より参画している愛媛県の地域課題解決プロジェクト「愛媛県デジタル実装加速化プロジェクト(トライアングルエヒメ)」に今年度も引き続き採択されたことが発表された。昨年8月より開始したみかん栽培の品質・収量向上を目指すプロジェクトに加え、里芋の収量安定化、愛媛県で生産農家が増えつつあるアボカドの生産技術向上に向けたスマート農業の実装検証を開始する。

昨年度の実装検証では、温州みかん産地の愛媛県真穴(まあな)柑橘共同選果部会において、経験と勘に基づいて行っていた土壌の乾燥状態の判断と灌水(かんすい)オペレーションの最適化を目的として、みかん畑240ha全体をカバーする LoRaWANネットワークと120台の土壌水分センサーによるデータ分析基盤を構築し、土壌水分データの可視化を実現した。

  • みかん畑に設置した土壌水分センサー(送信部)

  • 真穴地区に構築したLoRaWANネットワークの概要

齋藤氏によると、みかんは乾いていると糖度が増すことから、適切な水ストレスをかけることが重要だという。そのため、土壌管理が行えるよう、土壌水分データの可視化が行われた。

昨年に収穫したみかんだが、糖度は13度と十分だったが、サイズは小玉であり、過去にない状況だったという。また、実証の成果として、齋藤氏は「生産者の意識が変わった。判断にデータを使っていくべきというマインドが浸透してきた。今年度もデータを使って判断するシーンが増えていると聞いている」と説明した。

120台のセンサーでも一部の地域しかカバーできていないため、今後、台数を増やす計画だという。

里芋栽培では、同じ圃場で栽培を繰り返すことで生育不良となって収量が落ちてしまう「連作障害」を防ぐため、圃場を毎年変更する必要があるという。そこで、里芋栽培の実装検証においては、圃場(土壌の状態)が変わってもブレが少なく正確な水分を計測できる水ポテンシャルセンサーとLoRaWANネットワークを組み合わせたデータモニタリングを進める。

国産アボカドについては生産ノウハウが不足しているため、データの蓄積と活用が必須になっている。そこで、農業指導センターの実証園地と生産者の園地計3カ所にセンサー類を設置し、愛媛CATV のLoRaWANネットワークを活用してデータ収集を行い、アボカドの品質や収穫数等との関連性を分析する。